シンタローのサボり癖は余り知られていない


幹部しか入れない上層部に総帥室があることも理由の一つではあるが、
シンタローは身内と伊達衆以外の団員にはあくまで『総帥』として
接するため、心棒者は増えてもその実態に触れるものが居ないのが原因だ


無論、コタローの部屋は最上階なのでそれを見られることも無い



だからシンタローの理不尽な振る舞いもサボリ癖も行き過ぎた暴力も
余り知られていない、それを咎めて返り討ちに合うのはアラシヤマの役目だ









と、キンタローは考えていた
つい先ほどアラシヤマがシンタローにこう提言するまでは










「な、シンタローはん海行かへん?」
「行く」














驚いたのはアラシヤマの影の無い笑顔でも、普段口うるさく小言を言うか
気持ち悪くシンタローに纏わり着いて自分を睨みつけるアラシヤマのサボリの
提案などではなく、0.2秒で即答したシンタローの態度だった






















突き刺さる君の視線抉り取る君の言葉





















呆然とするキンタローを尻目に、アラシヤマは机の上にある内線に
手をかけコージに連絡を取り伊達衆を呼び出し始めた


精神的ショックにより鈍る体を動かしてシンタローに説明を求めた


今のは何だ。と
普段あれほどお前のサボり癖を口うるさく咎めては眼魔砲で伸され、
10回に1回はキレて奥義で応戦してスプリンクラーを発動させるアラシヤマが
何で自らサボりを提言するのか。まだ仕事は残っているのに


それよりもシンタローは少し機嫌が悪いだけでアラシヤマにタメ無しで
眼魔砲を撃ったり虫の居所が悪いと言っては書類を提出しにきただけの
アラシヤマに首輪をつけて犬以下の扱いをしてそこらへんを引きずり回したり
そもそもアラシヤマが隣にいようものなら卒倒しそうなくらい怒気を振りまいて
のに







「ああ、あれ。愛情表現」








そんなあくびをしながら棒読みで言われたところで
納得出来るはずもない


立ち上がってばさりと総帥服を脱ぎ始め、アラシヤマがごそごそと
取り出した私服に着替えている



「…シンタロー…」
「なんだよ、何微妙な顔してんだ」
「シンタローはん、水着あっちで着替えます?それとも着て行きはる?」
「着てく」
「へぇ」
「…とりあえず今のやり取りは見なかったことにする、仕事はどうする気だ?」
「帰ってきたらわてがやりますわ」
「…………そうか」



水着を着るために寝室へと入ったシンタローを見送ってから、
改めてアラシヤマに向き直った
ここからガンマ団のプライベートビーチまではそう遠くないが、
団内から出ることには変わりない。それなのにアラシヤマの手の荷物
には例のデッサン人形が無かった






「トージ君は持っていかないのか?」
「気安く名ぁ口に乗せんなや」






訂正、いつも通りだ



その時内線が鳴らなければそのまま冷戦が勃発したかもしれない
小さく舌打ちを残してアラシヤマが内戦を取る
キンタローはやれやれと息をついてこれ以上此処にいては色んな意味で
危険だと判断し、早々に立ち去ろうと書類をまとめ始めた



「シンタローはん、他の皆さん来れん言うてますえ!」
「ああ?まぁいーや二人で」
「そうどすな」



こんな会話聞きたくなかった
キンタローはふらふらとした足取りで出口へと向かい、
『とっとと出て行かないと殺す』くらいの威力はありそうな
アラシヤマの視線を背中にばしばしと受けて退室した


水着の上に薄い上着を羽織ったシンタローが出てくると、アラシヤマは
手荷物を持って三歩後ろについた


「キンタローは?」
「耐え切れなくなって消えくさったわ」
「…あっそ」


まぁいいかとシンタローは会話を切り、総帥室の真横にあるロビー直結
エレベーターに乗り込み、アラシヤマも後に続いた
途中、何人かが乗っては降りていったが、あきらかにこれから海に行きます
と行った二人の様子、というよりはその二人が口論もせずに普通に雑談を
していることに慄いて終始青ざめてた


ロビーにつけばアラシヤマが車を回してくる、と小走りで掛けていった


待つ間にシンタローは近くの喫煙室に向かうが、海ファッションか総帥様の
威厳がはたまたその二つの相乗効果か、中に居た全員が固まってしまった


面倒くさいと思いつつも総帥顔は崩さずにタバコに火を付けるが、
やはり格好のせいで傍目にはおかしく思えるらしく、何人かが俯いて
肩を震わせ始めた




「あ!シンちゃんだシンちゃーんッ!」




最初の一吸いもしないうちに、長い金髪とデカいピンクのリボンを揺らし、
馬鹿オーラ全開で手を振りながら歩いてくるグンマが見えた



「あ、何そのカッコ!海行く気!?」
「あーキンキン声で騒ぐなうっせぇ」
「僕も行く!誰と行くの?今車待ちでしょ?キンちゃん??」
「ガキがおめーは!ちょっとは落ち着けッ」
「キンちゃんと一緒じゃ海なんか許されないか、んじゃ津軽くんに援交持ちかけたの?」
「…違う」
「鼻血垂らしながら言わないでよ、もう。じゃーどん太くん?伊達衆は仕事だろうし」
「どん太じゃねーな、伊達衆だけど」
「え、何仕事サボらせて車出させんの?アラシヤマに怒られるよっ」
「言いだしっぺやしそんなことしまへん」



いつのまにか後ろに立っていたアラシヤマに、グンマが大仰に驚いて
振り返る。また増えた大幹部に、喫煙室内の平団員だちはこそこそと
視線を逸らすかがちがちに緊張してタバコを吸うことも忘れているようだ


「え、アラシヤマが行くって言ったの?」
「そうどす」
「えー!めっずらし!!ね、ね、僕も行きたいっ」
「ドクターがええ言うたら」
「やたっちょっと待っててね!」


だかだかと掛けていったグンマを見送り、シンタローに手招きされて
喫煙室内に入るが、余りの空気の濁りように顔をしかめ、軽く咳き込む、
がそれを見た団員だちが一斉にタバコを擦り消し、一呼吸もおかないままに
換気扇が回された


少し呆気に取られながらアラシヤマが礼を言うと、皆一様に首を壊れた
おもちゃのように縦にぶんぶんと振って再び座った


改善された空気にふう、と息をつきシンタローの隣に座れば、火のついていない
新しいタバコを咥えて揺らしてみせられた
手を見ればガスの切れたライター、総帥に火を貸したいと思う団員は大量にいても
言い出す勇気があるものは居なかったらしい


「火ぃくらい借りたらよろしいやろ」


自分から言い出せずとも言われればライターごとくれるだろう、と
指先から炎を立ち上らせて言えば、至極当然といった態度で返された


「お前が居んのに?」
「…シンタローはん今日やけに甘いわぁ、胸焼けおこしそ」
「ねー高松行っても良いってさっ!」
「あら、ドクターはついて来ぃへんの?」
「貧血だってー。あ、カメラ貸してもらったよ!ほら!」
「おら、とっとと行くぞ」


相変わらず高松の変態思考回路にさして疑問を感じないグンマに
苦笑を送ってから、どうせ水着姿でも収めさせる気で渡したであろう
カメラのフィルムをこっそり抜き取った。


車へ向かおうとシンタローとアラシヤマが立ち上がると、
向こうから大きな籐のかごとビーチパラソルを持ったキンタローが
少し疲れた顔で歩いてきた


「あ、キンちゃんこっちこっちー!」
「…グンマはん、キンタローも誘ったんでっか?」


明らかに荷物持ちなのはキンタローの状態を見れば解るが、
先ほど総帥室で憔悴して出て行ったのに何故此処にいるのか、と
アラシヤマは疑問に思うが多分グンマのお願いを断りきれなかったんだろう


「ほな行きまほひょか。ああ運転はキンタローな」
「ぇ」
「なんぞ文句でもあるんか、われ」
「…別に無い」


余計な波風は立てたくない、とキンタローは車のキーを受け取って
シンタローの元へ走り去るアラシヤマを見、不思議そうに自分を見ている
グンマの手を引いて車へと向かった









シンタローと一緒にいれば下がることは無いと思っていたアラシヤマの機嫌は、
運転席に乗り込んだキンタローに続いて助手席に腰を下ろしたシンタローと、
道中のおやつ代わりに高松に持たされたメープルシロップがたっぷりかけられた
死ぬほど甘いアイスクリームを横で頬張るグンマのせいでドン底まで落ちてしまった



シンタローの手前顔は何も知らないものが見たら見惚れただろうが、
こめかみに浮いた青筋をバックミラーで確認してしまったキンタローは
目的地まで一言も話さずにいた










後半へ
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て、ことで海話。後半はキンタローが少しかわいそう?
な気がします














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