海に着くやいなや車から準備体操もせずに走り出していったシンタローと
グンマの首根っこを捕まえ、一通り体を解させてから改めて送り出した。
どこかのネズミ会社のキャラが大きくプリントされた浮き輪を大の大人が
取り合う二人にやれやれ、と思いつつアラシヤマは車に戻ってきた


「ああもう本当に子供なんやからあん人らは」


後部座席に放置されたままの荷物を手に取り、トランクを開けてパラソルと
かごを取り出してキンタローに渡す


「海でそのカッコは無粋やないの?」


急な誘いもあってかキンタローはスーツのままだ
当然外は暑いので上着は脱いでいるが、それでも額には汗が浮かんでいる


「なんぼご自慢の空調言うたかて、こないな所じゃ意味ありまへんなぁ」






だから、なんでこいつはこんなに機嫌が悪いんだ



















突き刺さる君の視線抉り取る君の言葉


















ざくざくと穴を掘ってパラソルを深く突き刺し、出来た影に
シートをばさりと敷く。手荷物の中から日焼け止めを取り出して、
キンタローに投げつけると、ばさりと服を脱いでその場に座った


「背中、自分で塗れへんし」


お前、俺が気に入らないんじゃなかったのか



キンタローの叫びは心の中に留まることとなり、頼まれれば断れない
性格をグンマによって作り出された身では大人しく乳液状のそれを手に取り、
背中に塗りつけてやる他無い


元々日の光を浴びる属性では無いせいか、アラシヤマの肌はパラソルの影
の中でもぼんやり浮き上がるほどに白かった。軍人らしくないその肌に
手を置けば、死人のように冷たいのが不思議だった


「暑くないのか」
「は?」
「冷たい」
「あぁ…そないに驚く事かいな」
「炎を操るから熱いかと思った」
「ほー」


さして興味もなさそうに、アラシヤマは今度は浮き輪を取り出して
膨らませ始めた
キンタローは少し落ち込みながらもそこはお気遣いの紳士、車内
ではシンタローとグンマが居たが、今は二人だけ。なんとか場を持たせようと
会話の糸口を見つけるべく躍起になっていた。水着はいつの間に着たんだとか、
何でそんなに機嫌が悪いのかとか、そもそも何故自分に対していつも冷たいんだとか


「ちょお、手ぇ止まっとる」
「あ。すまん」


いつのまにか思考に没頭していたらしく止まった手を咎められ、
キンタローは慌てて作業を再開した


遠くからぎゃあぎゃあと喚くシンタローの声と、きゃあきゃあとはしゃぐグンマの声
ばしゃばしゃと水をかけあって海辺を走り回っている
相変わらず話題を見つけ出せないキンタローは手早く塗り終わってアラシヤマを
シンタローの元へ送り出そう、と完結した


「何してんの?」


思った矢先にグンマが戻ってきた
忘れ物でもしたのかと口を聞こうとしたが、寸前グンマの甲高い歓声に
遮られて呆気に取られた




「きゃー!アラシヤマってばキンちゃんに日焼け止め塗って貰ってんのっ?!」




浮き輪からは口を離さずにアラシヤマが小さく頷くと、
更に大きく高くグンマの歓声があがった




「やだやだもう恋人同士みたいっ!恥ずかしいー!!」
「何言うとんの、こん人は」





呆れたように返してから、アラシヤマは膨れ上がった浮き輪を持って立ち上がった
ぎゅむぎゅむと空気の入り具合を確認し、キンタローに投げ捨てるように
礼を言うとすたすたとシンタローの居る海辺へと歩いていってしまった


日焼け止めでべたついた手をそのまま、取り残されたキンタローは
女子中学生のようなグンマの会話についていかなければならなかった



















「シンタローはん」
「お、イチャつくのはもう良いのか?」
「けったいな事言わんでおくれやす、わてはシンタローはん一筋!」
「にしてもキンタローまで来るとは思わなかったな」
「無視どすか…まぁ、グンマはんに頼まれたら嫌とは言えへんでっしゃろ」
「あ、魚居る」
「…わての存在無視せんといて!」
「よしよし、解ったたっぷり構ってやる」
「ぇ」



にやりと笑ったシンタローに寒気を覚えたアラシヤマが逃げる間も無く、
視界が空で満たされたと思ったら、次の瞬間には波間に揺れる光で溢れ、
最後には自分の吐き出す気泡で潰れた


混乱して波打ち際だと言うのに両手足をバタつかせ、びしょ濡れになって
顔をあげると乱れる息の合間にシンタローの笑い声が聞こえてきた
持っていた浮き輪は自分が立てた波で沖に流され、取りに行こうとした足を
またすくわれた



「学習能力のねぇ奴!」



ばしゃばしゃと駆けていく音、ざばざばと波を分ける音
どうやらシンタローは泳いで逃げるらしい
そっちがそのつもりなら、とアラシヤマが炎をだして周りの水だけ蒸発させて
素早く立ち上がれば、随分遠くに行ったシンタローがひゅう、と口笛を吹いた


「もう少し沈んでろよー」
「もうちょぉわての人権あってもええんとちゃうッ!?」
「もうちょっとどころかお前の人権は皆無!」


ゲラゲラと笑いながら沖へと向かうシンタローはアラシヤマの浮き輪を
波打ち際に投げ返し、再び泳ぎ始めた
砂にまみれた浮き輪を海中にさらして綺麗にしたあと、ざばざばと深みへ
向かって足を向けた


時々絡みつく海藻を一々払ってい追いかけているうちに、その海藻が浮き輪に張り付いた
無地の浮き輪に一点だけの緑が映えて、何となく周りでゆらゆら浮いている
海藻も乗せてみた。緑が増えて涼しげに思えた


なんとなく楽しくなっていまい、シンタローを追っていたことも忘れ
浮き輪を引きずりながらそこら中にある海藻を両手に鷲づかみにして
浮き輪の上へと盛り上げていく





数十分もすると波打ち際から中ほどまでの海藻は一掃され、
ほぼ全てがアラシヤマの浮き輪の上に円を描いて存在していた
何かをやり遂げた達成感がアラシヤマを更なる深みへと誘ったのかは解らないが、
どうせなら沖まで行ってこれをバラまきたいと、浮き輪の海藻を思い立った


沖で素潜りをしているシンタローにこの海藻を全部ぶっかけて緑色の総帥を
拝んでみたいものだが、そこまでしたら自分の命が危険に晒される、と
とりあえず沖へ向かうことにした


何も無い海底に、海藻を投げ込もうとしたところで肩を掴まれる



「…あ」
「あ、じゃねぇよ何やってんだ」
「ええと…何でっしゃろ」
「………………………………………お前な」



べちゃべちゃと海藻が浮き輪から滑り落ちて海中へと沈んでいく
言葉だけ聞けば感動しようのないことだか、深い青の中に沈んでいく
日の光を受けて輝く緑は純粋に綺麗だった


そしてこの海が遠浅ではなく、その海藻が背後に立ったシンタローの
足へと纏わり着かなければ、それはアラシヤマの心の中に収まるだけであったのに



「だぁああああッ!気色悪ぃ!!」
「ひぃっ」
「なんだこれは、てめぇの趣味か!?均等に浮き輪に海藻盛り付けやがって!
挙句沖にまで持ってくる意味が解らねぇ!そんなに海中に沈んでいく様に」
 見とれてんなら同じ目にあわせてやっから力抜け!」



言うな否やシンタローの手がアラシヤマの頭を下へ向かって押し付けるが、
どうやら突発的な叫び声に驚いただけらしいアラシヤマは平然と、体勢を立て直した
予想以上の抵抗にあってお互いの筋肉がみしみしと言いはじめ、一歩も
譲らぬまま数分が過ぎた



「とっととしーずーめッ!」
「ぃいーやーどーすぅうう!」




引きつった笑みを交し合い、一瞬の隙をついて間合いをとって睨みあう















「相変わらずだねーあの二人は」
「ああ、仲の悪い」
「何言ってんの、最高に仲良しじゃない。なんてったって『心友』だし!」
「最後の発言にはあえて突っ込まないが、仲良しとは何故だ」
「ん、解らない?」
「口論をしているだろう」
「愛情表現でしょ」



シンタローと同じセリフを、曇りの無い笑顔でやんわりと言い切られてしまうと
そうなのかと納得しかけるが、なんとか踏みとどまってもう一度波の中で騒ぐ
彼らを見やる


単純な腕力勝負でアラシヤマが敵うわけが無く、先ほどの均衡状態はとうに
崩れ去り今はシンタローによって引き摺り下ろされそうな水着を必死に押さえて
いるところだった。また腕力勝負に持ち込む辺り学習能力が無いのかと言いたくなる


「あーシンちゃんセクハラー」


けらけらと笑うグンマにますますわけが解らなくなる
眉間に皺を寄せて考え込むキンタローに、グンマがまた笑った


「すっごい考えてるねーこーゆーのは考えても解らないと思うよ」
「…あいつらは、恋人同士なのか?」
「あはははは!それも良いねぇー。あ、お父様は怒るかなー非生産的な!って」
「…………………」
「本人たちも解ってないんだからキンちゃんが理解出来なくても良いんじゃない?」
「でもお前は」
「なんとなく解るだけーシンちゃんが結婚してもアラシヤマがトージ君と添い遂げても、
 絶対変わらない気がするあの二人」


にこにこと笑いながら言うグンマの表情は兄のそれであったが、
キンタローは収まらない眉間の皺をたたえてシンタローとアラシヤマを見続けていた
アラシヤマがざぶりと大きな水柱をたてながら下半身を海中に沈めた。
どうやら軍配はシンタローにあがったらしい。遠めにも解るほど赤い顔をしたアラシヤマが
叫ぶのを無視してシンタローが脱がせた水着を沖に放る


「色々と飛び越しちゃったんだよ、あの二人」


友達とか恋人とか家族とかね
付け足して微笑むグンマはなんとなく解るだけといいながら、全てを理解して
見守る兄の表情をしていた



「どうせ今日だって二人で示し合わせたんだよ。アラシヤマが言えばキンちゃん混乱するの解ってるだろうし」










「え」


たっぷりと間をおいてからキンタローが声を漏らす
突発的な出来事に弱いキンタローの脳はすぐにオバーヒートを起こし、
更に深い皺が眉間へと刻まれる。グンマはその眉間の皺を伸ばしてからもう一度微笑んだ


「…そういえば、元から水着を着ていた…」
「だろうね。あ、確かめるなら帰りは二人で後部座席に乗って寝たふりしよう」
「何?」
「どうせ上手くいったとか話だすよー」





それからしばらくして、ようやく水着を取り返したのかすこし拗ねた表情をしている
アラシヤマが遊びきって満足気なシンタローの三歩後ろを歩いて戻ってきた
落ちてきた夕日で海全体が赤く染まる中、キンタローは荷物をまとめて車へと
乗り込んだ。もちろん、グンマとともに後部座席へと


帰りはアラシヤマが運転するのかと思えばその役目はシンタローになり、
アラシヤマは助手席へと乗り込んだ


本当のところを確かめるとはしゃいでいたグンマは遊んだ疲れからか
早々にキンタローの肩を枕に本当に寝こけてしまった。結局ずっと
スーツのまま荷物の番をしていたキンタローは精神的にこそ疲れはすれども
肉体は全く疲れていなかったため、二人の目を欺くために目を閉じても眠気が
襲ってくることは無かった






だがしかし今思えばその時無理やりにでも意識を手放しておけば良かったのかもしれない
耳から入ってくる会話は正常な脳細胞を侵すのに十分な威力を持っていた
目を閉じているからだろうか、聴覚が過敏になってそれが助長されている



「やー今日は上手くいったな」
「わての手柄どっしゃろ?」
「は、よく言うぜ」
「息抜き、出来ましたやろか」
「おう」
「褒美はあらへんの?」
「特別に休みでもやろうか?」
「そないな褒美嬉しないわ。いけずせんといて、もぉ」
「俺もつけるけど」
「…ほんなら夜だけでよろしおす」






ああ、車が止まる。赤信号にでも引っかかったんだろう
途端に聞こえてくる布ずれの音、くすりと漏れるアラシヤマの笑い声
何事か囁くシンタローの声


キンタローは固く目を閉じた


続けられたアラシヤマの言葉が中途半端に途切れる
小さく聞こえた吐息と、ぴちゃりと響いた水音











キンタローは、意識を手放した








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被害者:キンタロー

また甘オチですよー…何故?
海でアラシヤマがとった海藻行動はリースウェルが海で
絶対やる行事です。

書きながらアラシヤマが電波みたいだと萎えましたが
そういえば自分の恒例行事だと気づいてさらに萎えましたよ!


ガンマ団で洞察力1位はグンマ。2位はアラシヤマ。
どこまでもNo.2。少し萌える


ちなみにタイトルはキン→アラのイメージ?
カプじゃなしにコンビとして好きです。


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