朝起きて適当な食事を胃に流し込んで、
昼まで読み返しすぎてボロボロになった雑誌をまた読んで、
昼食をやはり適当に口に放り込み、あとは酒を飲んで翌朝まで過ごす


好き勝手に怠惰に過ごせる日常もこうも平坦だと飽きが来る
しかも此処は雲の上、見えるのは真っ青な空と終わりの見えない白い床のような雲


退屈な日常に刺激を持ち込むのはいつだって我らが獅子舞様だ





「おめーら花火やっぞ!ってことで京美人攫いに本部に向かえ!」
























六色の光花火





























唐突にやってきた特戦部隊の飛行船に、各部署へ非常事態を想定して備えるようにと
連絡が回る。新総帥との意見の衝突により特戦部隊がガンマ団を離脱したのはつい一週間前、
いまだ緊張感は拭えるはずも無く、ハーレムを出迎えた団員は厳重武装までしていた



ガンマ団から離脱しても前総帥の弟、と言う肩書きは着いて回るらしく、
眼前に整列する団員たちは皆敬礼をし立っていた。しかし一様に見ない顔、
ハーレムに対する余計な畏怖を減らすために血筋しか知らない新人をわざわざ集めたのか、
総帥様のお気遣いが痛み入るとハーレムは口元を歪めた



自分の対応のためにあてがわれたのは、ガンマ団総帥でも無く目的のNo.2でも無く、
いつも気難しい顔をしている生まれて間もない大きな赤ん坊だった





「ハーレム、いきなり何だ」





言葉使いはきっと高松とグンマが教えたのだろうが、かなり年上の
叔父の名を呼び捨ては無いだろう


「キンタロー、ハーレム叔父様と呼びやがれ」
「どっちでも良い。何の用だ」
「…高松の教育の賜物だな」
「ありがとう」
「褒めてねぇ!」


何も解っていない様子で首をかしげる甥に少し頭痛を覚える
眉根を寄せたまま自分の発言の何処がおかしかったのか真剣に考える
キンタローを見て大げさにため息をついてから、飛行艇の入り口付近で
控えているマーカーを目で呼んだ



途端ビクつく新人たちを心の中で軽く嘲り、
自分の隣で歩みを止めたマーカーに笑いかける



「やれ」
「承知しました」



ふ、とマーカーが片腕を宙にあげればビクついていた新人たちがわたわたと
銃をこちらに構える。くすくすと笑うマーカーは指先から青い炎を立ち上らせ、
蝶の形に揺らめかせて前方へと放った


混乱した新人の銃弾が蝶へと向かうが、ひらりひらりとそれを交わし
蝶は奥へと向かう。



「…アラシヤマに用ならそう言え」
「言ったところで連れて来るのか?」
「用件による」
「2,3日貸せよ」
「…仕事が溜まっている」
「アラシヤマの?」
「…………」


気まずそうに口を噤んだ甥の頭をわしゃわしゃとかき回す
予想通りの展開のようだ。以前のロッドの報告通り、総帥様のお手伝いをしているらしい
なんとか調整しているキンタローも相当疲れているようで、
いっそこいつも連れ去って強制的に休ませてやろうかとも考えるがそれはそれで
心労が溜まりそうなのでやめることにした。


アラシヤマとキンタローが休んだところで、あのマジックを支えた秘書が2人も残っているのだ
甘そうな名を持つあの二人の現在の職はマジックのお守りなのだから、数日くらい
仕事を肩代わりした方が二人にも良いのだろうが。


しかしシンタローは一日に一度はお気に入りの玩具(アラシヤマ)で遊ばないと
気がすまないらしく、それもまたキンタローの頭痛の種らしい


「シンタローもアラシヤマを鬱陶しいと言いながら居なかったら居なかったで不機嫌なんだ」
「んとにガキだなアイツは、成長しろっての」
「だからアラシヤマを連れて行くのは勘弁してくれ」
「…ああ、そうだアラシヤマは今から病気な」
「…………何?」



目の前でにやりと歯をむき出しにして笑うハーレムに、少し遅れてキンタローが
問い返す



「アラシヤマは今から過労と肺炎併発して休み」
「…シンタローがそれで納得するとは思えないが」
「『団のトップが病人をどうするつもりだ、自重しろ』とでも言っとけ」
「……声マネはいらない」
「あ?似てなかったか」
「いえ、非常に似ておりました」
「だろぉ?マーカー」


げらげらと豪快に笑うハーレムの横で静かに笑うマーカーを見て
キンタローがわけも無く疲労を感じていると、ふわりと目の前を
蝶が舞った。赤く揺らめく蝶はキンタローを通り過ぎてマーカーと
ハーレムの周りをくるくると回り、ふわりと消えた


それを見ていたマーカーの表情が少し険しくなる



「なんだって?」
「馬鹿弟子はシンタロー様に捕まっているらしいですね…ああ、そこに」
「あん?」


マーカーが険しい表情はそのままに、指差す先にには赤い軍服を
纏った総帥・シンタローとその脇に抱えられさめざめと泣きながら
デッサン人形に語りかけるアラシヤマ


長引いた話に待機命令を無視して飛行船の扉から顔を覗かせるロッドとGも、
長時間は見るに耐えない光景に口元を引きつらせている
それはハーレムとマーカーも同じで、どう声をかけようかむしろこのまま
立ち去りたいと思いながらも当初の目的を思い出して必死にその場に立っていた


ただキンタローだけがまたか、といった表情でそこに居た



「シンタロー、どうした」
「この馬鹿が『お師匠はんと花火どすぅ〜v』なんてくるくる踊ってるから」
「…声マネはいい」
「ふふ…細部まで完璧に表現してくだはって嬉しおすぅ…」



床に落とされるように下ろされたアラシヤマはデッサン人形を置いて
いよいしょ本格的に会話を始めた。相手の言ったことをいちいち反芻
しているあたり自分が異常だと認識しているのか、それともデッサン人形が
友達だと言うことを周囲に自慢したいのか微妙なところだ


「あ、そうだ叔父さん」
「…あ?」


久しぶりに、更に磨きのかかったアラシヤマの奇行を目の当たりにした
ハーレムは少し呆けていたようだ。シンタローの呼びかけに意識を取り戻せば
昔自分が兄に悪戯をしかける時と同じ笑顔でこちらを見る総帥様が居る


「花火、団内の中庭でなら良いぜ」
「何だよお前もやる気か?」
「当然、日本の夏は花火だろ」



言うが早いか、キンタローが集めた新人たちを労って解散させ、
ぶつぶつと幸せそうにデッサン人形と会話をしているアラシヤマを
今度は肩にかついだ


その光景を見て思うところがあったのか、マーカーが陽炎を
立ち上らせながらシンタローに近づき、アラシヤマを剥ぎ取り
床に投げ落とした。聞こえてきた鈍い音と上がらなかった悲鳴は
関知せず、そのままだらりとした腕を引きずって隊長の下へと戻る


「隊長、お言葉に甘えましょう」
「…あー…意識飛びそうだぞ、アラシヤマ」
「ご心配無く。気付けは出来ますので」


心配したのはそこでは無いんだが、と
頭に血が上っているせいか微妙にズレた答えを返す部下を見下ろす
いつのまにか鬼のようなオーラを背に引きつった笑顔を浮かべながら
アラシヤマの足を引っ張っているシンタローを複雑な心境で見ていると
だかだかと駆けていくロッドと、それに引っ張られるG


お先に、と投げ捨てられた言葉は巻き起こった風に紛れ
聞こえなくなる



「あのやろ、上官の指示仰げっての」
「全くです。お離しください、シンタロー様。弟子の不始末は私の不始末!
気に入らないと言うなら今すぐ引き取りましょう、ええ引き取ります!
 鍛えなおします!」
「お前らはもう縁切ったはずだ、いい加減子離れしろよ!これはもう俺の所有物
 なんだよ!俺のために生きて俺のために死ぬんだよ!今更手ぇ出すな!」
「…」



反射的に返された言葉は全くもって状況に合ってはいず、
シンタローと交わされる視線は火花を伴い見ている者の背筋を凍らせる
放っておけばいつまでもやっていそうな二人の頭をがっしと掴み、
何事かとこちらを見上げる隙も無く渾身の力で持ってぶつけ合わせる





「「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!」」







ふらふらと体勢を立ちなおすシンタローは痛みのせいか呻き声をあげてこちらを
睨んできた。マーカーも痛みに声をあげないよう意地になっている


「んのクソ叔父・・・」
「ケンカすんじゃねーよガキども」
「隊長!私まで一緒くたにされるのは心外です!」
「俺らの目的は花火だ、ということでマーカー売店まで行って買って来い」
「…承知しました」


しぶしぶながらも隊長の命令に逆らうわけにはいかず、勝ち誇った
ような笑みを浮かべるシンタローを視線で射殺せないものかと睨みつけ
立ち去るマーカーを見送って、ハーレムは小さくため息をつく


こうして本部に戻るとどうしても甥たちを前に叔父らしく振舞って
しまうせいでいつも疲れる。無意識下で行われるそれは防ぎようもなく、
アラシヤマのことが無ければ此処には近寄りたくなかった


とうのアラシヤマは床でへたり込んだままデッサン人形を抱きしめて
今にも気絶しそうな顔色だ



「アラシヤマ、無事かぁ?」
「ふふふ…お友達がいっぱいどす…ふふふ…」
「おいコラ戻ってきやがれ!花火すんぞ!」
「花火…ハーレム様…線香花火…やりたいどす…」
「それはシになッ!まずは打ち上げ花火だろ!」



ハーレムに抱き起こされながらなんとか顔色を正常値まで
戻したアラシヤマが背後に真っ黒いオーラと青白い人魂を纏って
嬉しそうににこりと微笑むが、眉間に皺が寄っていては整ってはいる顔が台無しだ


ところどころ青くなっている体をさすり、骨をごきごきと鳴らし、
謝ろうともせずに不満そうな顔をしているシンタローの三歩後ろにつく


「キンタロー、あんさんはどないするん?」
「いや、俺は研究室に篭る」


大事な実験があるんだ、と立ち去るキンタローの表情に覇気は無い
この状態で精神に異常をきたさない方がおかしいのだが、また
自分の意思で立っているあたりさすが青の一族と言ったところか
そう思うと先ほどシンタローが新人たちを解散させたのは得策と言える


通路の真ん中を胸を張って威風堂々と言った様子で歩くシンタローの
背後をシズシズと、いや陰々欝欝と歩くアラシヤマは時代が変われば
良き妻になったかもしれない。
根暗で引きこもりな上根本的な性別が間違ってはいるが




とりあえず今日は馬鹿騒ぎのために京美人を攫いに来たのだ
多少計画変更はあったとしても結果は良好なのだから、
余計なことは気にしないでおこうと自分に言い聞かせ、
ハーレムは二人の後を追った












後編へ





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相変わらず意味が解りません、特戦花火とか言ってたくせに
新生ガンマ団まで混ざっています。


ハーレムは第2のパプワ島に来るまで少しは叔父さんらしくしてたと思う。
完璧にはじけたのはパプワ島で。4巻のキンタローの発言は無視の方向で。



青の一族で一番純粋で優しいのはハーレムだと思います。
他はどっかイっちゃってる人たちだけど、ハーレムは聖域でした(過去形)


リッキーマウスなんて作って…!

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