ばらばらとマーカーの掌から様々な花火が零れ落ちる
お徳用花火と色モノを手当たり次第に買い込んできたので量はかなりのものだ
中庭の中心、燃えてしまうような草の無い平地の上で
色とりどりの花火が交じり合う


ぎゃあぎゃあと騒ぎながら派手な彩色の花火を手にとっては
笑うハーレムとロッドを横目に、マーカーが手にしたのは黒い
ホワイトボードにくっついてそうな磁石のような塊。


何故か花火を髪に指してロッドと爆笑しているハーレムの足元に
それを置き、指先に火を着ける





「マーカーちゃん、何それ?」







じゅ、と炎を吹き出す黒い塊から次に出たのは
これまた黒い塊。しゅうしゅうと音を立てながら蛇のように
うねって地面を這う





「蛇花火だ」




















六色の閃光花火



















景気づけにと打ち上げ花火から始めようと思っていたハーレムは
もこもこと黒い塊を吐き続ける様を見つめてにやにやと笑う部下を
見て、他の部下も見る


ロッドは必死にいつも通りを装いながらぐちゃぐちゃになっている花火を整頓している
Gの横で作業を手伝っている
アラシヤマは少し離れたベンチに座るシンタローにタバコの火を
貸しており、運よく師の可愛そうな姿を見ることは無かった




となれば当然残ったハーレムはマーカーの相手をするしかなくなる





「…マーカー、もっと派手なのやろうぜ」
「何を言うのです、これほど趣のある花火はそうありませんよ」
「何処かだよ、むしろウ○コだろそれ」
「!」


調子を取り戻してきたのか片手を腰にあて、残った手で燃え尽きた
蛇花火を指して言う。黒く細長い形状の、蛇花火がひねり出した塊を
足で踏むと案外簡単に崩れ、それを見たマーカーの表情も崩れる


よろり、と芝居がかった動きで体をわなわなと震わせるマーカーは
酒が入っているのかと周囲に思わせるほど彼らしくなかった


「ハーレム様…貴方にお仕えしてどれくらいになりましょうか…私は…私は…」
「…おーいアラシヤマーおめぇの師匠おかしいぞ!」
「貴方が私の理であり生きる意味なのです…ああそれなのに…貴方は私を否定なさると…?」
「おーいアラシヤマーお前ら実は師弟じゃなくて親子なんじゃねぇ?」


頭の螺子を落とした、いや脳みそを誰かと交換してきた勢いのマーカーを
なんとかしてアラシヤマに押し付けようと話を振るが、視線を合わすものの
虚ろな目で首をゆっくり横に振るので埒が明かない。微笑む形に引き上げられた
唇の端から滴っているのは血だろうか?


この会話を聞いていれば当然Gとロッドもなんらかの反応を示すと思って
声をかけても、二人はピクリともしない。手元は動いているので寝ているわけでも
現実の重さに耐えかねて命を絶ったわけでもなさそうだが、ロッドが風使いである
ことを思い出す。


真空状態とまでは行かなくともこの会話を聞かないくらいには風を調整したのだろう、
音は空気の振動で伝わるなんて誰が決めたんだと理不尽な苛立ちがこみ上げる




「私の肉体以外は全てハーレム様によって構成されたのです、その私を否定なさると?」
「もうそろそろ落ち着けよお前」
「ああ、ああ!貴方に否定されるのは生きる意味を否定されたと同じこと!」
「頼むからもう落ち着いてくれッ!」
「いいえ、貴方が生きていることが私の存在する意味…そう、貴方と私は一心同体!」
「…………マーカー……」
「ああ申し訳ございません、身の程を知らぬ発言を!私は貴方の手足であり道具でございます!」
「…もうはうれ馬券と一緒に報告書破きません、ちゃんと仕事するので戻ってきてください…」





精気を根こそぎ吸い取られたように覇気の無い言葉を吐くと、それまで
機関銃のように放たれていたマーカーの声が途絶えた。
やっと戻ってきたか、とハーレムが安心しきって顔をあげるとそこには
般若と菩薩が混じったような形容しがたい笑顔を浮かべているマーカーが





「そうですか、その言葉お忘れ無きよう。もし違えたら滅多に無い当たり馬券ごと燃やします」












その言葉を理解するまで数分、そしてマーカーの真意を知るのに更に数分
見事に謀られたハーレムはその場に崩れ落ちた
どうしてこう脈絡の無いところで自分を貶めるのか、いや脈絡が無いから
こそ簡単に騙されてしまったのか。その奇行は弟子から学んだのか?


怒ることも忘れたハーレムの頭の中に空しい疑問がぐるぐると回る




マーカーはそのままシンタローとアラシヤマの居るベンチに向かうと、
隣り合う二人の間の微妙な隙間にするりと座った
途端アラシヤマには聞こえない小ささで舌打ちが鳴ったが、マーカーには
十分過ぎるほどに聞こえる。邪魔者を見るような目で自分を見つめるシンタローに
様々な嫌味をたっぷり込めた笑顔を送ってやるとその目の中に火が灯った錯覚に
陥る


「ふふ、青の一族は単純で面白い」
「ハーレム様可哀相やわ」
「あの方が仕事ないとしわ寄せは私に来る、だから正当防衛だ」
「ロッド兄はんとかGはんとかは手伝ってくれまへんの?」
「ロッドはやらせれば人並みに出来るが集中力が皆無、Gは真面目すぎて細部にも手を抜かないから時間がかかる」
「はぁ…」




向こうではもう花火は始まっている。
いきなりロケット花火が十数本四方八方に飛び出したと思えば、
続いて小さな打ち上げ花火が連続であがる


「ちょっと隊長普通の花火やんのは良いけど俺に向けないで下さいよぅ!」
「あ、何尻に挿して欲しいって?いやぁ見上げた根性だ、さぁ脱げ!」
「全然人の話聞いてない!おいG助けろよ!」
「…熊の花火があったぞ…」
「いやぁああ!上司に犯されるッ!」


裏返った声で悲鳴をあげて走り出すロッドを花火を手に握り締めた
ハーレムが追う。助けを求められたGは早速熊の花火に火をつけた
と言っても子供用の大きめの持ち手のところに熊が描いてあるだけなのだが。


幸せそうなGに恨みがましい視線を送りながらズボンにかけられた
ハーレムの手を必死に振りほどいて再び逃げる






「…叔父さん、50の大台ももうすぐなのに…」
「では、もう少し活力を注いで差し上げましょう」
「は?」
「何しはるおつもりで?」
「これだ」


言ってマーカーが懐から取り出したのは4色のざらついた球体だった
そこから飛び出している導火線に次々と火をつけ、ぐるぐると走り回っている
ロッドとハーレムの足元に投げる


え、と小さくロッドが声をあげるのと同時にその球体から煙が噴出す
もくもくと上がっていく煙はその玉に着けられた色と同色だ


「ああ、煙玉どすか」
「そうだ」
「また変なもんを…」


色の着いた煙を体に纏わり着かせ、ハーレムがげらげらと笑い始めた
目の前に突っ立っているロッドも今まで逃げ惑っていたことも忘れ、
雄たけびを上げて濃い煙を体で散らす。それに触発されたのかハーレムまでも
そこら中を小回りに駆けて煙を散らし、あたり一面あっと言う間に靄がかかったようになる


花火が早々に終わってからも持ち手に描かれている熊を見つめて幸せに
浸っていたGは煙に包まれても微動だにせず、相変わらず熊を愛でていた


マーカーはその様子を見てくすくすと笑い、胸元から新しい煙玉を取り出して
手当たり次第に点火し、期待した目でこちらを見ている二人に放つ


「すげッ!この煙ピンクだぜぇー見てみて隊長っ」
「ぎゃははは桃色か!」
「桃色です!」
「ピンクだな!」
「ピンクです!」



意味不明な会話を繰り返しながらくるくる走り続ける中年二人の横を
素通りし、シンタローは花火を一掴みして戻ってくる。
それとは入れ違いにマーカーがGの元へと行き、隣でごそごそと花火を漁る


手に握っている花火をベンチに置き、どかりと座るとアラシヤマが
花火の一つを手に取った



「おい、いきなり線香花火かよ」
「ええやないの。一緒にやりまひょ」
「…火」
「へぇ」



差し出した線香花火にちりちりと小さな炎を当てると
閃光が線になって弾けた。


「なんや今日はえらい久しぶりに皆さん集まりましたな」
「そうだな」
「花火、許してくれておおきに」
「…ふん」


照れを隠すためかシンタローがふいと俯いて線香花火を見つめる
もう弾けるような閃光は消え、落ちる夕日のような玉がじりじりと
燃えている。


それから何を話すでも無く、玉が下に落ちても二人は無言のまま
座っていた












「なんかいーい雰囲気だねー。ね、マーカーちゃってアッチぃ!!」
「馬鹿弟子がぁああああ」
「…子離れしなよぅ。離脱んとき縁切られたでしょ?」
「煩い!いっそ貴様が花火になれ!蛇炎流!!!」
「やっぱりーーッ!」
「熊…可愛いな…」



ぎゃあぎゃあと騒ぎながら堂々と野次馬になってもこちらを
見ようともせず幸せそうに微笑むアラシヤマと、そっぽを向いたまま
タバコをふかし始めたシンタローの何かがマーカーの逆鱗に触れたのか
彼の機嫌は最高潮に落ちていた


「大体二人から離れたのはマーカーちゃってアツ!またこのパターン!?」
「口は災いの元と言う言葉を知っているか、低脳イタリー」
「申し訳ございません」





ごうごうと音を立てて火柱をあげる青い炎と、それに巻かれて
空高く舞い上げられるロッドを見てハーレムはげらげらと笑う
















「いいねぇ、俺の周りは馬鹿ばっかで」













4日後に遅れてきた筋肉痛に年を感じて沈み込むことも
予想してないハーレムの表情は晴れ渡っていた





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痛々しいオチだ。
隊長、若く無いんだから…
ちなみに風使いだからって空気の振動云々は出来ないと思います。
おもいき捏造です。スルーしてください!


ちょっと遅くなってしまって待っていてくださった方には申し訳ないです。
そんなこと一言も言われてないけど、申し訳ないです。
可哀相じゃないです

2004.08.14up
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