12月に入ってから数日経った頃、観測史上初なのでは無いかと誰もが
思うような大雪が降った。暗い色のアスファルトは目も眩むような白い雪に
覆われ、代わりに空が重いアスファルト色に変わってしまっている。


空のアスファルトは視界を塞ぐほどの雪を降らせて、休むことなど考えていない
ようだった。





空だって馬鹿の一つ覚えという言葉を知るべきだ。
朝方からずっと、太陽を遮っているせいで時間が流れる感覚は薄いが
降りしきる雪はガンマ団本部を外部から隔離してしまっている。







ホワイトクリスマスを望む奴らを部屋着のままこの寒空に放り出して妙な
幻想から放り出してやりたい。








物騒なことを考えながら、アラシヤマはすっかり温くなったコーヒーを啜った













































果ての無い徒競走

















































幹部クラスの執務室が集まる階層は完璧な空調設備のおかげで寒さに縮こまる
こともなく、窓の外を見て凄いなぁ、と呆けるだけで済んでいたが一般階層は
そうもいかなかった。


各部署で一斉にヒーターを入れたため一時的に電気回路が麻痺し、頼れるのは上から
漂ってくるほのかな暖気だけになっているのだ。





「寒ぃ…なーティラミス、空調設備見直した方が良いんじゃない?」
「馬鹿言うな。予算が圧迫されて俺のズボンが無くなったらどうする!」
「いやハーレム様もう居ないんだし、ってか何その思考回路」
「ショート寸前なんだ」
「微妙なギャグは良いから。むしろギリギリだからッ」





今度ヘマをやらかしたら月に代わってお仕置きされちゃうかも、と青ざめながら
必死にツッコミを入れる。本人は至って真面目にやっているから性質が悪い。
それくらいじゃ無いと新総帥の秘書など正気でやっていられるはずも無いのだが。


マジック様とどちらがマシだろうかと不毛な考えを巡らせながら廊下を曲がって
休憩室に赴くと、そこにおよそ似合わない人物が不機嫌そうに目を細めて座っていた






「アラシヤマさん、何故此処に?」






表向きは総帥直属の伊達衆の一人で、所属は事務局の彼は本来幹部階層に居るのが
普通だ。それなのに此処に居るということは、新総帥から雑務でも押し付けられたのか
と邪推していまう。



振り返ったアラシヤマの顔が不機嫌そうな顔ではなく眠そうな顔になっていたのが
せめてもの救いだ。どうやら理不尽な仕事を請け負って逃避に走ったわけでは無いらしい。




「あんさん見てたらあんまん食べとぉなってきたわ」
「それは貴方が俺をチョコマンと呼んでいるからですか」
「いや、なんかあんまんって間抜けみたいなイメージあらへん?」
「…もういいです」




前言撤回、彼は油断が禁物程度には機嫌が悪いらしい。理由は全く解らないが









「あ?何してんだお前ら」









ぶるぶると震えるチョコレートロマンスの代わりに振り返ったティラミスが
見たのは、先ほど確かに仕事をするようにキツく言っておいたはずのシンタローで。
しかも口から出たのは自分たちの行動を疑問視する言葉だ。


そっくりそのまま返してやりたいが、何よりも自分の身が可愛いのでとりあえず
にっこりと微笑んだ。



それが悪かったのかは解らないが、シンタローの背後から人影がぞろぞろと出てきた。
シンタローの監視をしているはずの副官と機密研究の真っ最中のはずの博士が揃って。




大きなリボンを揺らしてた博士が跳ねるように歩いてアラシヤマの隣に座った。





「やっぱりこっちは寒いねぇ。キンちゃん、こっちにも空調完備しよっか」
「グンマのお菓子代を減らすか?」
「過酷な環境で鍛えるのも一つの手だよね」




にこりと笑って話を終わらせた彼に何か黒いものを感じながら、
それでも表情には出さずにいた。隣でいまだ青いを顔をしている同僚の背中を
ぽんぽんとあやすように叩いてやりながら。



グンマとキンタローの妙な次元で交わされる会話が終わったと思えば、
今度はシンタローとキンタローが無言で会話を始めた。
威圧的な視線は互いに向けられているが、時折ぽっかりと開いたアラシヤマの
隣の席に移ったりもする。





それを見ていたグンマが見せびらかすようにアラシヤマの腕に絡みついた。






「「あ!」」






同時に叫ぶシンタローとキンタローが弾かれたようにお互いを見る。
酷く解りやすい人たちだが、傍観している側としては少し鬱陶しい。そのうち
八つ当たりもされそうだから早々に決着をつけて欲しいというのが本音だが、
目の前の暴君にはそんな思いを吐露するわけにもいかなかった。




焦るかと思ったアラシヤマは意外にも冷静で、グンマの腕をあえて振り払うわけでも
無く、すっかり冷め切ってしまったコーヒーの入った紙コップをくるくると
回した。


それを見ていたシンタローが痺れを切らしたのか、足を踏み出す。
が、一寸の差でキンタローが素早くアラシヤマの隣に腰を下ろした。



「あ、てめぇ!」



キンタローをアラシヤマから引き剥がそうと伸ばされた手が、びくりと止まった。
秘石眼が煌々と光を放っている。まだ眼魔砲を打つことに慣れていないとは言え、
副官に吹っ飛ばされてしまったら情け無いし、かと言って先手を打って何もしていない
彼を黙らせるわけにはいかない。



今この状況をどうこう出来るのはアラシヤマだけなのだが、彼は窓の外を見て
ぼんやりするだけで。




先程まで好奇心からか動こうとしなかった他の団員はアラシヤマの周囲から
流れ出した冷たい空気に気圧されてそそくさと出て行ってしまった。
これで仕事に戻れば良いが、震えていてまともにペンを握ることは出来るだろうか



チョコレートロマンスも震えは収まったらしいが顔色は真っ青だ。




「ああ、そうだ総帥。お仕事は?」
「此処は休憩室だろーが」
「…」




言いたい事は解るのだが、そんなに堂々とサボり宣言をされてはかえって
対処に困る。いつもみたくあれこれ理由をつけて抜け出したならまだやりやすいが



今のこの状況も良く解らない。
アラシヤマが誰からも嫌われているようでいて割りとシンタローの寵愛、と言っては
少し気持ち悪いがとにかく執着されていたのは周知の事実だ。が、キンタローの
アラシヤマに対する行動は此処最近現れ始めたものだ。

グンマは、まぁ元から物事を引っ掻き回して楽しむのが好きそうなので大して驚きはしない。




此処でアラシヤマをシンタローに引き渡したら仕事に戻ってくれるだろうか。
その前にキンタローに力ずくで阻止されてしまうだろうか。お気遣いの紳士が昔荒れていた
のは間近で見ているからどうにも一歩踏み切れない




「シンタロー、お前は仕事があるだろう。戻れ。ティラミスたちに迷惑をかけるな」
「俺の仕事はアラシヤマがやる予定だから安心しろ」
「それはアラシヤマの迷惑になるから駄目だ。アラシヤマはこれから俺とお茶だ」
「あ、僕も!美味しいマフィンを高松から貰ったんだv」
「グンマ、お前はラボに戻れ。高松経由の物が如何なるものでも信用しねぇぞ俺は!」




繰り返される押し問答に辟易するのは何もティラミスだけでは無かったらしく、
中心でそれを一身に浴びていたアラシヤマの表情が徐々に険しくなっていく。



この場を収めるためにはキンタロー側についてアラシヤマを献上、身を削ってシンタローの
仕事に付き合うのが一番の得策だ。








「と、言うことで私達はキンタロー博士側につきますので、総帥は仕事にお戻りください」









内心の動揺を悟られないように無表情で言うよう勤めたのに、真っ青どころか顔色が
ほぼ無くなっているのでは無いかと思われるチョコレートロマンスが叫び声をあげてしまった
せいで台無しになってしまった。



ティラミスの肩をがくがくと揺らすチョコレートロマンスはきっと先ほどの発言に
自分も含まれていた事に抗議しているのだろうが、アラシヤマがあからさまにホッとした
表情をした事の方が問題だ。





「てめぇアラシヤマ何ホッとしてやがんだよ!」
「何言うてますの、目の前で騒がれて迷惑やったんどす」
「お前がこんな所まで休みに来てるから悪いんだよ!俺の目の届く範囲で休みやがれッ」
「子供みたいな事言わんといて!」





子供と言うより独占欲と自尊心が規定値を振り切っている恋人に近いと思っても
口に出すわけにはいかず、ティラミスは小さくため息を吐いた。
苛立ちに任せて勢い良く立ち上がったアラシヤマがグンマとキンタローの手を
引っ張ってスタスタと歩いていく。



シンタローが追いかける事が出来ない事を見越した上での判断は賢明だと
思えるが、怒りのせいだろうか周りへの配慮が欠けている。
ようは残されたティラミスとチョコレートロマンスの処遇を考えていないのだ。





いい加減チョコレートロマンスも震え疲れてぐったりしてるし、
背中に哀愁と怒りを背負った総帥に早く処分を言い渡して欲しいものだ。











「…仕事に戻るぞ、手伝え」












出てきたのは意外にも人の上に立つ者として普通の答えだった。




それを聞いたチョコレートロマンスがパッと顔を輝かせて抱きつくのでは
ないかという勢いで総帥の横につく。
哀れな同僚には見えていないのか、総帥の頭から禍々しくそびえる黒い悪魔の角が。
あくまでイメージだが、絶対生えていると思うのに。





























































「…こないな所に…」




キンタローとグンマとのお茶会も終わり、シンタローのご機嫌取りもしっかり
こなしてきたアラシヤマが呆然と呟く。
後足を一歩前に踏み出せば団内の中庭だ。夕方から出てきた風は更に強まり、
一寸先は見えないほどの猛吹雪。それなのに遥か前方には何故かデスクが二つ。



「あああああ…」
「うるさいぞチョコロマ、黙ってやれ」
「ひいいいいいいいい」
「うるさいと言ってるだろうが!」



向かい合わせに設置されたデスクで黙々と何かを書き続けるティラミスと
それどころでは無いチョコレートロマンスに雪が積もっている。
唇は紫色の口紅を塗ったかのように酷い色をしている。そのうち漫画のように
氷漬けになりそうだ




「ああ、アラシヤマさんお疲れ様です」
「ティラミスはん…」




何故か一人だけ帽子・マフラー・コートと重装備で作業をするティラミスが
淡々と声をかける。秘書暦の長い彼の事だからこうなることをどこかで予想
していたのだろうが、同僚にはなんの恩恵も与えていないあたり彼らしい。



「総帥は?」
「ああお二人に戻るよう伝えろ言うてましたわ。お疲れさんどした」
「アラシヤマさんこそお疲れ様です。さ、戻るぞチョコレートロマンス」
「…………………」



どこか遠くを見つめたまま笑い続ける同僚の返事など期待せずに両足を
持って引きずるティラミスに苦笑する。
あの暴君に振り回される側、せめてもの労いにそばによって炎を出すと
チョコレートロマンスの顔色が少しずつではある色味を帯びてきた気がする。



膝下まで雪に埋もれながら館内に戻って雪を落とす、あっと言う間に廊下が
白くなってしまった。




「大変やねぇ、チョコマン生きてはる?」




落ちた雪が水になって廊下を汚す前に炎を繰り出して一瞬で気体に返しながら
アラシヤマがチョコレートロマンスの顔を覗き込む。











ティラミスはそれを見ながら気付かれないようにため息をもらした。



余計な接触を持たなければ理不尽な処分も軽くなると思ってこうなった訳だが、
この光景を見たらシンタローは何と言うか。
今まで自分がアラシヤマを独占していた事も忘れて顔を真っ赤にして怒るのは
目に見えている。



それでも此処に総帥が居るわけでは無いから良いか、と思いながら
ティラミスはアラシヤマに介抱されている同僚を足で軽く蹴り上げた





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15000HITありがとうございました!鎖夜様のみお持ち帰り可です。



どこらへんが争奪戦なのか自分に問い詰めたい所ですが
勝者はティラミスです。シンタローかキンタローを期待していらしたら申し訳ないです。


冬なので雪にからめて、との事でしたが冒頭少し私怨が入ってしまいました。
実際窓を開けばもっさり雪が積もっています。



こんなものですがお受け取り下さい、ありがとうございました!


2004.12.05up
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