人がゆっくりと時間をかけて覚えていくことをほんの数ヶ月で
覚えたのは賞賛すべきだろうが、それを応用出来ないのは仕方無いとは
言え周りの頭痛の種となっていた。



それでも最近は恋をしていることに気付いたせいか、そこかしこで
物憂げな表情で窓の外を見つめている姿を見られている。
それが更に大きい頭痛の種となっていることは周知の事実のはずが、
その種に水を与えて芽を出さんとしている者が居るのはあまり知られていない。














それが、キンタローの恋の相手その人だと言うことも























































捨てられたはずの恋の未来
















































「キンタロー、昼に弁当作って来たんやけど」
「本当か?ありがとう」
「卵焼き甘い方がええ言うてたし、今日はちゃんと砂糖入れたんどっせ」
「わざわざ済まない」



正午を少し回った頃の柔らかい日差しを受けてキンタローが嬉しそうに微笑む。
ふふ、と声を出さずに笑ったアラシヤマが持っていた弁当を差し出し、キンタロー
に手渡す。


落ち着いた緑のハンカチで包まれた弁当を大切な宝物のように両手に包み込む
キンタローが可愛くなって、ついと手を伸ばして頭を撫でてやるとくすぐったそうに
目を細めた














「よーし、お前らが仲良くなったのは解った。で、何故此処でやる」












さすがにもう良いだろう、とシンタローが二人の空気をぶち破る形で声を発しても、
事態は良くも悪くもならず、現状維持と言う形を取って目の前に現れた。
久しぶりに嫉妬も何も湧かないから見逃してやろうと思っていたのに、自分だけ
のけ者にされると別の意味で嫉妬が湧き上がる。



キンタローに向けているのと同じ笑顔を向けろと言う気は無い、だってあれは
どちらかと言えば恋愛の意味合いでは無く、母親がわが子に向けるような慈しみ
が強い笑みだったから。








「お前はいつキンタローを生んだ事になってんだ」
「何おかしな事言うてますのん」
「高松に脳波を調べてもらおうか?」







自分が変な事を言っているのは百も承知だが、何となくムカつく。
これまでアラシヤマとキンタローが何の企みも無しに意見を合致させる事
なんてありえない。


しかし最近はちゃんとサボらずに仕事をやっているし、アラシヤマに対して
理不尽に眼魔砲を食らわせることも必要最低限、シンタローのイライラが治まる
程度にしていた。その程度ならいつものことだから一々協力する必要も無い。






そこまで考えて、シンタローは自ら墓穴を掘ったことに気付いた。






「お前ら、本気でやってるわけ?」




シンタローを騙すつもりが無いなら残った可能性は、本気でやっているか働きづめの
アラシヤマがトチ狂ったかだ。後者ならまず自分に矛先が向けられるだろうから、
突き詰めるとつまりはそういう事になってしまう



「当たり前やないの。皆はん驚きはるけど」
「そりゃなぁ…」




怒るよりも先に脱力してしまう。



常日頃仲良くしてくれれば最強の手足になりえるだろう二人を微妙な気持ちで
見守っていた身となってはきっと喜ぶべきなのだろう。自分の半身とも言えるキンタローが
アラシヤマに惚れているらしいのはちょっと気に食わないが、その半身に冷たくアラシヤマ
を見ているよりかはまだマシと言うものだ。








「食べて良いか?」
「ちゃんと手洗ったん?」
「あ…まだだ、洗ってくる」








いってらっしゃい、と笑顔で手を振るアラシヤマを見て何とも無しに抱き寄せて
みると、案外簡単に腕の中に納まった。
さぁさぁと水が流れる音を聞きながら、次の行動を考えていなかったシンタローは
無言でアラシヤマを見下ろしかない。せっかく回した腕もどちらかと言えば肩に
手を添えているだけだ



「アラシヤマ、終わった」
「手ぇ拭いたやろな」
「ああ」
「ほな頂きまひょ」



するりと腕から離れていったアラシヤマを納得のいかない表情で見送っていると、
そのまま出て行くかと思った彼がくるりと振り返って不思議そうに手招きをした。
どうやら彼の中では一緒に昼食を取ることになっているらしい。



小休憩用にと、総帥室の片隅に設置されたテーブルを3人で取り囲む。
寄り添うアラシヤマとキンタローの正面にシンタローが座ると言う位置づけに、
更に複雑な気持ちになる



テーブルの中心に置かれた弁当箱にはどちらかと言うとグンマが好みそうな
オカズが栄養を考えた上でバランス良く詰め込まれている。




キンタローの好みと自分の好みは最近になって徐々に変わってきている。
甘い卵焼きは食えない、と小さいハンバーグに行儀悪く手を伸ばすとぴしゃりと
叩き落とされた。











「おいたせんといて!それはキンタローの好物なんやから」










ヒリヒリと熱を持って痛む患部を摩りながら、声を荒げるアラシヤマを見る。
その間にハンバーグはキンタローの箸にはさまれ、あ、と声をあげるまでもなく
口に放り込まれてしまった。



お茶を淹れてくる、とアラシヤマが立ち上がると無言で咀嚼を繰り返すキンタローと
二人きりになってしまう。弁当は一人分より少し多いくらいだから、横から
つまみ食いしなければシンタローは昼食にありつけない。なのに用意されていた箸は
一膳だけ。



ムカつく、と心の中で毒づくとそれが表情に出てしまったのか、声になってしまったのか
は解らないがキンタローが箸を止めてこちらを見た








「…んだよ、早く食え」







アラシヤマのメシは一応美味いんだから、と心の中で付け加える。
何も言わずにじっと見つめてくるキンタローの真意は解らない。
好きにさせとこうかと思ったが、短い昼休みにのろのろと食事をしていては
お互いに困る事になる。




もう一度早く食え、と促そうとしたところでキンタローが微かに口元を引き上げた。




微笑むと言うより、むしろ含み笑いのようなそれ









「…シンタローは、嫉妬しているのか」
「なッ…!」










キンタローから頼りないような、柔らかい表情が完全に消えうせている。
目の前に居るのはただの男でしかない。報われない恋をし続ける、一人の男。






「最近アラシヤマが俺に対する態度が柔らかくなった理由は大体検討がついている」
「あ?」
「同情が大部分を占めているだろうな、アレは。それか母性本能に近い。男だから本能はおかしいか」
「……」
「昔の奴なら考えられない行為だろうが、あの島は人を変える」






卵焼きを口に運びながら淡々の話すキンタローが、シンタローを見てにやりと笑う。
反射的に睨み返すとやれやれと言った様子で肩をすくめられた








「安心しろ。まだアラシヤマはお前の虜だ」
「当たり前だ…なんならもう一度目の前で手本見せてやろーか」
「良い。どうしてもと言うなら本人と」








最後の一つとなった卵焼きをゆっくりと噛みながらキンタローは絶えず
微笑んでいる。砂糖をたっぷり使ったその卵焼きが、アラシヤマがキンタローに
対して甘ったるい感情を有している様で酷く焦燥感に駆られる。



アラシヤマに限って今更追いかける背中を変えることも無いだろうが、
隣で歩む存在はこれからいくらでも出てくる可能性はあるのだ。
キンタローの言ったように、彼は変わってしまったのだから。





































彼の隣にキンタローが寄り添う日が来る前に、自分は後ろを振り向いて
その手を引く事が出来るのだろうか




















起こるとも起こらないとも解らない未来に、シンタローは深く嘆息した





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12555HIT 阿佐見様、リクエストありがとうございました!



今までの流れを汲んだ上で「俺だって負けないから!」と宣戦布告をするキンタローを
がメインテーマのはずが母性本能(本能じゃないけど)アラシヤマのせいで横道に
逸れたりしまったり。



PAPUWA前の4年間でもうちのアラシヤマはキンタローに対して異様に冷たいですが、
きっとそれは息子を甘やかす母親から厳しく躾ける父親に移り変わっていったと
いう言い訳を用意してみました。



擬似親子で報われてどないすんねんとツッコミが来そうですが、アラシヤマは
キンタローを嫌っていないので(うちでは)これからの努力次第です。シンタローも。


リクエストして下さった阿佐見様のみお持ち帰り可です。

2004.11.11up
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