いっそ騒がしいほどの虫の鳴き声の中、アラシヤマは一人
月を見上げていた。もうすぐ十五夜だなんて今日も一人のアラシヤマには
微塵も関係ない。コモロくんもスティックを持ったラッコと気弱なビーバーに
誘われて星の海へと出かけてしまった



これで自分の目に移る月がかつて日本で見たような、せめて
パプワ島で見たようなぼんやり白く浮き上がるものであったら良いのに



今夜の月は、アラシヤマの心情でも示すかのように不吉な象徴として
空に浮かんでいる


































空に浮かぶ
































今年の十五夜は9月28日になるらしいと、心戦組の襲撃のさい一時戻った飛空挺で
キンタローが言っていた気がする。日本は明治5年から太陽暦に改暦してから
毎年十五夜が変わっているらしいが、今年は随分と15日から離れたものだ。



まだその日では無いが空に浮かぶは骸骨を模したような、およそ月とは言い表せない
ものだ。




用意した上新粉が無駄になりはしないかと、アラシヤマは小さくため息を吐く
ため息を吐けば自動的に人魂が周囲に散り始め、十五夜には会わないが今夜の
月には格別に合う空気が作り出される



シンタローのことだから十五夜には月見団子を作ってお供え物をして
ちみっ子たちと一緒に過ごすのだろう。ついでにいびり対象の家政夫も。



思わずぎりぎりと親指の爪を噛んでいると、後ろから勢いよく蹴り上げられる







心戦組の襲撃か、と受身を取りながら炎を叩き出すと、聞きなれた声が
短い叫びとなって耳に入ってきた












「…シンタローはん?」












挨拶の代わりにそこそこ手加減した蹴り技をよこしたシンタローは
悪びれもせず、ぽかんと自分を見上げるアラシヤマの正面にどかりと座った


伸ばされた手は当然のように上新粉に伸び、ごそごそと持参した風呂敷に詰め
始めた。勿論持ち主であるアラシヤマに対して許可は取っていない




「あのシンタローはん、どないしはったん?」
「あー?リキッドの野郎が上新粉使い切っちまってよー」
「…そうでっか」
「おう。練習にどれだけ使ってんだっつーの」




来たる十五夜に向けてリキッドを特訓中なのだろう。4年の間、毎年
パプワ島にも十五夜は来ただろうに何故リキッドが月見団子作りに
そんなに苦戦するのか。


アラシヤマの持ち物をさも当たり前のように私物化するシンタローには
疑問を感じないあたりアラシヤマももう病みきっている




「今回は一体何処に移動したんやろね、あの青玉」
「あーあ全くだ。十五夜までにどうにかなるといーんだけどねな」




心の隅に残っていた良心でもって上新粉を一袋残し、風呂敷の口を縛る
これでもう用は無いと言うばかりにおもむろに立ち上がったシンタローを
声で制すと、少し不機嫌な顔で睨まれた





しかしアラシヤマには止める術が解らない。ぐるぐると回る頭で
必死に引き止める理由を考えるがすぐに思いつくはずも無く、結局
なんでもないと俯いてしまった


両膝の上で肌が白くなるくらいに強く拳を握り、シンタローが去っていくのを待つ






「…?」




いつまで経っても消えない気配にアラシヤマがのろのろと頭を上げると
そこにはまだシンタローが不機嫌そうな表情のまま立っていた


引き止める理由なんて最初から無かったのだから、考えたところで
無駄なのは解っている。それでもアラシヤマの思考回路は理由を探し続けて
目の前のシンタローにまともな対応も出来ないでいる





何かを考えるように目を泳がせ、口を開いては閉じるアラシヤマをしばらく
見つめていたシンタローははぁ、と威嚇するようにため息を吐いてもう一度
その場に座った







「たまにはリキッドにも骨休めさせてやるさ」
「へ…」
「明日の朝ちゃんと洗濯してなかったらぶっ飛ばすけどな」
「…わてと居てくれはるん?」








泣き声が混じったアラシヤマの言葉に、シンタローは答えるでもなく
膝の上に載せていた風呂敷を地面に下ろし、座るアラシヤマの膝に滑り込んだ





頬に落ちる水滴にやれやれと目を閉じる





アラシヤマの顔ごしに見る夜空には不吉な月がその存在を主張している
陰気に自分を照らすその月が少しアラシヤマに重なって見えて、
何を考えているのかと自分の思考に照れて頬を赤らめた



陰鬱な空気を纏って自分を不快にさせるくせにいつでも静かに光を放って
そこに居る。




「お前みたいな月だよな」




思わずついて出た言葉にしまった、と思ってももう遅い
聡いアラシヤマは本当の意味を汲み取ってそれこそ月の光のように
柔らかく微笑んだ


アラシヤマの指が膝の上に散らばったシンタローの髪をさらさらと
梳く。口元は笑みの形のままだ






















「シンタローはんが居るからや」










にこにこと嬉しそうに笑うアラシヤマに、シンタローもつられて
笑ってしまった



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えー前に言っていたシンアラほのぼ…いやラブラブ?ん?

あー月は太陽の照り返しで輝くっつーネタは結構何処でもやってるし
実際自分でやったかも解らないので直接的な表現は避けました


…来月、アラシヤマ出るかな…むしろあのままハジメちゃんと
改めて戦うのかな…


2004.09.16up
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