アラシヤマは俺とキンタローが一緒に居ると酷く荒んだ目をする
隠れていない左目は底なし沼のように誘い込むように鈍く光っている


そしてキンタローはずっとアラシヤマを見ているのだ



その視線が子供のような恋のせいだと知ったらどうなるだろう?

























は失前提の上に成り立つ























「アラシヤマ、お前少し書類整理手伝っていけ」
「え」
「命令、ほらキンタローの隣に座れ」
「…へぇ」



すでに日課のように何かと理由を作って総帥室に出向いてくるアラシヤマを
この場に縫いとめておくのは簡単だ。俺の言葉は針のように彼の身動きを止めるのだから


秘書のために用意した作業用の机、キンタローが黙々とパソコンに向かっている
横にアラシヤマがしぶしぶと言った様子で座る。手には書類の束、視線は
俺に固定されたまま。口元はまだ笑みの形に保たれている




「アラシヤマ、自分の部署は良いのか」
「無駄口叩かんと仕事せぇや」




腹を抱えて笑い転げたい衝動を何とかこらえた


小学生のケンカを目の当たりにしているようだ。いや、中学生の初恋物語だろうか?
アラシヤマを見ていたのはそのままの意味を含んでいたのか
キンタローの顔は面白いまでに赤くなっている。


きっと本人は顔が熱いな、とかそれくらいの認識しか無いのだろう
空調の設定を確認するあたり本当に笑えてくる。大げさにため息を吐いたアラシヤマはにやにやと笑っていた。
執務用机をコツコツと叩いてこちらに注意を向けさせ、同じようににやりと笑えば肩をすくめられた



「大変だなー」
「いけず言わんといてぇな」
「いや、面白いし」
「…それは同意するわ、こんな甘酸っぱいの久しぶりどす」
「あっはっは!」



耐え切れずに腹を抱えて笑い出せば、アラシヤマもくすくすと笑っていた


知識があっても経験は乏しい片割れを笑うのは気が引けるが、
生まれて初めての恋の相手がよりにもよってあの根暗引きこもりのアラシヤマで
しかも自分だけに冷たいとあってはもう笑うしかない。


応援できないのが少しばかり可哀相だが、アラシヤマは俺の所有物なんだから
他の誰にも渡す気は無い。アラシヤマがキンタローだけに冷たいのはなんとなく
しか解らないが、どうせ、俺の隣に居る奴は皆気に食わないんだろう?
コタローやパプワに叶わないことが解っているあたりまだ良い方だとは思うが




空調に異常が無いことを確認したキンタローは不思議そうに首をかしげている
アラシヤマに暑くないかなんて聞いても無駄だ、ああやっぱり冷たくあしらわれた。


今度は胸を押さえて首をかしげている、好きな子に冷たくされて
傷ついたんだろうか?



「ちょぉシンタローはん、遊んでないで仕事しておくれやす」



げんなりした表情のアラシヤマが顔をあげる
あんまりあからさまな顔したら可哀相じゃないか?本人に自覚が
無いから変わらないか。


手元の冷め切ったコーヒーを飲み干し、目を通した書類にぽんぽんと
判子を押していく間にも、何かとアラシヤマに話しかけるキンタローと
ぴしゃりと跳ね除ける冷たい声が聞こえてくる


高松とグンマを呼んで鑑賞会でもしたい



俺の青春時代は男だらけの士官学校で訓練と授業で味気なく流れていった
たまに外に女を買いに行くくらいならあったが、それは恋などではなく
男としての本能を満たすだけのこと


そうして今恋愛よりも結婚を周囲に喚かれる様になった俺の片割れが
思いっ切り青春をしている。一方的にでも若い頃は恋に恋する時期だ、
キンタローの場合は少し特殊だけど





初恋の相手が今まで自分を間接的に閉じ込めていた人の所有物でした、
なんてどんな悲恋だろうか









「アラシヤマ、ちょっとこっち来い」









それでも渡す気は無い
例えアラシヤマと俺が恋人同士なんていう甘ったるい関係じゃなくてもだ


立ち上がろうとするアラシヤマの腕をキンタローが掴む。反射的にやったのか
掴まれたアラシヤマも、掴んだ本人も目を見開いて固まっていた。
多分頭の中で自分の取った行動の意味を探しているのだろう、キンタローは
次の行動に移らない、言葉を発しもしない。


アラシヤマが口元を複雑に歪ませてこちらを見てきた





こんな風に一途に想われたことが無いから嬉しい3割、
やっぱりシンタローはん一筋6割、気持ち悪い1割と言ったところか



「離せやキンタロー」
「…」
「聞いとんのか」



アラシヤマの呆れた声に苛立ちが混ざってきて、それにつれて
キンタローの顔まで崩れてきた。あれじゃあ母親に叱られる子供だ
喉の奥から笑いがこみ上げる、キンタローは一体アラシヤマに何を求めているのだろう


机からがたりと立ち上がり、眉を寄せてキンタローを睨みつけるアラシヤマの
顎を掴み、俺の方に向かせる。疑問の声を発する前にその唇を無理やり塞いだ





目の端で、キンタローがふらふらと後ろによろめいて転んだのが見えた
妙に気分が良くなって唇をこじ開けて舌を絡めれば、意図を汲んだのか
アラシヤマが首に両腕を回してきた


たっぷり5分間、その唇と舌を吸い続けて顔を離すとアラシヤマがにやりと
笑って失礼します、と濡れた唇で言って総帥室の出口へと足を向けた






キンタローを睨みつけるのは忘れない、その濡れた瞳で睨んでも
唾液にまみれた唇でどんな罵詈雑言を吐いても効果は無いだろうが





















アラシヤマの気配が完全に無くなってから、床にへたり込んだままの
キンタローの腕を引っ張って強制的に立たせ、目の前でひらひらと手を振る
意識はあるようだが、ぱくぱくと開閉を繰り返す口を見るあたりまだ脳が
現実についていって無いのか。


「おーいキンタロー?」
「………」
「金太郎くん、キンちゃーん?」
「………」




一体いつまで戻ってこないつもりだろう、ああでも一つ強制的に戻ってこれる手が
あった。
こみ上げる笑いを押さえることもせず、あまり身長の変わらないキンタローの唇に
自分の唇を押し付けて、半開きの口から覗く舌を軽くなぞった


ただそれだけだ、欲情を煽るような口付けはしない



キンタローが緩慢な動作で視線を合わせる。本番は此処からだ、
彼に思い知らせなければならない、あの男は、アラシヤマは俺の恋人では
ないが所有物で、誰にも渡す気は無いのだと。そして、お前はそのアラシヤマに
恋をしているのだと








「アラシヤマと間接ちゅーだぜ、キンタロー」



























途端胸を押さえて真っ赤になり、次の瞬間には苦しそうにうな垂れたキンタローを見て
俺は思惑が成功したのだと悟った









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キンタローがとことん可哀相ですね。
アラシヤマを使って恋と言うものを教えると同時に失恋まで
させちゃうシンタロー。酷い!


キンアラが純粋キンちゃんと、悪い子アラシヤマなら
シンキンアラは桃色片思いキンちゃんと、どろどろ沼色シンアラだと思います

2004.08.17up
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