どかり、と横腹を蹴られる。



慌てて布団から這い出て目を開けると、目を刺すような午後の太陽が見えた。
チカチカする両目を擦りながらふらふらと立ち上がると、パンッ、と小気味いい音を
立てて足を払われ、気付けば床とべったり抱き合っていた。




「なんなの、マーカーちゃん」
「いつまで寝ているつもりだ、仕事を手伝え」
「寝正月にしようと思ったのにー」
「イタリアの正月は1日だけのくせして何を言っている」















































いつもと変わらない不尽




























































時計を見るとすでに午後1時、いつもなら昼食も終わって食器を洗っている頃だ。
ついでカレンダーを見る。1月2日あたりから記憶が無い。今日は4日か5日くらいだろうか。
というか今年はマーカーが隊長にせがまれておせちを作ったはずだった。
正しくはリキッドにせがまれた隊長に、だが。




それを知っていたのかは解らないが、パプワハウスに持っていったお裾分けは
何故か昆布巻きばっかりで、お子様舌のリキッドは処理するのに苦戦を強いられたらしい。













「おせちが残っているんだ。食え」
「…俺の味覚には合わないんだけどな…ってかそれが仕事?」
「肉か濃い味のモノしか食わんのか貴様は。今日から食事は全ておせちにするぞ」
「えぇ!隊長怒るよ!?」
「安心しろ、お前だけだ」










あふれ出しそうな涙を必死にこらえながらごろごろと転がって食卓にたどり着くと、
昼食は終わったはずのGが黙々とおせちを口に運んでいた。



ちらりとマーカーを振り返るが、正月騒ぎで隊長が汚した洗濯物を片付けに行ったのか
すでに姿が見えない。それともおせちを食べるのが嫌で逃げたのだろうか。
重い体を椅子におさめてテーブルにつくと、それに気付いたGが手元にあった未使用の皿に
おせちを盛り始めた。




「ん、取ってくれんの?」
「ああ」
「いくら何でも自分で取れるよぅ」
「駄目だ、お前は出し巻き卵か栗きんとんしか食べようとしないだろう」
「数の子も食うよ」
「…………」
「そういう問題じゃありませんでした、お任せしますー」





覚め切っていない眠気を必死に振り払いながら、Gが淡々と小皿におせちを取り分けるのを
見つめる。だらりと両腕を下げ、方頬をべたりとテーブルにつけるとひんやりと冷たかった。
ごとりと目の前に小皿置かれ、次いで箸が添えられる。









ロッドが起き上がったのを確認してGが再びおせちに箸をつけ始めた。
目の前の小皿には普段どうあってもロッドが食べようとはしないものがたくさん乗っている





「うげー…」
「美味いぞ」
「マーカーちゃんが隊長のために作ったんなら最高に美味しいだろう事は解ってるよ」





Gがお情けで入れてくれた出し巻き卵を一口で頬張る。
自分の分は初日にとっとと食べてしまったから、きっとこれはGの分なんだろう。
しっかり味わって咀嚼しているロッドの口元にGの手が伸ばされる。



ぐに、と口元をぬぐわれてやっと食べカスがついているんだと気付いた。
平然とロッドの口元をぬぐった指を舐められて柄にも無く赤面する。




「恥ずかしい事すんなよな」
「ならちゃんと食べろ」
「口で取ってくれた方が恥ずかしくなかったかもnぎゃあ!」
「!」










顔を赤くしたまま喋り続けるロッドの顔面が勢い良くテーブルに叩きつけられた。
突然の事にロッドは痛みを感じる暇も無いまま顔をあげようともがくが、首を
がっちりと押さえ込まれているために動くことさえままならない。



慌てたようなGの声でやっと拘束を逃れて後ろを振り返ると、すでに人間には
到底出来ない淀んだ色の目をしたマーカーが腕を組んで立っていた。
咄嗟にガタガタと音を立ててテーブルから離れようとするも、イスごとねっとりと
抱きしめられてそれも叶わなくなってしまった。











いつもならあのマーカーちゃんから濃厚なスキンシップ、と小躍りするところだが
背中から伝わる体温は何故かひんやりと冷たく、自分の背後に居るのは本当に
人間だろうかと疑いたくなる。






「G!G!後ろに居るのマーカーちゃんだよねぇ!」
「…ああ…」
「なんで目逸らすの!こっち見ろよゴラァア!」






錯乱して口調が汚くなり始めたロッドの顔色はそろそろ「紙のよう」と評されても
良いくらいになっている。












ロッドの言う通り後ろに居るのは確かにマーカーだが、ロッドが怯えるのも無理が
無いほどの冷気を撒き散らしている。下手に刺激すればGにまで理由の解らない八つ当たりの被害が
いきそうだ。
頼みの綱のハーレムはどうせリキッドのところへ酒をたかりに行っているだろうから、
夕飯までに帰ってくることは無いだろう。もしかしたら朝帰りになるかもしれないのだ。





「隊長が居ないと言うのに貴様はGとイチャラブかッ良い身分だな」
「い…イチャラブ?マーカーちゃんの辞書にそんな言葉無いでしょ、どうしたの?」
「辞書を買い替えたんだ!隊長の一存で!」
「…ごめん、真面目に返されると何も言えない」





淀んだ目の奥に確かな本気の色を見て、ロッドがだらりと力を抜く。
どうすれば良いんだろう、回らない脳を限界まで回して打開策を考えていると、
膝にずしりと重さを感じた。



え、と顔をあげるとそこにはロッドの膝に我が物顔で座っているマーカー。
不安定な膝の上から落ちないように片手はしっかりロッドの首に回されている。
もしマーカーのバランスを崩すような事があれば針で即死のツボを一突きされそうな
雰囲気だ。




「…何がしたいんだ」




げっそりし始めたGの背後に普段はアラシヤマが背負っているような怨霊が
見えるのは気のせいだろうか。
マーカーはそんなGの様子を気にも留めず、足をぶらぶらしながらロッドに箸を
握らせた




「貴様らだけ新婚気分を味わうのは不公平だとは思わんか」
「…えーと…あーん?」
「疑問系にするなぁあッ!甘ったるく言え!灰に帰したいと思うくらいに甘く!」




この島に来てからのマーカーの変わりっぷりはもう他の人格が形成されたというより
むしろマーカーの皮を被った何かが目の前に居るんじゃないかと思わせるほどに
凄かったが、ハーレムへの忠誠心を見るにこれはやっぱりマーカーだとロッドは一人
ごちた。








とりあえず一度目を閉じて心を落ち着かせて、今膝の上に乗っているのは
理不尽で猟奇的な同僚などではなく、ちょっとテンションの高い極上の美女だと脳に思い込ませる。
そうして目を開けて、うすら寒い笑顔を浮かべて希望どおりの最強に甘ったるい声で
囁きながらマーカーの口元に料理を運ぶ



「美味しい?」




答える代わりに満足気に微笑んだマーカーを見て、ロッドは心の中で安堵のため息をつく。
Gの目の前でここまでするのはさすがに忍びないが、命あってのものだ。
ご丁寧につけられた食べカスを舌で舐めとりながら、ロッドは早くマーカーの機嫌が
治ることを祈った。








































その後3時間、マーカーが眠りにつくまで甘ったるい態度を取らされ続けた
ロッドは一目見て解るほど疲弊しきっていて、声を発するのも面倒だとばかりに
ばたりと布団に倒れこんだ。




「うあー…もうイチャラブお腹いっぱい…」
「………………」




そう言ったきり気絶するように眠りに落ちていったロッドを起こして
ほったらかしにされた自分の相手をしてもらうわけにはいかず、Gは諦めて
電気を消して隣の布団にもぐりこむ。






早速夢を見てうなされ始めたロッドの手を握り締め、Gはハーレムの早い帰宅を
願って目を閉じた。











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7日過ぎてるのに寝正月的な小説をupするのはどうかと思いつつup。



うちの特戦はたいてい隊長がリキッドの所へ行ってマーカーちゃんの機嫌が
悪いのが前提で話が進みます。
被害に合うのはロッド、とばっちりを食うのがGです。



真面目なマーカーなんてまともなアラシヤマ以上に書いてない気がします。


2005.01.07up
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