「なぁ、実際どうなんだよお前」
「何のことか解りまへん」
「いや…シンタローさんの事だよ」
「ああ」




年末におせちなど作る余裕が無かったアラシヤマは、リキッドがおせちを
作ったものの余って困っているという情報を耳ざとく聞きつけ、こうして
パプワハウスへとお邪魔して暢気に茶をすすっていた。



病人を放ってくるは気が引けたが、もうすでに完治しているし見計らった
ように沖田が見舞いに来たのでこれ幸いにと出かけてきたのだ。






パプワハウスの扉を叩いて出てきたのは迷惑そうなリキッドではなく、
えらく神妙な顔つきをしたリキッドだった。そこかしこに巻かれた包帯がすでに
痛々しいと言うよりまたか、と感じさせるから恐ろしい。



神妙な顔のリキッドに茶を出され、本格的なおせちと言うより子供に合わせて
作った甘い料理を啄ばんでいる間リキッドはずっとため息をついている





「シンタローはんがどないしはったん?」
「どないって…」





空になった湯のみをちゃぶ台に置きながらアラシヤマが首をかしげると、
リキッドは信じられないといった様子でそのまま突っ伏し、大きくため息をついた。










「お前、シンタローさん捨ててトシさんの同僚と同棲してんだろ?」
「ややわぁ同棲なんて恥ずかしおすぅうッ!」










一瞬にして顔を赤らめたアラシヤマを見て、此処にシンタローが居ない事を
リキッドは心の底から喜んだ












































思惑のの裏

















































アラシヤマが興奮しているせいで蒸して部屋の空気を入れ替えしていると、
唐突に扉が開いた。パプワたちが帰ってきたのかな、と振り返るとそこには
苦虫を噛み潰してそのまま飲み込んでしまったような表情のシンタローと、
人様の家にも関わらず「お帰りやす」などと言っているアラシヤマ



全身の毛が恐怖で逆立つのを感じながら慌てて間に入ろうとすると、
怖いくらいにっこり笑ったシンタローに片手で吹っ飛ばされた。



「よぉ、アラシヤマ」
「今更やけど明けましておめでとうございます。今年もよろしゅうに」
「おう」



あっさり済んだ新年の挨拶に(と言ってもすでに数日が経過しているが)リキッドは
身構えるために顔の前で組んでいた両手を解いた。




てっきりシンタローが今までの自分の態度を棚にあげてアラシヤマを一方的に
怒鳴りつけるとか、有無を言わさず斉藤を殺しに行くとか殺伐とした展開を予想
していただけに今目の前に広がる光景を疑わずにはいられない。




アラシヤマは此処が人様の家だという事を本気で忘れているのか、
台所から新しい茶葉を取り出してきて急須に入れ、さも当然のようにシンタロー専用の
湯飲みに茶を注いで出している。
しっかり「粗茶」と付け足すあたりやっぱり此処が人様の家だと忘れているのだろう。








シンタローが外に行っていた理由である大量のミカンを受け取って
ごろごろと籠に移しながら、それでもしっかり横目で二人を見る。









アラシヤマがまくし立てるようにシンタローに話しかけて、時々小突かれたり
殴られたり本気で眼魔砲を発動準備されている。
いつもなら幸せそうな表情のアラシヤマを見たところで大した感想も浮かばないの
だが、その笑顔がシンタローと話しているからなのかそれとも斉藤と幸せだから
なのかが解らないために妙に気になる。




願わくば家が全壊しました、なんてことにならなければ良いと思いつつ
リキッドは作業を続行した。





「シンタローさんたち、ミカン食べます?」
「南の森になんや泉が出来たんえ」
「へー泉なら魚居ねぇだろうなー」
「川の増水で出来たみたいやし、居るかも解りまへんえ?」
「あのー…」
「んじゃ行ってみっかな、お前案内しろよ」
「へぇ喜んで」





なるべく自然に会話に入ったつもりだったのだが、あっさりと無視され
二人だけの世界はどんどん発展をとげる。このままだと本当に南の森に行ってしまいそうだ。
しかも二人で。先日鬼のような顔をして朝帰りをしたシンタローなど今更思い出せないほど
笑顔で話し続ける二人に、色んな意味で涙がこぼれてきた。




お赤飯でも炊こうかな、と毒された脳みそで考えていると二人が立ち上がる気配がした。




「俺ら南の森に行ってくっから」
「あ…はい行ってらっしゃい。夕飯どうします?」
「いらね」




それだけ言ってアラシヤマとともに出て行ったシンタローを見送って、
リキッドは小さくガッツポーズを決めた。











































「で、だ」
「へぇ」




パプワハウスを出た二人は南の森へなど向かわず、それ以前に綺麗さっぱり笑顔を
消し去って足早に道を急いでいた。別に何処へ向かうでもなく、機械的に。
途中道からは死角になる木陰に入って立ち止まったシンタローに、アラシヤマも同じように
立ち止まった。




「いつまで斉藤を置いておく気だ」
「あぁ…」




樹にもたれかかるようにして座ったシンタローの正面に足を崩してアラシヤマも
座る。先ほどの会話の延長のように切り出された会話はいきなり核心をついていた。
しかしシンタローも怒るわけではなく、アラシヤマも焦るわけでも無い。



アラシヤマはしばし考えたあと、なんでも無い事のように切り出した




「あんなぁ、あの犬侍わてにシンタローはんを裏切らせよう思うとるんよ」
「へーそら無謀なヤツだ」



今日はいい天気ですね、と言われてそうですねと返すくらいに軽い話題の
後のように二人はにっこりと笑った。




「逆に斉藤の方を抱き込めば良いじゃねぇか」
「そうした方が楽なんやけど、なんや洞窟内に監視カメラついとるんどす」





いくらいきなり病人を理不尽な理由で押し付けられて激昂していたとは言え、
敵国の会話を聞き逃すほどアラシヤマは馬鹿では無かった。
素早くカメラを見つけて壊そうかとも思ったが、見られて困るものがあるわけ
ではないので放っておいたのだ。



斉藤が自分を裏切らせようとしているのは心戦組に知られても平気だが、
逆に斉藤が裏切る可能性があれば誰かしらやってくるかもしれない。





「面倒くせぇな…」
「へぇ」
「どうせ斉藤に友達とか言われて邪険に出来ねぇんだろ」
「そうなんどす!わてら友達なんやってぇ!きゃあーッ」





友達、という単語に過剰反応し一気にテンションを極限まであげたアラシヤマに
シンタローがはぁ、とため息をつく。身振り手振りで同居生活を語り始めた
彼に嫉妬しないわけではなく、イライラしながらシンタローは話し続けるアラシヤマの
腹を蹴り飛ばした。



すぐさま体勢を立て直してDVだと怒り始めるアラシヤマを強制的に膝の上に座らせて
顔を両側から押しつぶした





ほぼ条件反射のように目を閉じた彼にシンタローは満足そうに笑ってアラシヤマの唇を塞いだ。
アラシヤマは納得がいかない、といった感じの表情のまま最後の抵抗と
ばかりに唇をしっかり閉じて侵入を拒むものだから、シンタローも少し意地になる。



「アラシヤマ」



一度唇を離して耳元でかみ締めるように名前を読んでやると、観念したとばかりに
アラシヤマの体から力が抜けた。






アラシヤマが自分が裏切ることなど無いとは思っていても、少なからず
不安と言うものはある。
アラシヤマが誰のものかを解らせるために、シンタローはキツく彼を抱きしめた




















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久しぶりに報われたシンタローです。



アラシヤマは今の状況を冷静に分析できるけど、友情云々の話を持ち出されると
途端に阿呆になるような子なのは公式設定ですよね?(目を逸らしながら)



2005.01.05up
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