「ちょっと思ったんやけど、あんさんもう完治してはるんやない?」





洞窟内は寒いから、と頼み込んで出してもらったこたつに窮屈そうに収まって
いる斉藤は目を2、3度瞬かせた。同じようにこたつに身をうずめているアラシヤマの
足に腹を少し乱暴に小突かれて、ようやく何の事か思い当たった








































二兎にわれる者




































「何だよいきなり」
「せやって、この前必殺技出せてたやないの」




クリスマスのあの日、大勢の友達がパーティに来ると妄想している
アラシヤマに馬鹿デカい七面鳥を焼くのを手伝わされた時に、確かに斉藤は
大文字焼き斬りを放った。アラシヤマの炎に負けないくらいの勢いのものを。







「だって手柄立てねーと帰れないし」
「ああ、わての首でも持ってかんとあかんわな」
「そうそう。それよりご飯まだ?」
「今蒸らしてるとこどす。もう食べれまっせ」
「ふーん。何?」
「鶏とごぼうの炊き込みご飯」








そこまで言ってやっとアラシヤマは話を逸らされた事に気付くが、
斉藤は問いただす前にいそいそと台所に向かって釜の蓋を開ける。
と思ったら蓋を叩き割る勢いで閉め、少しばかり青い顔でアラシヤマの居る
コタツへ戻ってきた。



無言でコタツの中央のかごに盛られているみかんに手を伸ばす斉藤の様子が
おかしいのは明白だ。



釜に何かあるのか、と同じように台所へ向かおうとすると斉藤に腕を掴まれた。





「待て待て待てッ」
「何焦っとんの」
「見ない方が良いって!な!」




見るなと言われて見たくなるのは人の性、制止を振り切って釜を覗いてみると、
そこには見知った顔の菌糸類がムーミ○谷の装いで3本ほど生えていた。
薄茶色のはずのご飯はすっかり緑色になっていて、そこかしこから胞子がほわほわと
噴出している。



釜を開けたまま微動だにしないアラシヤマを見てもしかしたら立ったまま
気絶しているのか?と斉藤が立ち上がろうとすると、アラシヤマはあっさり動き出す。




そのまま食器棚に移動して二人分の茶碗を取り出すのを見て、一気に血の気が引いた




「ちょ、それ食う気!?緑だぜ緑!」
「大丈夫やって、コモロくんの親戚やもん」
「何その信頼!アラシヤマ、ちょっと良いからこっちに来い!」
「へぇへぇ」
「釜は置いて来い!茶碗も!」




コタツからばたばたと立ち上がってアラシヤマから茶碗を奪い取って
元あった場所に戻すと、せっかく暖まった体を冷やさないように素早く
コタツに戻った。ただでさえ露出の多い服を着ているのだから冷えは避けなくては
ならない。



アラシヤマは仕舞われてしまった茶碗を再び取り出そうということもなく、
しぶしぶと言った様子ではあるが同じようにコタツに潜った。





「ご飯どうするつもりなん?」
「他になんかねーの?」
「んー…卵くらいしかあらしまへんな」





それじゃあ腹は満たされない、とばたりと後ろに倒れこんだ斉藤の顔の上に、
フッと影が落ちた。薄暗い洞窟内で、しかも逆光の条件下では誰かが自分を覗き込んでいる
ことくらいしか解らない。



アラシヤマは向かいに座っているから違う、じゃあお客かと思って起き上がろうとすると
コタツの中の足を小突かれた。少し焦った様子で。




「アラシヤマ、卵余ってんなら俺に寄越せ」










悪い方向で聞き覚えのある声に飛び起きると、何かにガン、と強か頭を打ちつけた。





痛みにのたうち回ってコタツから這い出ると、自分の頭があった位置に
ちょうどよく訪問者の足がある。




「よぉ、心戦組」
「げ、七面鳥王子ッ!」
「意味解んねぇ事言ってんじゃねーよ」





更なる攻撃から逃れるようにコタツに潜ってアラシヤマの隣に避難すると、
斉藤がもと居た位置にシンタローがどかりと座った。
アラシヤマは通常の数倍に達しているシンタローのイラつきに気付いたのか、
斉藤を残して台所へ卵を取りに向かう。



こうやって二人取り残されても何か話題があるわけでもなく、それ以前に
敵同士が同じ洞窟内で仲良く同じコタツに入っているこの構図がすでに
おかしいのだ。




ごそごそと台所を漁るアラシヤマを横目で見ながら、早く戻ってきて
くれないものか斉藤は思う。







「で、お前は何時になったら帰るんだよ」
「へ?」








まさか話しかけられるとは思っていなかったためか、妙に間抜けな声を
出してしまった。シンタローはいつものように眉間に皺を寄せて、長い舌を
だらりと垂らして呆けている斉藤の返事を待っている。



帰ると言うのは心戦組へ戻るのは何時なのかとか、何故此処に居るんだという
意味も含まれているのだろう。滅多な理由をつけてはぐらかせば様子を見ている
同僚たちに見限られるかもしれない。











「あー…いや、アラシヤマと友達になったしもぉちょい居るけ…ど」












言い終わるその一瞬前に、背筋にザッと悪寒が走った。
いや走ったというレベルではなく、悪寒がとび蹴りを食らわせてきてそのまま
ぴたりと張り付いてきているような。



ひねくれた独占欲を持つシンタローが般若のような形相で右手に青白い光を
溜めているせいもあるが、それ以上に背後から冷たいような熱いような形容しがたい
空気が流れ込んできているのだ。




後ろには卵を用意しているアラシヤマしか居ない。




友達発言に興奮しているのだろうか。それとも嫉妬にまみれた心友を見て何か
勘違いをしているのだろうか。











「アラシヤマ、茶」
「へぇただいま」










いつまでも続くかと思った辛辣な空気はシンタローの一言によって
あっさりと打ち破られた。目線だけズラしてアラシヤマを見ると、先ほどの
妙な空気はすっかり消えてにこにこと笑いながら急須を取り出している。



「ああシンタローはん、茶葉切らしてたさかいにちょぉ採ってきますわ」
「近くにあんのかよ?」
「へぇ、そないにお待たせしまへんよって」



言ってアラシヤマはほとんど足音を立てずに洞窟を出て行ってしまった。





気まずい雰囲気もアラシヤマが同じ空間に居たからまだマシだったのに、
完全に2人にされてしまっては斉藤の立つ瀬が無い。



シンタローをちらりと見やると頬杖をつきながらアラシヤマの出て行った方向を
見つめている。出口を見つめられていては逃げられるはずもなく、
斉藤は額をコタツにぶつける勢いで突っ伏した。




「…おい、斉藤」




耳が痛いくらいの静けさを壊したのはシンタローだった。


あまりの気まずさに無理やり眠りの世界に落ちようと躍起になっていた斉藤は、
自分の名前を呼ばれてゆっくりと身を起こした。




「お前まさかとは思うが本当にアラシヤマの友達になったんじゃねぇだろうな」





一瞬冗談なのかと思ったが、シンタローの声音は真剣そのもので、どこにも
アラシヤマをネタに二人で盛り上がろうとか、斉藤を嘲笑うといった目的は見えない。




しかしそうなるとシンタローの目的はアラシヤマに近づく斉藤への牽制であって、
仮にもガンマ団No.2の実力を誇る部下の身を心配しているのでは無いだろう。
となると沖田の言っていたシンタローは彼に近づかないというのは単に照れ隠しや
周りへの変な意地のようなものだろうか?





そこまで考えが進んだ途端、斉藤は顔がだらしないほどニヤけるのを感じた。




それを見たシンタローがぎょっとした表情になった後、理由に思い当たって
否定するように両手をコタツに叩きつけて立ち上がった。





「言っとくが」
「アラシヤマ取られると思ってんだ」
「違ぇ!」
「もらって帰るけどね」





挑発するように舌を揺らしながら言うと、シンタローの口元が僅かに引き攣った。
余程頭にきたのか、顔が急激に赤くなっていく。両手はぎちぎちと握られ、あと少し
力をこめれば爪が皮膚を破りそうだ。



声をあげて笑いたい衝動をなんとかこらえた。
ここで笑ってしまっては台無しになってしまう。噴出しそうになった息をなんとか
飲み込んで、同じように立ち上がる。







「良いだろ別に。何か不都合あんの?一人欠員出したくらいでガンマ団潰れちまうわけ?」
「そーゆー事言ってんじゃねぇよ!」
「じゃあ何だよ。アラシヤマが居ないと寂しいって?」
「んなわけねぇだろ」
「そんなら俺アラシヤマ連れてくよ。技合わせりゃ相乗効果出るって解ったしな」







顔の筋肉を微塵も動かさずに繰り出された拳はそのままパシリと斉藤の
手に収められた。すぐに体勢を立て直そうとシンタローが腕を引くが、斉藤が
その手をがっちり掴んで離さない。



シンタローの目がだんだん鈍く光ってくる。
下を見れば消えたと思っていたあの青白い光がまた集まり始め、赤ん坊の拳くらいの
大きさになったところで突然放たれた。




「っつ…!」




青白い光は形を歪ませながら、まさか洞窟内で放つとは思っていなかった斉藤の
右頬をかすめて台所近くの壁に当たり、周囲1mの岩肌を削り取った。





怒られるのは俺なのに、と細かく砕かれた岩にまみれた台所を見て思う。
ひとまずシンタローの手を離して右頬を空いている手で拭ってみると、ねとりと
血がこびりついた。




「何しやがる暴君が」
「それくらいで済んだんだから感謝しろ」
「あーはいはい。可愛いアラシヤマの家汚したく無いもんなぁ?」
「てめぇ…ッ!」






















「…何してはるん?」























再度シンタローが手に力を集中し始めた時、この場にそぐわない妙に間の抜けた
声が洞窟の出口方向から響いた。
その瞬間シンタローの手から素早く光が消える。シンタローの方はそれで証拠隠滅の
つもりかもしれないが、此処でいきなり頬から流血している斉藤を放っておいては
何を話していたかは解らなくても、何をしていたかは何となく解ってしまう。




はやりアラシヤマは何があったのか気付いたようで、持っていた茶葉を床に置いき、
シンタローを軽く睨んで斉藤のもとへ駆け寄って頬を覗き込んだ。





「けっこう深いどすな…」





言いながらアラシヤマは素早く止血し、薬をつけた薄いガーゼを斉藤の頬に
貼り付けた。
その間斉藤はずっとニヤニヤと笑いながらシンタローを見続ける。
原因が自分にあるので強く出られないのだろう、ギリ、と歯をかみ締める音が微かに聞こえた。



終わり、と告げるアラシヤマの腕を取り、体ごと絡めとって抱きしめた。
勿論シンタローに目線を合わせたまま、口は笑みの形に保ったまま。
アラシヤマが混乱して炎出す前に、お礼と銘打って額に唇を押し付けた。




「ありがとなアラシヤマ。持つべきものは友だよな!」





彼からまともな思考回路を奪う魔法の言葉も忘れない。
感極まって苦しいくらいに抱きしめ返され、背骨をきしませながらも斉藤は
勝ち誇った笑みもシンタローに向けた。




シンタローはそれだけで一国を滅ばせるのでは無いかと思えるほどの怒気を
放出させながら、どかどかと洞窟を後にした。手にはしっかり卵を持っている
あたり抜け目無いというか。












シンタローの気配は消えても怒気だけがいつまでも洞窟内を覆っている。


胸が悪くなるような不快感に陥りながら、平気そうにしているアラシヤマを
まじまじと見る。見られている事に気付いたアラシヤマはもじもじと身を捩じらせて
頬を赤く染めた。




がくりと肩を落とす。
シンタローと対峙して張っていた気が一気に抜けてしまった。





集中力が切れたせいでようやく冷えた体に気付き、自分に絡みついたままの
アラシヤマごと斉藤はコタツに潜り込む。
この洞窟が、心戦組で有料放送されていることも忘れて。





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16666HITありがとうございました!空葉様のみお持ち帰り可です。



アラシヤマ争奪戦、今回はハジメとシンタローに取り合ってもらいました。
当初はコモロくんも絡んでくるはずだったんですが、コモロくんの場合は
奪い合う必要も無いくらいラブラブなので放置(その思考回路はどうなんだ)




ハジアラでオチです。恥ずかしいオチです。
手柄立てて帰っても斉藤ハジメは死ぬまでからかわれるでしょう!素敵!




空葉様、リクエストありがとうございました!




2004.12.29up
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