「…ロッド、私の言っていたことを聞いてたか」
「うん、和風ブイヤベースの材料でしょ?」




今月は(そこそこ)まともに給料が入ったから、皆で金を出し合って
豪華な飯でも食おうと言ったのはロッド、外食は金がかかるからと作ると
言い出したのはマーカー。


人が集まったら鍋だと声高らかに宣言したは良いが、あいにく日本の食事情に
詳しいのはかろうじてマーカーだけ。


一応魚介類や肉、野菜を入れて煮込む料理だと教えておけばそれなりの材料を
持ってくると思っていたのだが、ロッドが持ってきたのはトマトと玉ねぎ
いくら何でもそんなもの入れたら鍋とはかけ離れてしまう。むしろそれは闇鍋だ





「大体鍋とブイヤベースを一緒にするなッ」
「全然違うの?」
「…洋風寄せ鍋と言えば聞こえはいいがやはり違う。根本的に!」
「ふーん。Gは何持ってきた?」




狭い台所に男が二人入ればもう満員。厨房とは程遠い独房のような部屋の片隅
で、Gは無言で、どこか申し訳なさそうに持っていたものを差し出した

















「……赤ワイン……」


































ネギとパンと逃亡劇































「ねぇマーカーぁー欧州人二人居る時点でアジアン料理は無謀だと思うよ」
「うるさいッ」
「肉野菜・もしくは魚介類を煮込むっつー説明だったs」
「何か言ったか」




じとり、と言った表現が適切だと思われる笑顔でマーカーが青龍刀を構え、
その切っ先はロッドの頚動脈へと寄せられている。このまま喋り続ければ
言葉の代わりに鮮血が噴出して運が悪ければ魂まで出て行きそうだ、とロッドは
胡散臭い笑みを浮かべて後ずさった



溢れ出した恐怖をやれやれとため息をついている寡黙な同僚の胸に押し付ける
しかしマーカーの青龍刀は何故かまな板の上に静かに横たわっている野菜たち
ではなく、ロッドの背中へと向けられた






「良い度胸だ、ロッド」







捕食者に背を向けたら最後、骨まで食い尽くされる。




ああ、そういえば隊長は例のアメリカボーヤとの二度目の離別で
人を寄せ付けてないんだった。だからってマーカーにまで伝染しなくてもいいのに、
このままでは死人が出そうだ



「マーカーちゃんが怖いよぅ…」
「そう思うなら慎みを持って生きろ、無理なら死ね」



そして暇そうにしているなら手伝え、と手招きされるが、なんとなくその手つきが
鬱陶しい犬を追い払う仕草に見えるのは気のせいだろうか。
Gに助けを求めて顔を見上げると悦に入っていた。また今のやり取りを熊に置き換えて
萌えていたんだろうか?



のろのろしていたら案の定マーカーの足が床をけたたましく鳴らした



「何すれば良いの?」
「目の前に鍋の調理見本があるから、その通りに野菜を切れ」
「え、俺包丁使えないってかこの台所に調理器具なんてあったっけ?」
「貴様には身に余るほどの能力があるだろうか、とっととやれ」



ああ、隊長。
貴方の腹心の部下は不機嫌の絶頂にいます。いくら呼んでも降りてきそうに
ありません。でもきっと貴方が下でタバコをつけようとすれば光よりも早く
降りてくると思います



心の中で居もしない絶対権力者を思っても仕方ない




目の前にどさりと詰まれた野菜をかき集めていると、投げるように
ボールが置かれた。マーカーは黙々と持参したらしい鍋で昆布ダシを取っている
多分これに切った野菜を入れろと言うことだろう、と相変わらずコミュニケーション力が
不足している同僚にバレないように小さくため息を吐く。




「んじゃま、羅刹風〜」





スパスパと小気味いい音を立てながらボールに落ちていく野菜を見て
マーカーが自分の手柄のように満足気に頷いた。もうツッコまない、きっと
ツッコんだら自分の存在意義を有り得ない角度からツッコまれて生きていけなく
まってしまう。



台所のエリアから離れてぽつんと突っ立っているGは何もしてない。
いや、することが無いから仕方無いのだが。
娘と妻に台所から追い出されてどうにも居心地が悪い休日の親父みたいな
表情でこっちを見続けるのはどうかと思う。




「マーカー…Gの手伝いは?」
「別に無い。どうしてもと言うなら土鍋を一から作れ」
「………………………………」
「それは…酷いんじゃないかな…」
「なら一緒に出てろ。後は煮込むだけだ」





つまりはもう邪魔なわけね、と少し悲しくなりながらGの腕を引っ張って
厨房を出る。ぎしぎしと軋む扉を閉めて数メートル離れた廊下の曲がり角
まで来てやっと息をついた








「マーカーってばピリピリしてんなぁ…此処最近落ち着いてきたかと思ったけど」



な、とGに同意を求めれば先ほどと同じような顔で頷かれた。



和風ブイヤベースがどれだけ時間がかかるのかは解らないが、マーカーの機嫌の
ことを考えると小一時間は一人にさせておいた方がいいだろう。
隊長は今総帥代行のマジックと今後の方針と今日の任務についての反省会をしている
だろうし、夕飯ならマジックがうきうきとカレーでも作りそうだ


いっそ怒られても良いからカレーをたかりに行きたい。
隊長が居ればマーカーも機嫌も直るしご飯は美味しいし給料は丸々手元に残るし、
一石二鳥どころか三鳥だ。



「小型飛空艇、何機あったけか」
「逃げるのか?」
「うんにゃ、マーカーちゃんの神様拉致ってこようかと」
「……………そうか」




そんなには離れていない台所から絹を引き裂いたような奇声と蛙を握りつぶした
手にこびりつく粘液のように不快な音が聞こえてくる。
確か煮込み料理を作っているはずなのに。あの中国人が台所に立つと必ずと
言っていい程怪現象が怒るから不思議だ。ピンポイントで祟られているんだろうか?



此処から小型飛空挺がある格納庫へ行くには崩壊寸前の階段を一つ降りなくては
ならないが、廊下でもこの音量だ。音源のマーカーには他の音など一切感知できない
だろう




「ささーっと行ってこよーぜ」




格納庫へと続く扉を開け、踊り場へと飛び降りる
普通に階段を一段一段降りてきたGを待っている間にも、台所から漏れる
妙な音は止まらない。軋む鉄の音が混じって更に不快感を、といかもう
これは恐怖を掻きたてるものに仕上がっている



ひょいひょいと二段飛ばしで階段を駆け下りつつ、最小限の音しか出さないだめに
いちいち着地地点に空気の膜を張るのも楽ではない。むしろ面倒くさい
しかし此処で手を抜いて後でマーカーに中国4千年の拷問術で持って嬲り殺された
ら悔やんでも悔やみきれない。













格納庫には2機の小型飛空挺と、戦闘機が配備されていた


戦闘機に乗ってどっかの軍事基地の領空侵犯でもしたら洒落にならない、と
小型飛空挺に乗り込むロッドにGが続く





「Gが操縦してくれよぅ、俺小難しいのは苦手だから」
「…」




無言で操縦席に乗り込むGが何かを投げてくる。
慌てて受け止めるとそれは先ほどマーカーに渡したはずの赤ワインだった



「持ってきちまったの?」
「ああ」
「ふーん」



自分は操縦しないから、と何の躊躇も無く赤ワインのコルク栓を無理やり抜く
ロッドが笑う。Gは何か言いたそうにワインがロッドの胃袋に到達していくのを
見ていたが、結局何も言わずに前に向き直った


離陸準備のために操作盤のスイッチの切り替え作業をしているGにロッドが
背後から絡みつく。どうやらすきっ腹にアルコールが直撃したらしい。


「危ない」
「あははははははそーぅだよねッごっめーん☆」


お詫び、とワインで水分を補給された唇がGの首筋に押し付けられる、というか
すでに食われると言った方が早い。その証拠に歯がしっかり当たって、あまつさえ
ゆっくりとかみ締められていく。



咎める意味を持って振り向くと、それに気付いたのかロッドが顔をあげた。



にこり、と子供のように笑ってそのまま後部座席に身を預ける。
ぐらぐらと揺れる機体に大きくため息を吐き出した




「良いから大人しくしていろ。マーカーが気付くぞ」
「んー」




アルコールの回った脳でどこまで言葉の意味を汲み取ってくれたかと
内心穏やかではないGが固定ベルトを装着する。それを見たロッドももそもそと
ベルトをつけるのだが、動き出した機体の中ロッドの動作だけがぴたりと止まった













「マーカーちゃぁああん!これから隊長んとこ行くんだけど一緒にどーーーぉううう?」











ガッ、と押さえるというよりも叩き付けるようにロッドの口を覆っても
時すでに遅く。耳鳴りがするほど響き渡っていた奇怪な音はぴたりと止み、
代わりに階段を駆け下りてくる足音が鳴りはじめた


自分が何をやったのかも解らず息苦しさにむーむー唸っているロッドの
頭をぴしゃりと叩いて黙らせる





ゆっくり速度をあげて離陸の準備をする飛空挺のすぐ後ろまでマーカーが迫って
来ている。いくら彼でもエンジンの熱で熱くなっている機体にしがみつこうとは
しないだろう、と一応後ろを確認する。誰も居ない。


追うならきっともう一機の飛空挺に乗り込むだろう、と視線を前に戻す















「ッ!」
















あまり青空をのぞかせていない曇天が映るはずだったフロントガラスには、
血走った目を歪ませたマーカーがへばりついていた







「マー…カー……危ないぞ」






出てきた言葉は至極普通の言葉だった。後ろでロッドが悲鳴もあげずに卒倒した
せいでかえって冷静になったのかもしれない。じわりと額を滑り落ちていく嫌な
脂汗を感じながら目の前の同僚を見やる。



薄ら笑いを浮かべている



此処まで走ってきたのだからロッドの失言を聞いたのだろう。
頭に血がのぼった彼にとっては自分たち二人は隊長と逢引しそうと目論む
敵になったのだ。



マーカーの両手がゆっくりと背中に回り、金属が擦れあう音とともに
薄っすらと光を反射して青龍刀が二本現れた。
噴出したはずの脂汗が一気に引いていく。本能的な何かが警鐘をけたたましく
ならしている。

















気付くと、機体が空へと旅立っていた







































「…逃げ切れたか…」



脳みそが正常な活動をし始めた頃にはもうマーカーは消えていた。何事も無かったかの
ようにフロントガラスが雲間から僅かに漏れる光を反射している。
後ろで意識を手放したはずのロッドは途中で危機が去ったことを感じ取ったのか、
気絶と言うよりただ寝ているだけになっていた



マーカーはどうしたのだろうか


急に飛び立ってしまったから風圧で呆気なく格納庫に叩きつけられたのか。
そうだとしてもあの中国人のことだから猫のように華麗に着地出来そうだ。
特戦部隊にそんな腑抜けはいらんといつも言っているのは紛れも無く本人だから





結構な時間が経っているからもう追っ手は来ないとは思うが、本来の目的は
隊長を連れて帰ってマーカーのご機嫌を取ることだ。
このままのこのこと帰ったら飛空挺が血で染まることになる。それとも灰も残らぬ
程の炎でもって歓迎されるのか









終わりが見えない不吉な想像に慌ててロッドを起こす。
彼が起きれば同じ想像でも少しばかり胡散臭さが混じって気がまぎれる









「ロッド…ロッド、起きてくれ」
「ん…ぅーん………」
「…………フロントガラスにアヴリルが張り付いているんだが」
「ぅえッ!?」








ロッドが最近ご執心のシンガーがこんな所に、しかも空高く飛行中の小型飛空挺の
フロントガラスに居るわけもないのだが。夢の世界から引き戻された直後のロッド
には十分真実味のあるもののとして捉えられたらしく勢い良く飛び起きた



薄い緑色の瞳が限界まで見開かれてフロントガラスに向けられる



「…あれ?」
「マーカーは多分途中で落ちた。このまま本部に行って隊長を連れて戻る」
「あー…うん、そだな」



なんとなく状況を理解したロッドが少し残念そうに眉を歪ませてシートに
身を沈ませる。



隊長と一緒に戻ればこの半端な逃亡劇も終わるのだと言い聞かせ、
Gはゆっくりと速度をあげた















































「…ねぇG、俺の常識って何だったんだろう」
「……………………言うな」



マーカーの影に怯えながら着いた本部で待ち構えていたのは苦笑するマジックと
にやにやと意味ありげな笑みを浮かべているハーレム。
そして、その隣に勝ち誇ったような笑みをたたえて悠然と立っているマーカーだった





「ええと、ハーレムとマーカーの話から大体状況は掴めたよ。難儀だったね君達」





気を使って慰めるように声色を落として言うマジックの手には特大シンちゃん
人形。気遣いの言葉も何故か馬鹿にされているような気がするのはきっとそのせいだ



Gは顔に出ないが、それとは逆にロッドは実生活に支障をきたすほど感情が
顔に出る。理不尽な結果に打ちのめされてひくひくと引き攣る口元と疲れきって
色味を失くした頬がその証拠だ。





「抜け駆けなど1000年早いわ愚か者がッ」




ビシッ、と風を切ったマーカーの指が二人に向けられる
しかしそれに一々反応を返すような余力は二人にあるはずもなく、ただ
そうですねと搾り出すだけだ




「あ、もう二人とも夕ご飯済ませちゃったんだよ。君達もどうだい?カレー」




玉ねぎは入って無いけどね、とハーレムを見ながらマジックが微笑む





















そんなこともうどうでも良いと心の中で思ったのはGもロッドも同じで、
高松の居る医務室だけには運ばれたくないと思いながらも二人同時に意識を
手放した


---------------------------------------------------------------------------------
ネギ出てきません(馬鹿)

パン【幇】《中国語》中華人民共和国成立以前の中国における同業者・同郷者(Gとロド)などの相互扶助組合。
また、これに類似した団体。厳格な規約があり、強い団結力で外部勢力(マーカー)に対抗した。


yahoo辞書で調べたらこんなん出てきたので中国人から逃げるGとロッドの話です。
うちのマーカーはいつもこんなんです。ボケです。
マーカー>>>>>ハーレム>>G>ロッド 

マーカー総ボケ(流行語大賞ノミネート)


なんかもう色々すいません

2004.10.20up
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送