「あら珍し」



食事時から大分遅れて団員食堂へと足を向けると、一人で行動
している事など見たこと無い同僚が何故か一人で座っていた。
アラシヤマの声に気付いたのか薄い金髪を揺らして振り返った彼のその瞳には
涙がなみなみ溢れていた



しまった、と思った時にはもう遅く




「アラシヤマ、オラの愚痴さ聞くべッ!」



































泣き虫女王様











































ミヤギのぐずぐずと詰まった鼻声が食堂全体に響き渡り、後に引けない状況を作って
しまった。入り口で固まったままのアラシヤマにチクチクと視線が突き刺さる。
最近流行のミヤギダンクラブの会員だろうか、数人は恨みがましいオーラを放って
いる。アラシヤマを睨みつけるような勇気は無いらしいが




懐からティッシュを取り出して鼻をかむミヤギが居るテーブルへと
渋々歩いていくと、それに気付いたミヤギが自分の正面をばんばんと叩いた。
そこに座れ、と目が言っている





「わてお昼食べに来たんやけど」
「んなごと知らね」
「…泣きべそ書いてても女王様っぷりは健在どすな」
「おめは常に嫌味ったらしいべ」
「で、犬ころ忍者はどないしたん?」





ひく、とミヤギの顔が引き攣った



どうせ他愛も無い痴話喧嘩かなにかだと思い、頬杖をつきながら適当に
聞いていたアラシヤマがやっぱり、と小さく漏らす。少し息を吐きながら。
それが聞こえたのか、ミヤギの顔がぐしゃりと歪んだ。



此処で泣き叫ばれては面倒くさい、とアラシヤマがハンカチを顔に
投げつけると、適当な対応へのあてつけのようにそれで鼻をかまれた




「ちょ…!何しとんの、こんの顔だけ阿呆ッ」




鼻水をつけられてしまっては他の洗濯物と一緒に洗うわけにはいかなくなる、
かと言って手洗いは精神的に辛いから却下。廃棄決定になったハンカチに
合掌する。



周りで聞き耳を立てている輩は鼻水をたらしたミヤギでもフィルタ越しに
見るから平気なのだろう。鋭い視線が全く衰えない。
金髪美人が涙で潤んだ瞳で俯いているだけならまだ解るが、鼻からだらだら
粘液を垂れ流しの大人を羨望の的にする意味が解らない




「汚い顔やなぁ…あんさん顔だけが取り得なんやから、ちゃんとしとき」
「トットリが酷いんだべ!オラとの約束ばすっぽかしてどこさか行っちまった!」
「トイレでも行ってるんやないの?」
「オラたちはトイレも一緒だべ」
「…そうどすか…」



げんなりとした表情で立ち上がろうとすると、途端にミヤギに腕を掴まれた。
鼻水と涙がこびりついた手で。びくりと動きを止めると、それと同時に腕も
自由になる。が、そこにはくっきり残った手形の跡。
クリーニングに出さなければ、と思いながら今度は捕まらないように素早く
席を立つ



「どこさ行くべッ」
「さっき言うたやろ、わては此処に昼飯食いに来たんや」
「…だんだん言葉使いが汚ぐなってきとるべ」



拗ねたように口を尖らせる同僚に薄っすら笑みを残して食券販売機へと
向かう。どうせこの後は大した仕事も無いはずだから少しくらい彼の長い
愚痴に付き合っても良いだろう、シンタローが仕事を滞らせていなければ
全く問題ない。





背筋に嫌な汗が伝った気がしたのは何を示唆しているのか、嫌な予感に
うどんの食券のボタンを押す手に力がこもる。





だいたいにして、今の時間がもうおかしい。
現在午後三時、此処にいる団員も休憩中がほとんだだろう。普通の平団員は
よっぽどの事が無い限り定時に出社し定時に帰る。それもこれも、シンタローに
よって生み出される予定の混乱をアラシヤマがその度に阻止しているから
なのだが。



今日もあの俺様総帥は眠るコタローに似合う服を見つけた、と窓から飛び降りて
ブティック街に行こうとしていたところをアラシヤマとキンタローによって
取り押さえられたばかりだ。






ぎゃあぎゃあと喚くシンタローをなんとか宥めすかし、燃やし尽くしてキンタローに
預けてやっとこの時間に昼飯にありつけたのだ






理不尽なことをさも当たり前のように吐き出すシンタローの世話よりかは、
惚気にしか聞こえないミヤギの甘ったるい愚痴を聞いていたほうがマシと
言うものだ











「あの…まだでしょうか?」
「へ?!」











突然背後から聞こえてきた声に驚いて振り返ると、そこには長蛇の列。
ハッとして目の前を見ると、見事にクモの巣状にひび割れたうどんのボタン。


後ろの団員たちにすんまへん、と謝りながらこっそり指先から炎を出してひび割れを
溶接する。すでに出てきていた食券をひっつかんで足早にその場を立ち去り、
厨房に居るおばちゃんにそれを渡した





「ああもう…」





経費削減と言う名目で此処の料理はほぼインスタントだ。
数分もすればすぐに料理がトレイに乗って差し出される。



3分で出来上がったうどんを手に取り、元居た席へと戻ろうとすると、
周りの団員がざわつき始めた。不思議に思って見れば、皆同じ方向を見て
口をあんぐり開けたり眼を見開いたり。数人は顔を紅潮させて軽い興奮状態に
陥っていた。



しかしそれはすぐに静寂に取って代わった。
アラシヤマが向かおうとしていた席に、此処に居るはずのない人物が振り返った
からだろう








ほぼ青に染まっている食堂内で異彩を放つ赤い点。









「よぉ、アラシヤマ」







至極自然に片手をあげて声をかけられる。



彼は此処が主に平団員たちが集まる食堂で、彼らが総帥とすれ違うことさえ
滅多に無いことを解っているのだろうか。アラシヤマが気付いた事を確認して
ミヤギに向き直ったシンタローの背中の赤がちかちかと目に痛い





「何してはりますんや、総帥」




トレイをテーブルに置いてシンタローの隣にさりげなく滑り込んだ。
シンタローはにやりと笑っただけ。



「ミヤギの愚痴聞いてたんだよ」
「んだぁ」




ミヤギがきらきらとした笑顔で頷く。が、それを見ているシンタローは
何故か邪悪な笑みでアラシヤマを見続けている。
本能的な恐怖がざわりと背筋を駆け上る。この笑顔を浮かばせるシンタローは
大概ろくでもないことを考えている。アラシヤマに対しては特にだ。



ミヤギが笑顔になったのならある程度愚痴を吐き出して落ち着いたのだろうから
自分はお役ごめんだ。それよりこの場から逃げ出さなければ





「あ、わて向こうで食べ」
「此処にいろ☆」




邪悪な笑みはそのままに、壊れかけのおもちゃのような作り声で
シンタローが言う。有無を言わさず上がりかけたトレイを下ろされて、
うどんの汁がぴしゃりと跳ねた。



ミヤギが相手では助けを求めることも出来ない。むしろこの状況を危機だと
解ってくれるのは自分自身しか居ない。




「アラシヤマぁ、お前常日頃友達欲しいって喚いてるよな?」
「え…そ、そうやけど…」
「じゃあミヤギとトットリを見習え。そうしたら俺らももっと仲良くなれんぞ」
「ほんまッ!?」




がば、と身を乗り出すアラシヤマをいつものように眼魔砲で蹴散らすことも無く、
シンタローはこくこく頷いた。期待に目を潤ませ息を荒くするアラシヤマの肩を
抱いて、ミヤギを促す。



一瞬何のことだ、と口を開きかけたミヤギは先ほどのシンタローの言葉を思い出し、
ああ、と一人で納得した



「んー特に言うことねぇんだけんども…」
「朝から行動なぞりゃー良いんだよ」
「朝…トットリのモーニングコールで起きて、トットリが作ったメシさ食って、
トットリに服着せてもらって…」
「で?」
「10時と3時のおやつにケーキ焼いて紅茶淹れてくれたべ。オラが疲れたっつー前に
仕事変わってくれるっぺ」
「ああ素晴らしいベストフレンドの形だなァ」
「イスが堅かったら自分がイスになるしなッ!最高だべ」




目の前で繰り広げられている会話がおかしいことにはアラシヤマは気付かない。
ミヤギが話し始める前からずっと夢見心地だ。
おそらく話の内容自体耳に入ってきて無いだろう。



虚ろな目をして楽しそうに笑っているアラシヤマの状態を確認して、
シンタローはその肩に両手をぽん、と置いて微笑んだ






「アラシヤマ、俺らもミヤギたちみたいなベストフレンドになりたいよな?」
「へぇ!」








うっとりと目を閉じる
瞼の裏に映るのは、色とりどりの花が咲き乱れる野原で追いかけっこをする
シンタローと自分。勿論白い大きな犬とサンドイッチが入ったバスケットも
持って。



目を開いてシンタローを見ようとしたところで、アラシヤマの意識は途切れた









































































「ちょおミヤギはん。わてが昨日どうなったか知りまへん?」
「?別に普通のことしとったべ、シンタローと」
「え?」
「親友みたいだったっぺ!」
「…そうどすか…ほなこの筋肉痛と頭痛と胃痛は気のせいどすな…」




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よーし、終わらせた!(終わったって言えよ)


シンアラ+トリミヤで、アラミヤだと言い張ってみます。トットリ話でしか
出てこないけど。

最初はシンタローの代わりにトットリが出てきてアラシヤマの前でストロベリってる
はずだったんですが、アラシヤマ可哀相なんで変更。

ストロベリる…動詞活用でイチャイチャすること。某変態蝶が居る漫画の造語。


2004.10.24up
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