「こんにちわぁ」


はたはたと揺れる洗濯物の合間から間延びした声が聞こえてきた
洗濯物の皺を伸ばすのを中断して白い影の隙間から声の方向に
顔を覗かせると、珍しく顔色の良い京都人が立ってこちらを見て微笑んだ


つられて笑い返すと、アラシヤマがお邪魔します、とパプワハウスの
敷地に足を踏み入れた。菖蒲の色と言ってしまえば聞こえが良いが、彼の服は
赤紫色だ。そしてその彼が携えているのは濃い緑色の風呂敷。



強烈な色の共存にくらくらしながら招き入れ、シンタローが居ないのに
尋ねてくる彼を不思議に思った





































供心と子供




































「アラシヤマー一応言っとくけどシンタローさん居ないぜ?」



彼のことだろうから一方通行の心友に会いに来たのだろうと思って
先手を打つと、アラシヤマは乙女色に染まるわけでもなく平然と知ってます、
と言った



「さっきまで一緒やったさかい」



にっこり微笑まれて、束の間の幸せに浸って余裕を演じているだけだと
解った。一般人にこんな推測をすれば失礼極まりないが、彼に限っては
至極当然な事のように思える。


最近は仲の良い友達(菌類)が出来たらしいし、アラシヤマがシンタローに
まとわりついて眼魔砲で情け容赦なく吹っ飛ばされる姿もあまり見かけなくなった



「で、何の用?」
「ああ、これ」


少しばかりの感慨に浸ってお互い当初の目的を忘れた後、ハッと気づいた
リキッドの問いの答えとともに差し出されたのは彼が持っていた風呂敷だった
いきなり渡されても困るのだが、と思いながら受け取った風呂敷は見覚えのある
もので、少し考えてシンタローのものだと気づく


そう言えば昨夜シンタローさんが出かけていったのは上新粉を調達するため
だった、と思い出すと同時に特戦時代を彷彿とさせる姑イジメを思い出して
ぶるりと震えるとアラシヤマが訝しげに眉根を寄せた




「顔色悪いどっせ」
「普段のお前にゃ負けるって」
「わては元が白いからそう見えるんどす。血色の良いあんさんがそこまで青くなる方が危ないわ」
「っつーか別に平気だって」
「その油断が禁物なんどす!」




そう叫ぶとアラシヤマはぐだぐだとリキッドに説教を始めてしまった。
良い天気だからシーツの類を全部まとめて洗ってしまおうと思い立った時の
晴れ晴れとした気持ちはどこへやら。小学生くらいの頃母親から散々、
耳にタコが出来るからやめてくれと言う言葉をわざわざ友人に教えてもらうほど
口を酸っぱくして言われたことを目の前の京都人はわざわざ完璧に再現してくれている



懐かしさがこみ上げると同時に、何でそれをアラシヤマで思い出さなきゃならないんだ
と、リキッドは複雑な気持ちになりながら昔のようにお小言を左から右へと流した



それにアラシヤマも気づいたようで、せわしなく動いていた唇が閉じられ、
代わりに手が伸びてきてリキッドの耳をぎゅう、と引っ張った




「いででででッ」
「ちゃんと聞き!」
「お袋と同じこと言うんじゃねぇよチクショー!!」
「誰かお袋言うんやボケェ!」





たしなめる口調から一転したアラシヤマの口調に、リキッドがほんの一瞬
ひるむ。あくまでも一瞬だ。啖呵を切られればヤンキーの血がふつふつと
湧き上がり、反射的にアラシヤマの胸倉を掴もうと手が伸びる


しかしそれはアラシヤマの炎によって遮られ、しまった、と思ったときには
地面に叩きつけられていた





「ッ!」





勝ち誇ったような笑みを浮かべるアラシヤマを地面から見上げ、
リキッドはぎりぎりと歯を噛み締めた。
アラシヤマの手にはいまだ上新粉の入った風呂敷が抱えられたままだ。
片手だけであしらわれるのは元とは言え特戦部隊の名折れ、むしろリキッドの
誇りが許さない






アラシヤマが第二のパプワ島に上陸した時はあんなにも簡単にひねり潰せた
ことが余計にリキッドを苛つかせる。あの時は手加減をしていたとでも言う
のだろうか?それとも友達(菌類)が出来て浮かれていたから?





ぐるぐると回る思考はリキッドの掌に静電気を散らし始める
パチパチと花火のような細かい電気が空気中に放出される。怒りにまかせて
力を込めると、手が痛くなるほどのプラズマが生み出された



プラズマを掌に固定することなど初めてのせいか、出来上がった不恰好な球体は
時折弾けそうになる。



少しばかり冷静になればある程度の制御も可能だっただろうが、
怒りにかられているリキッドには力任せにプラズマを丸め込むのが精一杯だ






「本当子供やな、リキッド」





アラシヤマが自分だけ子供扱いするのも気に食わなかった
目が合えば生死をかけて罵り合っている仲のお天気忍者でさえ
棘はあれども柔らかい京言葉を使っているというのに、何故か自分だけは
呼び捨てにされ少しばかり乱暴な京言葉を贈られる


アラシヤマにどう思われているのかはこれからの人生において全く
関係無いのだが、自分だけのけものにされているような気がするのは
どうにも気分が悪かった









「子供扱いすんじゃねぇえええッ!」










叫ぶと同時に投げ飛ばすように放ったプラズマは見当違いの方向に飛んでいく。
盛大に舌打ちして行方を辿ると、ちょうど帰宅したらしい姑の姿























真冬のノルウェー沖に飛び込んだときよりも冷たい水を頭からかけられたように、
一気に頭が冷えていった。むしろ麻痺して何も考えられない。
ぶるぶると尋常では無い様子で震え出したリキッドを見て、アラシヤマも
こちらへ歩いてくるシンタローとそれに向かっていく不安定なプラズマの塊を
目に捉えた







「……………ッ!シンタローはん!!」







青ざめてアラシヤマが叫ぶと、シンタローは始めから解っていたかのように右手を
前方にかざし、ぼそりと呟いた























「眼魔砲」

































プラズマと一緒に二人が吹っ飛んだのは言うまでもなく






























「ったく何してんだよてめーらはッ!」



さすがと言うべきか、シンタローの放った眼魔砲は二人を傷つけても
洗濯物とパプワハウスには一切の損害を与えていなかった。
その代わり、長時間放置してしまった洗濯物は皺くちゃになってしまっている


パプワハウスの中、剣山のようなコンクリートに正座させられた上に石を
置かれてアラシヤマとリキッドは必死にお仕置きに耐えていた




最優先に干されるのはパプワの洗濯物なのでそれは無事だった。
しかしその後に控えているシンタローとリキッドの洗濯物はほぼ壊滅状態
だったのだ。


シンタローがガミガミと怒鳴りながら流れるような手つきでアイロンを
次次と当てていく。一連の動作の滑らかさにアラシヤマがうっとりしていると
シンタローがぶっきらぼうに話しかけてきた








「で、この騒動の原因は」
「わて、上新粉届けに来たんやけど…こんガキが…」
「だから子供扱いすんなってば!」
「十分ガキや!軽々しく挑発に乗りくさって!」
「煽るてめぇもガキだっての!」
「年長者は敬えて教わらなかったん?!」
「アラシヤマが敬う対象なんかに入るかよッ」




























「だぁああああッ!てめぇらは明日の朝まで正座してろッ食事も就寝も禁止!」






アイロンをかけ終わった洗濯物を畳んむシンタローの声はパプワ島全域に
響き渡るほどのものだった


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空に浮かぶはの続き。

結局シンタローが何処に行っていたのかは解りません。
嘘です。考えてませんでした!(切腹)


これはなんだろう…リキアラ?;;に部類して良いものか…
子供ヤンキーが拗ねちゃったよってだけの話です。

2004.09.18up
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