「暑い」
「へぇ、暑おすな」



拭っても拭っても滴り落ちる汗に辟易し搾り出すように
声を発した自分に相槌を打った京人の声音は、いっそ最上階に位置する
この総帥室の窓から投げ飛ばしたいほどに涼やかだった














39.5
















本来なら、総帥を初め幹部クラスまでの執務室は空調設備が完全に
整っている。それこそ外が50度を越す砂漠並みの気温だろうと、
氷河期が訪れたかと錯覚するかのような極寒の様相だろうと室温は常に
21度。湿度は55〜65%。常に最適温度に保たれている

しかもガンマ団の建物の上層部は出入り出来る人物が限られているため
気密性が高く、外気に寄って室温が変わることも無い

毎年少し気温が上がっただけで暑い暑いと騒ぐシンタローのため、
キンタローが急ピッチで作り上げたのだ
シンタローの我侭をそのまま聞くのかとグンマが何の他意も悪意も無く
言っていたが、迷惑を被っている一般団員のためにも、と昨年から導入された

再三キンタローが俺が作った、と言っていたように空調設備は隙が全く
無かった

その完璧な空調設備がなされているはずの総帥室が何故暑いんだと、
設備が整えられることになったそもそもの発端が呻いた
そしてその行き所の無い怒りはそのまま目の前に居る京人に向けられた

「てめー…なんでそんなに涼しそうなんだ」
「こんくらいの暑さ、別に」

べたりと額に張り付いている髪を乱暴に後ろに流せば、
むわりと空気が動いて顔をしかめる結果となる
ぼたぼたと汗が玉になって執務机に落ちいくのを見ながら
シンタローは忌々しげに舌打ちをした

空に浮かんだ太陽は真夏のようにじりじりと照りつけているわけでも無い
春の日差しに比べればいくらか強いが、ここまで部屋の温度が上昇するのは異常だ
いつもなら脇に控えているティラミスとチョコレートロマンスの秘書組も、
つい先ほど脱水症状を引き起こしてDr.高松の待つ医務室へと運ばれていった

そう、Dr.の人体実験を甘んじて受けようと思うほどに部屋は暑かったのだ
今なら稽古中の相撲部屋の方がまだ涼しいかもしれない、精神的にキツイかも解らないが

「くそ、空調はどうなってやがる」

相変わらず目の前の京人は涼しげに立ち、不満を漏らす自分にくすりと微笑んだ後
報告のために持ってきた書類を挟んだバインダーで、はたはたと風を混ぜ返し始めた
この暑さではその行為は無駄、むしろ事態を悪化させるのが解っているのかいないのか、
怒鳴り散らす気力は暑さに奪われてしまったので睨み付けようと視線を合わせようと顔
をあげると、


暑さも忘れて真っ青になるほど不機嫌を前面に押し出しているアラシヤマがいた




「…あの…アラシヤマさん?」


天下のガンマ団総帥が思わずへりくだる

パプワ島で自分は変わった、アラシヤマはもっと劇的に変わった
それは虚偽の親友宣言などではなく、ただパプワ島だからだ
それなのに目の前でゆらりと陽炎を立ち上らせていながら目には
全く色も熱も宿していないのは、過去のアラシヤマだ

現実を拒否したシンタローの脳みそが、
ああ肝を冷やさせて熱気払い?優しいナーアラシヤマさんはー
などと異次元思考回路に切り替えてしまった

普段ならアラシヤマが怒ろうと泣こうと笑おうと気に入らなければ
眼魔砲で八つ当たりして気を晴らしてきたのに

幼いころから久しく感じていなかった本能的な恐怖に
眼魔砲で吹っ飛ばすという最も基本的な行動も思い出せないまま、
暑さのせいではない汗がだらだらと出始めた


「そんなに暑いんか?シンタロー」


思い切り顔を歪ませ、無理やりに笑顔を作り出したアラシヤマが
発した声は無情にも士官学校時代そのものの見下したような嘲るような
シンタローの全てを否定するような冷たい声だった

心の奥底では「生意気だ」と言って眼魔砲を撃って二度と変な気が
起きないように痛めつけたいと思ってはいるのだが、さきほどの思考回路は
いまだフル稼働していて反射的に「なんでしょうか」とへこへこした答え
しか返せなくなった


「今日が期日の書類は終わったんか?」
「まだです…」
「あぁ!?なめんとんのかッ!」
「すいません今すぐやりますッ死ぬ気で!」



目が据わってるアラシヤマに土下座する勢いで謝り倒し、
汗まみれの執務机を放り投げられた雑巾で手早く拭いてばさりと置かれた
書類を丁重に受け取り鬼気迫る表情で内容を頭に叩き込み、ばかばかと
判を押していく

暑さなど殺気だったアラシヤマに比べれば可愛いものでこの両腕に
抱きしめて頬ずりしたってまだ足りない
シーツの海に飛び込んで甘い言葉を囁きたいくらいだ

目の前のアラシヤマは微動だにせずせかせかと書類をさばいていく自分を
ずっと見下ろしていた。ちくちくと刺さる視線に急かされるように
黙々と作業を続けていると、ふ、とアラシヤマが動いた

つられて見上げればとっととやれと言わんばかりに
ぎろりと睨まれ、慌てて視線を手元に戻す

アラシヤマはそのままふらりと奥に消えてしまった


完全に気配が無くなったのを確認してシンタローがそろそろと
顔をあげる



「はぁ…なんだっつーんだいきなり…」


アラシヤマが居なくなったせいで緊張状態が解けたのか、
一気に汗が噴出してくる
出来上がった書類を濡らしたらもう立ち直れない、とシンタローは
席を立って窓辺に立った

そんなに時間は経ってないと思っていたのだが、
空高く照り付けていた太陽はもう随分と控えめに、遠くに見える水平線に
触れようとしていた

空が茜色に染まっても尚この部屋は変わらず熱気がこもっている
こんなにも暑くてはキンタローあたりから何か連絡があっても良い筈だが、
今日は内線が一度も鳴らなかったうえに、誰も尋ねてこなかった









「シンタローはん」


呼ばれて振り返ると、麦茶が入ったグラスをトレイに乗せて
微笑んでいるアラシヤマが居た


「…」
「何怯えてはるん?なんもせんよ」


くすくすと笑うアラシヤマは先ほどのキレっぷりはどこへいったのか、
思わず後ずさったシンタローを見て楽しそうに微笑んだ
アラシヤマが来たときにあった書類は全て処理済みになっていた




「ああもう全部片付いたみたいやなぁ」
「やらせたのはてめぇだろ」
「ほっぽってたのはあんさんでっしゃろ」
「うっせ」
「次に遅らせなんぞしたら地獄に落とすえ」




笑顔はそのままなのに声音は昔のそれに戻っている
思わずぐ、とシンタローが言葉に詰まると今度は声をあげて笑い出した



「ああもうおもろいわぁシンタローはん、こんなん見れんならちょくちょく暑くしましょ」













「…………あ?」





いまいち言葉の意味を理解しきれずに少し遅れてシンタローが問い返すと、
アラシヤマは机にことりとグラスを置いてもう一度にっこりと笑った
グラス一面にはりついた水滴が一粒表面を伝ったところでアラシヤマは口を開いた


「空調設備が完璧やったら仕事はかどるかと思えば、かえって滞ってるやないの」
「あー…」
「下っ端がいっくらクソ暑い中頑張っとってもこれじゃ意味あらへん」
「えーと…」
「幸いわては炎使いやしこんくらい平気どす、やから秘書はんたちに犠牲になってもろて」
「何?」
「シンタローはんに灸すえようと」
「ちょっと待て」


うちの息子は本当にもう、のノリでべらべらと話し続けるアラシヤマを一度
止め、シンタローは己の脳がはじき出した嫌な推測を口に乗せる


「この部屋があっちぃのはお前が原因か?」









「へぇ、わての能力結構応用効くんどすv」

























アラシヤマの用意した麦茶は飲まれることは無く、
眼魔砲によって空いた大きな穴から吹き込む夕暮れの風を受けて
からん、と氷が揺れるだけだった




























「お前、夏が終わるまで近寄んな」
「あああああ!酷おすぅうううッ!!!!」
「うっせぇこの根暗!俺に迷惑かけんじゃねーよッ!」
「悪いのはシンタローはんやないの!」
「んだと」
「アラシヤマ、定期的にやってくれ」
「へぇ!」
「ざけんなキンタロー!アラシヤマッ、てめぇも嬉々として頷くな!」
「「仕事をやらんのが悪い」」
「……、ッ!」








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えーと
これが本当のやおいですね!(爽やかな笑み)
死ぬほどカプじゃ無いですね、ただシンタローとアラシヤマが絡んでるだけですね

しかも最後見るといっそキンアラのがしっくりきますね
ええ最近萌えてます(節操なし)


TVを見てたら東京の気温が39.5度とか言ってたので
それみて一日で書き上げる俺は馬鹿ですね、ええ本当に
別にこれはアラシヤマは鬱陶しいことを啓発する作品ではありません
彼は常に鬱陶しいです(酷)


これでもアラシヤマ大好きですよ、
穢れ無き乙女時代は南国見てシンタローとマジックに萌えてました
むしろ速水さんと緑川さん(声優)に萌えてました


…穢れてない代わりにもうオタクですね


2004 07 21 up
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