いつもなら太陽の光がじりじりと地面を焦がす昼過ぎ、
今日のパプワ島は激しい雷雨にみまわれ、近くにある川が氾濫を
起こしていた。


一過性のスコールでは無かったのか、晴れることを知らないように降り続ける
雨を目の前にリキッドはうんざりと言った様子でため息をついた


雨季や乾季があるところでも無いのに、こう雨が続かれるといつも晴れている
分溜まった洗濯物の処理が追いつかなくなる。パプワハウスの中には生乾きの
異臭を放つ洗濯物。ちみっ子たちから理不尽な叱責を受けるのは自分だ





「あ、雷だ」





怖がるかと思ったら、女王様気質のちみっ子はどうやら雷など
全く怖いなどとは思っていないらしく、窓から身を乗り出して濡れた
髪を家政夫のせいにしてタオルを持ってこさせている



「これ以上洗濯物増やすなよッ乾かないんだから!」



ほぼ半泣きで叫ぶリキッドの声など聞こえていないのか、
ロタローはタオルを受け取るとがしがしと頭を拭き、それをそのまま
頭に載せて再び窓の外を覗きだした



「あ、ほらほら雷落ちたよパプワくん!」
「今の音だと近いな」
「んー海岸の方の木に落ちたのかな?」



会話しながら器用に水分を吸い取って湿ったバスタオルを
後ろで裁縫をしているリキッドの顔に直撃させるあたりに青の一族の
血を感じずにはいられない。思わず溢れた涙を隠すためそのタオルに顔を
うずめる。








涙がすでに湿っているタオルに染み込むと同時に、
雨風が入らないように閉め切っていた扉が乱暴に開けられた










「すんまへんちょぉ雨宿り」
「電磁波ッ!」


その独特の訛りで扉を開けた人物が誰なのかを認識したリキッドは、
その濡れた足が床に吸い付く前に渾身の力を込めてプラズマを放った。


思い通りになったのはそれが直撃したことだけで、プラズマを浴びた
侵入者は倒れずにその場で中途半端に焦げ、ご丁寧にも手前、水気なんて全く無い
床に倒れこんでしまった。勿論開け放ったまま出入り口からはごうごうと雨が入り込んでいる




しまった、と思いつつもぴくぴく痙攣しているアラシヤマを不本意ながらも
中の方へ引きずり込み、風圧に顔をしかめながら扉をきっちり閉めた




「生きてるのかー?」
「痙攣してるよ気色悪いッ!」
「こら、ご遺体に触るんじゃありませんッ」




床にへばり付いたまま痙攣だけを繰り返すアラシヤマで遊ぼうとする二人を
追い払ってその顔を覗き込むと、閉じられていた目が唐突にカッ、と見開いて
こちらを睨みつけてきた


どうやらノリで倒れていただけらしい。
ノリで筋組織を痙攣させられるあたりやっぱり変な奴だなるべくちみっ子には
関わらせたくない、情操教育に悪いから。



「いきなり必殺技かまさんといておくれやすッ!」
「ああ幽霊かと思ってさー」
「幽体に物理攻撃が効きますかいな!」
「え、お前生体?」











低レベルな会話の応酬は、アラシヤマの奇声によって幕を閉じた
キィイイイイイイ、とヒステリーを起こした女性のような声をあげたかと
思えば、頭に血がのぼっているのか無謀にも殴りかかってきた


いくらアラシヤマが士官学校の出で現ガンマ団のNo2だとしても、戦争ではない、
ただのケンカであれば元ヤンキーのリキッドの方に分があるに決まっている


適当に足を払ってもう一回気絶させて、そうしたら布団かなんかでスマキにして
雨が止んだら放り出そう




そう完結してリキッドがやれやれと構えると、親切にもアラシヤマが自らの
水気で滑って転んでくれた。意識は失わなかったが





「うるさぁーい!」
「ケンカなら外でやれ!」
「わうわう!」






べしゃ、と盛大な音を立てて倒れたアラシヤマに寝ていたチャッピーまでも
起き出して非難をぶつける。それが聞こえているのかは定かではないが、
アラシヤマはゆらりと立ち上がって腹の底から搾り出すように笑い出した



「ふふふふふふふふ…リキッド、今日は泊めてもらいますえ…」




何言ってんだ、と言おうとした声がかき消される。
アラシヤマの両腕から、炎があがり、周囲の水気を完全に吹き飛ばされた
布団にまで燃え移りそうだったため少し本気でプラズマを放って打ち消し
元凶を睨みつけると、ふふん、と勝ち誇ったように笑われた




「こんな天気じゃ洗濯も出来ひんやろ?」




天井から吊るされたロープに、所狭しとかけられている洗濯物を顎で指し言う
洗濯による水気は中途半端に家の中の湿度を増し、生乾きの臭いが不快度数を
跳ね上げている


だからなんだ、と言わんばかりの表情のリキッドにくすりと笑ってから、
アラシヤマは一番近くにある洗濯物に近づき、しばらくその場に突っ立った



「…何してんだ?」
「ほれ」




数分経ったところでようやく問いかけたリキッドに渡されたのは、
完全に乾いている洗濯物。
弾かれたようにアラシヤマを見ると、得意げに笑われた。


気づいてみると、彼の周りがじんわり暖かい
どうやら微妙な加減で発熱しているらしく、雨のせいで少し肌寒かった
室内までも暖まってきているように感じる




「なんなら、洗濯物全部乾かして室内暖房の代わりになってもよろしおすえ?」




リキッドは黙ってお客様用の布団を敷き始めた





アラシヤマは満足げににっこりと微笑み、体からじわじわと熱を発して
洗濯物の周りをゆっくりと歩き回る。傍から見れば滑稽な姿だろうが、
この天気の中を自分の住処まで帰っていくのはほぼ不可能だ。もし辿り付けたとしても
すでに水没している可能性のほうが高い


乾いた洗濯物を腕にかけながら歩き回っていると、腰を肩に重みを感じた







「アラシヤマあったかーい」
「これで夜も安心だな!」
「わう」







ロタローが腰に巻きつけばチャッピーとパプワは肩によじ登り、
文字通り暖房と化しているアラシヤマにぴたりとくっついていた



「もぉ、こんくらいの寒さで…」
「僕は南国育ちなんだ、少し労われ!」
「美少年に急な環境の変化は酷だよ!」



そう言って体を擦りつけて来る2人と一匹に、仕方ない子たちやね、
とため息を漏らし、それでも離れろとは言わないでアラシヤマは再び作業に
戻った。


リキッドは鼻歌を歌いながら全員分の布団を敷きだしている



すっかり所帯じみて、と洗濯物を畳みながら思うアラシヤマも相当だが、
本人の自覚は無い。暖かさのせいか目を擦ってあくびをかみ殺しているロタローを
見て、片手に洗濯物をまとめ空いた手で抱き上げる


「ぼっちゃん、眠いんなら布団に行きなはれ」
「やー…布団冷たいよきっとー」
「アラシヤマと一緒に寝れば寒くないぞ」


いつのまにやら布団で丸くなっているチャッピーを見ながらパプワが
言えば、そうか、とロタローが頷く。仕方無しに持っていた洗濯物を
リキッドに手渡し、自分はロタローとパプワを抱えて布団に足を向ける




確かに布団は冷たかったが、少しばかり発熱すればどうにでもなる程度





「アラシヤマー寝ようよー」
「寝るぞー」
「へぇへ。リキッド、先に休ませてもらいますえ?」
「ああ、俺ももう寝るよ」




タンスにきっちり畳まれた洗濯物をしまい、リキッドが振り向いて言う


アラシヤマが中心に敷かれた布団に体を横たえるとロタローとパプワが
絡み付いてきた。寝てしまってから気づいたが、腹にかけるタオルを引っ張ってくる
のを忘れてしまった。ひっついているちみっ子たちはもう離れようとはしないだろう


すでに眠りの世界へと落ちかけている二人を起こすわけにもいかず、
リキッドに声をかけようか逡巡していると、ふわりと体に何かがかかった




「風邪ひくぞ」
「ああ、おおきに」




かけられたタオルに微笑んで礼を言うと、照れたようにリキッドが
口元を歪ませて隣の布団に滑り込んだ


窓から入ってくる雨の音は大分弱まってきているが、今から住処に戻る気には
ならなかった。戻ろうとしてもきっと両腕に絡み付いて眠るちみっ子たちが
許さないだろうし



「この分だと明日からまた晴れるな」
「そうどすな」
「とりあえずは換気しねーとなーくっさいし」
「もおちょお小声で話しよし。ちみっ子たちが起きてまう」
「…」




普段と変わらぬ音量で離すリキッドを諫めると素直に口を閉じたが、
じっとアラシヤマを見つめる表情が何かを言いたげだった。
居心地が悪そうに眉をしかめたアラシヤマに、リキッドが小声で言う












「そうしてっと、母親みてぇだな」
「…なんやて?」
「俺が昔おふくろにしてもらったのと同じことしってからさー」
「ほんならわてはあんさんの嫁はんどすか」
「うわー最悪」
「…本気で顔顰めんといてや」



びきりとこめかみに浮いたアラシヤマの青筋を見てリキッドがけらけらと
笑う。そうしながら隣に眠るパプワの頭を優しく撫でるその表情は父親の
子供に向けるそれに思える。





「お父はんやねぇ…」
「まぁこいつら俺のガキみたいなもんだしなー目の前で言ったら嫌がられるだろーけど」
「そないなことあらしまへん、お父はん」
「…」




くすくすと笑って、アラシヤマは隣に眠るロタローを抱き寄せた。
アラシヤマの体温が気持ちよかったのかロタローはお気に入りのぬいぐるみと
共に擦り寄ってくる。それにもう一度微笑んでリキッドに視線を戻すと、
何かを考えているように見えた



「どないしはったん?」



アラシヤマが小声で問いかけると、ああ、と歯切れの悪い返事をしてリキッドが
苦笑する



「なぁ、俺んとこに嫁に来ない?」
「…はぁ?」
「三食昼寝付き」



唐突なリキッドの発言に彼を狙っているウマ子が何故か脳裏に浮かぶ
くだらない冗談に怒るべきなのか落ち着くように諭すべきだか解らない
アラシヤマが黙りこくっていると、リキッドがむくりと起き上がってきてアラシヤマの
顔を覗き込んだ


目が至近距離で合って初めて彼が本気だということを知る




「わてにはシンタローはんが」
「心友だろ、その人は」
「そうどす!」



途端にぱ、と顔を輝かせるアラシヤマに少し後悔しつつ、
リキッドは淡々と続けた



「結婚と心友は別次元だ、だから今シンタローさんは関係ない」
「まぁそうどすな…」



うやむやになりながら了承するアラシヤマにやった、とリキッドは
微笑む。そのままいそいそと元の位置に戻って寝転がった
小さくおやすみ、と言われたかと思うと次の瞬間にはもう寝息が聞こえてくる
それにつられてアラシヤマも眠りへと落ちていった























「アラシヤマ、お湯沸かしといて!」
「生ゴミ、自然に還るの待てないから灰にしといて!」
「今日は暑いから一切発熱すんなよ!」





翌日からなぁなぁで寝食をともにし始めたアラシヤマを待っていたのは
家事というよりは特殊能力を利用した雑用ばかりだった
昼間子供たちは遊びに出ていて接することもないし、夜になれば暑苦しいと
アラシヤマを遠ざける
























「…実家に帰らせていただきますぅうーーーーーーーーーーーーッ!!」































こうして、アラシヤマとリキッドの暫定夫婦生活は呆気なく幕引きとなった




「うう…コモロくーん…」
「よしよし辛かったにゃー」
「わて、一生純潔を貫きとおしますえ…ッ」
「頑張るにゃー」
「へぇ!」


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最初はリキ+アラだったが、isotopeのサキが

「なんでぇ、少し期待しちゃったよ(爆)」原文抜粋

とかほざいてましたので、リキアラです。リキアラ!
本当はリキーがアラシヤマの額にうちゅー、っとやるはずだったんですが恥ずかしいので却下。
むしろこの二人はこんなに仲良しじゃないよ、とうツッコミは無しで


2004.09.04up
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