普段いく派手で奇抜な格好をして自分を飾り立てても、
香りだけはいじらない。戦場に身を寄せる者には不要なもの。
だけど俺はお気に入りの香水をいつも身に纏っている。
甘ったるいのなんか要らない、そんなの俺の視線と声だけで作り出せる




俺が纏う俺の香りは、戦場で得られる血と硝煙

















風化風


















俺の体を守るように風が逆巻く
目の前に居るのは敵兵さんが数十人。俺の周りだけ風が吹いているのを
不思議そうに見ているが、それでも銃を構える手はそのままに、
両手をあげろだって?そんなことしたら鎌鼬で君たち死んじゃうよ、
簡単に死なないでつまらないから


きっとこれがあの冷酷チャイニーズだったら、身から立ち上る炎だけで
敵兵さんを慄かせ、恐怖に心臓を鷲づかみにされながら灰になっていく己の
体を見つめているのだろう





俺はそんなことしない、そんなつまらないこと







一瞬で殺すなんて面白味が無い。拷問目的以外にあの中国人が時間を
かけて敵を焼き殺すのは見たことが無い。どうせ手早く、豪快に、華麗にやれば
あの獅子舞様に褒められることを知っているからだ。あいつの神様に、褒められたいだけ


俺にとってあの人は神様じゃない、ただの傲慢な上司でも無い、
面白いただの他人だ。だから俺はゆっくりと楽しむ。




銃を持ってる自分たちが有利だと思い込んでる敵兵さんの髪を一房拝借、
ぱらりと落ちたそれは視界を塞ぎ、その間に構えている銃を細切れに
隣に居た兵が嗚咽とも取れる悲鳴をあげる。どうせならもっと盛大に叫んでよ
今夜思い出して子守唄にするから


ああ、力加減間違ったみたいだね。
お顔まで細切れだ。そんなところ、ステーキには出来ないね。きっと固い





一斉に銃口が向けられる
円形に囲まれて、降伏しろと怒号が飛ぶ、でもその声震えてるよ?
ああ、こうしているとこの直径数mの円は俺のための舞台みたいだ
それならば、華麗に舞おうか




思わず漏れた笑みに逆上した兵の銃が火を噴く。
それにつられたのか横から後ろから、銃弾が飛んでくるけど
無駄だよ、風は俺の恋人なんだ。俺を傷つけようなんて考えたら
逆にお仕置きされるよ?





案の定弾は俺には当たらなかった。
膨らんだ風の壁によって勢いを止められ、進路をかえられ、
持ち主の元へ帰っていく



赤く染まり始めた空に響く絶叫、俺のためのオーケストラ、
目の前で起こった現象に恐怖を覚えたのがヒィヒィとその場に
へたり込む。ああ、漏らさないでよ情けない。俺のために誂えてくれた
舞台じゃ無かったの?




気分が悪い、全員限界まで切り刻んでミンチしてチェーナにしてやろうか?
こんな戦場の硬い男どもの肉なんて上手く無いだろうけど、本部に
飼われている犬にでも



そう思って手を振り上げるが、いきなり俺の足場以外の土がガラガラと
崩れ、鋭くなった風は空しく前方の建物を崩壊させた







不満に口をあひるのように尖らせて振り向けば、やはり後ろには
あの真面目で屈強なドイツ人。ご丁寧に足場を残してくれてありがとう、
本当の舞台みたいだ。主役しか居なくなってしまったけど





「…何をしていた」





愚問だ、G
此処は戦場で目の前に居たのは敵、やることは一つだろう?
それともお前の好きな熊でも居たか、そんな滑稽な軍があったら見てみたいよ
ああ、お前すぐさま入りそうだな


けらけらと笑う俺とは対照的に、Gは口元を真一文字に引き絞って眉をぎゅ、
と寄せて、水底のような目は波を湛えているように、ああ泣いてるの?
どうして、悲しいことでもあった?




「泣いてなど…」




だってお前、まぁいいや。
なんでいきなり地盤沈下起こすかなぁ、俺これからチェーナの時間だったのよ
今日の晩御飯何にしようかしら、何て考える暇もなくハンバーグに即決したのに
食べるのは、俺じゃ無いけど



もしかしてそれを止めたかったの?
相変わらず真面目だね、死ぬ間際に神の名を唱えて罪を悔いれば、
それを償ったあと天国に行けるんだっけ?ダンテの神曲、読んだことあるけど
俺は煉獄の何処に行くんだろう?力残ってれば楽しいのに


ああ話がずれた、G、解ってるだろ?
俺らは特戦部隊、出動の意味は目標全破壊。この国を消すんだよ、
俺たちの手で。



足元に残っていた銃をガチャリと踏む。Gは口を開かない





「A presto!」





またあとで、そんな悲しい目をした奴と一緒には行動できない。
獅子舞様の命令は各自好きに暴れろ、だから俺は俺のやりたいようにやるよ
風の力を借りて戦場を駆け抜けながら、まだ息のある兵たちの頚動脈を切り裂いていくんだ



飛び散る血飛沫と、いっそ安堵したような顔。なんだ、つまらない
生きるほうが苦しかったのならそうしてあげれば良かった。
抉り取られた肉の間から見える白い塊、風を吹き込んで獣じみた
咆哮を聞いてみたかったよ。死を懇願するほどの痛みで踊らされる姿は
最高の娯楽になっただろうに


ぴたりと立ち止まった。
周りに先ほどとは比べ物にならない程の人の気配。
隠すことを忘れた殺気が、体中を粟立たせる。





ああ、期待できそう!







口元が歪む、これは笑みと言われるものだ、それも最上級の
女を口説く時でもこんな甘い顔しないよ








銃を捨てて死に物狂いで襲ってくる敵兵たち、弾丸では俺の心臓を
貫けないことを知っているのか、それとも無謀な賭けに出ただけ?
途中でナイフを弾かれたことにも気づかずに、そいつは体当たりして
俺を見上げた。瞳の中の自分と目が合う


酷く血まみれだ、さっき返り血浴びたのかな?
風を切って走っていたはずだから、落ちたと思っていたのに







ああ、俺はナルシストだ。
血にまみれて微笑む自分に欲情を掻き立てられる。
気づけば腕の中に居る敵兵以外全員に向かって羅刹風を打ち出していた















俺の耳を侵す絶叫、ごろごろと転がる両腕、片足、
逃げずにこの場で俺を楽しませて、この絶叫を耳に脳に焼き付けて
今夜眠りに落ちるまでの子守唄にするんだ


口元に何気なく当てた指先からはかすかに鉄の匂い、いや血の香りだ
俺のお気に入りの香水、水よりも濃いけれど
俺の足元で自分が噴出した血にまみれてもはや人語を発しない敵兵さんを
持ち上げて、抱きしめる



勇気ある兵には、ご褒美を与えなきゃ
見れば整った顔をしていた。ああ俺はなんてラッキー。
美しいものを愛でる俺のクレデンツァ、一つだけの信念は守られた


ごぼりと血を吐き出す唇をゆっくり指でなぞる
死への恐怖でまともな思考回路なんて残ってないだろう、
汗と血で張り付いた金髪は鈍く光って俺の指に絡まった



顎を掴み、唇を開かせる
赤いしたが血に染まって更に赤く俺を誘う。喉の奥には
内臓からこみ上げてきただろう血がたっぷり溜まってる




ゆっくり唇を塞いでいく
舌に絡みつく血を己で舌で全て拭い去る、男にしては甘い血だ
俺は吸血鬼じゃないけど、血が無くても生きていけるけど、あるには越したことは無い
びくりびくりと痙攣する体が喉に溜まっていた血を少しずつ吐き出す





うっとりと目を閉じた
抱きしめる腕に力を込める、愛しい女の元へ帰った軍人のように





がくがく震える敵兵さんの膝は、感じているのが恐怖なのか快楽なのか
もう区別が付かないのだろう。試しに股間を触ってみれば、もう出していた
それでも萎えずに硬くいきり立ったまま、目は恐怖に見開かれている






ねぇ敵兵さん、名前を教えてちょうだいな
ヒィヒィ言ってないでさ、そんな声はベットの上で聞き飽きたの
ねぇ、教えてよ君の名前。誰も見てないよ、皆痛みで気絶してる
弱いね、君のお仲間


…お、何歯ぁ食いしばってんの?悔しい?皆手足切り取られて血まみれなのに
自分だけ五体満足、しかも敵に抱きしめられて舌吸われてイって、悔しい?
ねぇなら君の名前教えてよ、絶叫も好きだけど断末魔が一番好きよ、俺









「…ゲーリッヒ…」








ああ、ドイツの人?素直に教えてくれてありがとう
俺の同僚もドイツ人だよーお前はゲルマンって感じね、金髪で青い目。
うちの隊長みたい。でもうちのドイツ人、黒髪なのよ。目は海の底みたいだけど
どうでもいい?そうだね、これから死ぬんだもんね。


ああ、向こうから噂のGが歩いてくるよ。
敵兵抱きしめて口付けて、何してるって怒られるかな?でも美味しかったよ、
ご馳走様!



「…早くしろ」






見事にハモったねお二人さん、しかも意味まで同じだよきっと!
本当に勇気あるっつーか、骨あるねーお兄さん。此処まで来てちゃんと
人語話せるのお前が始めて。甘い唇と血を持つ奴はやっぱ良いのかな?
ちゃんと出会ってお前と一発ヤって見たかった!


ずるずると力を失って落ちていくゲーリッヒ、
待ってまだ死なないで、俺の腕の中で死んでよ。




もう一度持ちあげてしっかりと抱きしめる
うっすら開いた君の瞳が俺を嘲っているみたいでドキドキするよ、










「addio!」












唇を塞いで送り込んだ風は、君を内側から切り裂いた































「…ロッド、一緒に寝て良いか」



戦況報告も終わり、俺は相変わらずえげつねぇな、と隊長に
笑われて自室に戻ってポルノ雑誌を見ていた。数ページしか
捲ってないのに、突然響いたノック、間を置いて入ってきたのは寡黙なドイツ人


しかも吐いた言葉が何だよ、「一緒に寝て」?


どうしたんだよ、何かあったのか?今日の戦場は大したこと無かっただろう、
武器にばっか頼ってるから精神が弱っちー奴らばっかだったじゃん。
お前、敵兵さんほとんど生き埋めにしてたじゃん。運よければ助かるよ、
味方に掘って貰えば。ああ、味方は俺らが殲滅したんだっけ?


べらべらと話す間にも、Gは俺のベットに腰掛けて持参した枕を差し出した
何でそんなに泣きそうな顔してるんだ、俺は柔らかい美女と一緒に寝たいよ!




「子守唄を歌ってくれ」



目が見開かれる。口があんぐり開けられる。
寡黙で真面目で融通の利かないドイツ人、今なんて言った?
幼稚園児みたいな言葉が聞こえたのは気のせいか。


ごろりと横になって俺をじっと見るGの目は相変わらず今にも涙を
零しそうだ、俺の子守唄は断末魔だよ、優しうくて甘ったれのお前には
合わないよ。


固い髪で覆われた頭を撫でてそう笑うと、良いから寝ろと腕を引っ張られた




狭いベットに屈強な男が二人、Gはもう目を閉じている
まぁたまには良いかと俺は故郷の子守唄を歌いだす。
わずかにGの口元が引き上げられる。ああ、嬉しいの?じゃあもっと
歌ってあげる














断末魔以外の、しかも自分の歌う子守唄と人肌で眠るのは初めてだった




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パプワ島に行く前のロッドはこんなんだと萌え。
血にまみれたロッドは最高にエロいと思うのだが、
それはリースウェルがSだからだろうか?いやMもいけるよ(黙れ)


実際、PAPUWAのロッド見てたら戦場でも構わずに香水つけてそう
自分の力過信してそう。Gは己の力量解ってそう。マーカーはそれ以前の
問題で隊長に言われたのが全てそう。隊長は過信しててもそれが真実だよきっと




こういった形で書いてるとやはり自分がシリアス書きだと実感するが、
オチを甘くしたので撃沈。


2004.08.15up
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