「俺ね、思うわけよ」
「へぇ」
「総帥はシィに冷たい!」

















親愛なる悩殺ハニーブロンド

















空を薄紅色に染めていた桜が散り始め、
花びらが大地を埋め尽くした春も終わりの午後


事務室にこもって黙々と書類を作っていたアラシヤマは、
突然現れて唐突に話し始めたイタリア人の扱いに困りかねていた


真面目に聞くだけ無駄なことは解かっていたが
あからさまに無視するのは元特戦部隊の一員を目の前に
ガチガチに緊張している部下の手前(アラシヤマは少し人間くさくなった)
困難を通り越して無理だ
そんなことをしたらこの非常識イタリーはそこらへんの部下を適当に
見繕って絡み始めるに違いない


春の柔らかい日の光を吸い込んだように濃密なハニーブロンドと
その光を反射して輝く碧眼は本当に綺麗で、それを魅力として
愛される自分をロッドは自覚している
(実際Gあたりは割かし騙されている)



それ故多少常識に欠けた行動も許されると思っているのである


「ロッドはん」
「なぁに?」
「わてまだ仕事中なんやけど」


猫撫で声で返された答えにあきれ返ったように
冷たく切り替えしても、
アラシヤマなど足元にも及ばないほどの絶対零度の
視線を繰り出すことの出来るマーカーを日々怒らせている
ロッドには利くはずも無く、


「マーカーちゃんに似てきたねー」


けらけらと楽しそうに笑われた挙句に、
頭を撫でられる始末


「でもさーそれシィの仕事じゃないでしょ?」


楽しそうな笑顔と甘ったるい声のはずなのに、無機質に聞こえるのは何故なのか
はたとロッドを見、それから手元の書類に目を落とす
敵情視察の報告書、本来なら総帥直結の書類
シンタローが仕事放棄して何処かに(9割の確率でコタローの部屋に)
行ってしまったため、アラシヤマに書類が押し付けられたのだ


相変わらず目ざといと言えば、
だからモテるのだと笑われる






「俺ねぇ、シィのこと大好き。マーカーちゃんだってGだって隊長だって
皆シィが大好き」





にこにこと紡ぎだされる言葉を理解して
真っ赤になる前に、アラシヤマの体はふわりと宙に浮いた


至近距離に、ロッドの満足気な笑み



「と、いう事で直訴に行こうv」




言い終わるや否や、ロッドはアラシヤマを抱えあげたまま
呆気に取られる部下にウィンクを投げ飛ばし、
全速力で事務室を後にした































アラシヤマは考えていた



机に置いたままだった書類は重要機密の類ではない、
そうであったらあんな所で処理をしない


後で消せばいいかと思って書類の裏面につらつらと
書いていたシンタローへの恋文らしきものである


そんなもの誰かに見られかっと言ってアラシヤマは
気にしないしガンマ団にも害は無いのだが、
シンタローの気に障れば最悪謹慎をくらうはずだ


自分は抵抗する間もなく攫われただけではあるが、
そんな理由がシンタローに通用するはずが無い。
むしろアラシヤマの弁明がシンタローにはそれが
正論であろうと通用しない


「ロッドはん、わて戻りたいんやけど」


無理は百も承知で言ったは良いが、
やはり無理だったようで
ロッドは声に反応してちらりと肩に抱えあげた
アラシヤマ(の尻)を見たがあっさり無視して足を速める


直訴と言うからには向かう先は当然総帥室、
現在シンタローが書類に判子を押しているはずだ
それも有り得ないレベルで不機嫌で


「なんでこないにいきなりやの…」


ふぅ、とぐらぐらと揺れて通り過ぎていく床を見つめながら
呟けば、ロッドの足がぴたりと止まり、ぐるりと体を回転させられ、
目の前の碧眼とかちりと目があった


「この前さーシィとマーカーちゃん電話してたっしょ、珍しく」
「へぇ」
「そん時に聞こえてきたシィの声がなんか疲れてるみたいだったからぁ」
「…あんさん動物どすか、なんやのその聴力」
「あとマーカーちゃんが心配でしょうがない風だったぜぇ?」
「……お師匠はんの表情読めるお人おったんや……」
「まぁマーカーちゃん行動でも言葉でも示すの苦手みたいだったし、俺がv」


いっそロッドはいちいち解かりやすぎると思うのだが、
特戦部隊の環境ではその方がかえってすごしやすのかもしれない


「んで、結果がこれどすか」
「んん〜?だってさぁ、シィってば総帥一番だから」
「当たり前どす!」
「うん、総帥一番であくまでも自分は二の次だから」
「はぁ」


だから第三者がしゃしゃり出るの、
と満面の笑みとともに額にキスを送られ、
反射的に炎を作り出してしまったアラシヤマを咎めることも
無く、ロッドは再びアラシヤマを肩に抱えなおして
総帥室への道を走り始めた


第一のパプワ島から帰ってきて2年、
特戦部隊は(主にハーレムの借金のせいで)戦線とガンマ団を離脱し、
飛行艇で世界中を飛び回ってそこかしらで暴れまわってる
らしかった


アラシヤマはこの2年で随分と変わった
そこそこ社交的になったし、ごくたまに笑うようにも
なったはずだ(あくまでロッドの主観においては)
伊達集の一員でありガンマ団No.2であっても、
殺さない拷問程度の炎を操るのが苦手なため
前線に繰り出されることはほとんどなく、
文字と顔を突き合せてればなんとかなる事務局に
配属されることになった


しかし平穏など訪れるはずもなく、
シンタローのサボり癖を真っ向から注意できる人物は
伊達集くらい、しかも常に団内に居るともなれば
アラシヤマくらいしか居ないため、いつのまにか総帥の
お目付け役兼雑用係兼八つ当たり対象とまでなってしまった


ロッドに指摘された書類もそうだが、
最近はこの手のしわ寄せが特に多い


アラシヤマがシンタローに対して自分の意見を
強く出せないのは当たり前だし秘書たちもそれは解かって
いるらしい
生贄みたいなものだろかとロッドは頭の片隅で考えていた


やっていい事と悪い事の分別はついていても
対アラシヤマにおいてはその法則が崩壊するのが
新総帥なのである


「全くさぁ、師弟揃ってダメ男に惚れなくてもいいのにね!」


アラシヤマを肩にかつぎながら軽快に走っていた
ロッドが不服そうに唇を尖らせる
それに諦めが混ざった苦笑を返せば、
ロッドは更に不服そうに眉根を寄せた


「あんさんは?」
「俺ぇ?…えーとまぁ普通でしょ、普通!」
「男同士が普通ゆうならわてとお師匠はんも普通どっしゃろ」
「そーゆー事じゃなくってぇ」
「なんやの」
「だって三億借金作った酒豪獅子舞と鼻血ブラコンで俺様な総帥だろぉ?」
「…お二方になんぞ恨みでもありますのん?」
「ある!俺好みのアジアンビューティが他の男のものになるなんてッ!」
「はいはい」


ぎゃあぎゃあと子どものように喚きたてるロッドに
適当に返事を返し、アラシヤマはひらりとその肩から廊下に降り立つ


総帥室はもう目の前で、ノックをすれば
シンタローとご対面だ



「え、何どしたの」
「わては給湯室寄ってくさかいに、先に行ってておくれやす」


なんで、と聞こうとしても
有無を言わさぬ笑みと突き刺すような眼光をの前には
ロッドごときが敵うわけもなく、
ああやっぱりマーカーに似てるなぁと現実逃避をしながら
手前に位置する給湯室に向かうアラシヤマを見送った


残れたロッドは当然総帥室に向かうわけで、
おざなりのノックすれば不機嫌そうな新総帥の入室許可の
声とともに扉が開いた


旧ガンマ団の時と比べれば室内は気持ち
狭くなったのかも知れない
鏡のように磨かれた床は塵一つ落ちていず、妙な圧迫感を感じたが
書類とタバコの灰で散らかっている執務机を見れば幾分
緊張がほぐれた気がした


目に見えて変わったところと言えば、
シンタローの写真やぬいぐるみが全てコタローの
それに取って代わっているところだろうか


弟が大好きな新総帥は、タバコの煙にまみれながら
書類に録に目を通さず判子を押していた


ロッドの入室を許可したことなど忘れているかもしれない
いやそれ以前にノックにも条件反射で返事をしただけかも
しれない
仮にも世界に誇るガンマ団のトップがこんなことで
良いのだろうかと疑問を投げかけたいところだ


「あのぉ…」


控えめにロッドが声をかければ、
今気付きましたと言わんばかりの呆けた表情で
シンタローが顔をあげた
あげたはいいが名前が出てこないらしく


「あー…」
「特戦のロッドっスよ。…あ、元か」
「ああ、セクハライタリーか」


なんでそんなあだ名がこっちまで回っているんだと
心の中で咽びながらも、十中八九あの師弟が出所で
吹聴したのは獅子舞だろうと思うといっそ本当に涙が
出そうだとロッドは思う


「で、なんか用か」
「シィ…じゃない、アラシヤマの事で伺いましたぁ」
「女子高生みたいな話し方すんじゃねぇよ、慣れないなら
敬語なんざ使わなくて良い」
「あ、そぉ?じゃあシィにもっと優しくしやがれ身勝手野郎」


甘ったるい軽口と同じイントネーションで毒を吐かれても
頭の中で上手く結びつかず、やっと言語を解したと同時に
ああそう言えば普段と同じテンションでキレる奴が
居たなぁとぼんやり思った


「聞いてんの?」
「耳はあるぞ」


ほら、と両手で引っ張って見せれば、
ひゅうと風が舞って髪が一房パサリと床に落ちた
ロッドは相変わらず甘ったるい笑みを浮かべてこちらを
見やっている


「他の奴らはどうした」
「行動派は俺だけだしね」
「へーえ」


心底面倒くさそうにシンタローが返事を返すと、
今度は観葉植物の周りで風が逆巻いた
パラパラと無残に散る葉をどうでも良いように
見やってから、そのまま視線をロッドに移した


「で、具体的な要求は」
「自分の仕事は自分でやれ。シィに負担かけんな」


言ってる間にも、シンタローは無表情に
書類に判子を押していく
多分それもアラシヤマが事前細かい処理をして目を通して
判子を押せば良いようにしたものだろうと思うと、
ロッドの胸のムカつきは最高潮に達した


「せめて目ぇ通すくらいしねぇの?」
「必要性が無い」
「シィが手間かけて書類整備やってんだろ?」
「ああ、知ってる」
「んじゃちゃんと真面目に目通したら?」


静かに激昂するロッドを面倒くさそうに一瞥してから
最後の書類に判子を押し、左端にまとめて積み上げ
すっかり短くなったタバコを灰皿にこすりつけ、
小さくあくびをしながらイスにふんぞりかえって口を開く













「アラシヤマが先に目通したんなら不備なんざあるわけねぇだろ」















「・・・………・・………………へ?」



予想外の言葉の意味を掴みかねてロッドがアホ面を晒していると、
ノックも無しにアラシヤマがおぼんを片手に室内に入ってきた


シンタローは当たり前のように立ち上がって片隅に設置された
応接用のソファーに座り、目の前にことりと置かれた湯飲みに
手を伸ばした


「え?え?え?」


混乱しているロッドを尻目に、茶をすするシンタローに
アラシヤマが茶菓子を差し出し、自分も湯飲みに手を伸ばす
ああ給湯室に寄ったのはこのためだったのかとふと思い当たるが
今問題なのはそこでは無い


「ロッド兄はん」
「…え、あ何?」
「ちゃんと解かりましたやろか?」


にっこりと微笑まれて、しばし固まった後
ロッドは長く細く息を吐き出す


「なんだよ俺空回りぃ?」
「すんまへんなぁ、口で言うより早いやろ思て」
「っつーか親バカのマーカーがついて来ない時点で気付けよ」
「え、何総帥もグル?」
「言っておくがアラシヤマ経由以外の書類は全部目ぇ通すぞ」
「え?」
「シンタローはんに信頼してもろとる証拠どすv」
「調子乗んなよ、引きこもり」
「へぇへ、すいまへん」


にこにこと笑うアラシヤマを見てロッドは人生で最大級の
疲労を錯覚する


つまりは自分は踊らされていたわけだ


アラシヤマばっかり総帥に心酔して利用されていると
思っていたがそれは少しばかり修正を加えなければならないらしい
唐突に進路変更をした新生ガンマ団の中で、絶対に
自分を裏切らないと思える存在はなんと貴重なことか


「それがお前らのやり方?」














最後の茶菓子をシンタローに取られて泣き崩れる
アラシヤマを見ながらぽつりと呟けば、
二人一緒に、同じ笑顔を返された

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なんで記念すべき一発目のシンアラでロッドが
出張っててしかもアラシヤマを振り回してるようで
振り回されているのかが解かりません

リースウェルは痛々しい題名が大好きですが、
今回「痛すぎて最高」という賞賛をいただきました
ええ、賞賛です。非難じゃありません。
救急車も要りません、勿論警察も。

ちなみに本当は『悩殺』って入れないつもりでした
ロッドのむちむちな体にリースウェルはハァハァなので
気付いてたら入ってただけの話です

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2004.7.21.up

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