アラシヤマの手には未だかつて見たことの無い量の
未処理書類が抱かれていた
理由は明白、シンタローが仕事をしないからだ














碧色の小悪魔















イライラのしすぎで陽炎を立ち上らせているアラシヤマとは
対照的に、シンタローは(アラシヤマの専売特許であるはず
の)人魂を周囲に飛ばし、この世の終わりのような様子だった
それもこれも





「コタローはんに無視されたゆうたって仕事サボってええ
理由にはなりませんえっ」






全くもって解かりやすい理由だ
シンタローは終わりの無い仕事を前に数時間ごとに休憩と銘打って
コタローの部屋に出向き、(マジック譲りの)だらしない笑みで
なんやかんやと絡んでいたのだが、つい先刻「ウザい」と一蹴され
締め出されたらしい


執務机の上には書類が一枚も無い
無言で大量の涙を流すシンタローに危機を覚え、秘書たちが
事前に取り払ったのだ



「コタロー…お兄ちゃんのこと嫌いに…?」
「あぁもぉ!鼻水出てますえっ」
「ぅうう…」



アラシヤマは数十分前までは普通に仕事をしていたのだが、
事務室(アラシヤマの仕事は書類処理という名の総帥の
尻拭いである)の外が騒がしくなり、何事かと外に出ていったのが
いけなかった。引きこもりらしく大人しく引きこもっていれば良かったのに


廊下にはオロオロと走り回っているシンタロー付きの秘書、ガナッシュが居た
なんとなく録でもないことだと察知したアラシヤマが仕事に戻ろうとした時は
時すでに遅く。神にでもあったかのような表情を浮かべたガナッシュが腕に巻
きついてきた。



「ああああ…あああぁ!」



もはや人間の言語は発していない
正気かどうかもあやしい



「お…落ち着いてぇな、ガナッシュはん」
「総帥がぁああ…」
「…どないしはりましたん?」
「ぅ…ぅううえええっ…」
「……………」


よっぽど切羽詰ってるらしいガナッシュの言葉に、やれやれとため息をつく
どうせ機嫌の悪さが最高潮に達して当り散らしたか、虫の居所が悪くて
眼魔砲を連射したか、そんなところだと思っていたがどうやら違うらしい
事態は違う次元で最悪なようだ


はっきりいってアラシヤマは(シンタロー限定で)限りなくMなので、
鬼のようにコキ使われても機嫌が悪いから眼魔砲を放たれてもボロ雑巾のように
打ち捨てられてもそれはそれで性に合ってる節がある


故にシンタローの俺様気質以外から発生した事態には全くもって無能というか
対処する気がアラシヤマには無い


それでも気になって総帥室に出向いてしまったのが運のツキ
そろそろ室内はシンタローが放つ陰気でカビでも生えそうだ


「なぁシンタローはん、コタロー様も本心で言ったワケやのうて」
「忌々しそうに俺を見てッ舌打ちまでしたんだぞ!?」
「…あぁきっと虫の居所が悪ぅ」
「そのあと天使のような笑顔でグンマとお茶してたんだッ!」
「…えぇと」
「俺はっ!コタローに嫌われたら生きていけなぃいいいッ!」


フォローを入れようとする度に言葉尻を掠め取って喚きたてる
シンタローを見てるとコタローがウザいと評した理由も悲しいほど
解かってくるから嫌になる
弟を天使と称するあたりもう土の中に埋めたくなる


机につっぷしてさめざめとなきだしたシンタローに、アラシヤマは
為すすべも無くその場にずるずると座り込む。頭をごつりと机につければ
シンタローの泣き声が脳に響いてくる


これは青の一族の呪いだろうか?
マジックの息子に対する執着も相当なものだった。それを心底嫌がっていた
はずのシンタローが何故同じ過ちを繰り返しているのか
やっぱり呪いなのか?シンタローがコタローのぬいぐるみを常備しないか
今から心配である



鬱陶しいならこのままほうっておけばいいのだが、それも出来ない



心底好きな人にウザいと言われる気持ちは少なからず解かっている
アラシヤマがいつもシンタローにそう言われているから
前のパプワ島で友達だと言われて浮かれて
利用されていることに気付いてはいても必要とされることが嬉しくて
何も言わなかった
友情と愛情の境い目があやふやで随分悩んだけど結局自分がシンタロー
に執着していることには変わりないので考えるのはやめにした


いくら近づいただけで眼魔砲を飛ばされようと、声をかけただけで
蹴り飛ばされようと、アラシヤマは(多分)幸せなのである


ふっと現実に戻ってくると、氾濫した涙が机の端から流れ落ちて
制服の肩を濡らしていた
小さくため息を吐いて用具室に出向き、雑巾とバケツを片手に
戻ると被害は床全域にまで広がっていた


襲い来る頭痛と必至に戦いながら、とりあえず雑巾を広げて
水を吸わせる。掃除は上からが基本だが元から無駄な行為だと
気付いているので余計なことはせず黙々と雑巾を当て、バケツの
上で絞る


バケツが一杯になってもシンタローはまだ泣き止まなかった



「シンタローはぁん、いい加減泣き止んでおくれやす」
「…………」
「あんさんが悲しいとわても悲しいどす」
「……………」
「コタロー様やってそうどす。サービス様や他の皆はんやって、
 皆あんさんのこと慕ってますえ?」

いい加減泣き止んでくれないかとコタローの話題を混ぜてみれば
思ったとおりピタリと泣き止む。調子に乗って幼子になるように
頭を撫でても大人しいままだ。泣きはらして赤く充血した目だけが
こちらを見やる。




にっこり微笑むと、舌打ちをしてそっぽを向いてしまった




「今度は何が気にいらへんのー」
「うるせぇよ」
「言ってくれへんとわてどうすることも出来ひん」
「………お前は」
「へぇ」
「…何でもない」



そっぽを向いたままのシンタローの耳が赤くなってるのを見れば、
何となく言いたいことが解かってしまう。
可愛いお人やなぁ、と
あやうく噴出しそうになる鼻血をなんとかこらえアラシヤマは微笑んだ



「シンタローはん」
「…んだよ」






「愛してますえ?」










部屋の中がピンク色の良い?雰囲気になったのは一瞬のことで、
校舎裏で告白した後の女生徒のように恥らったアラシヤマのせいで空気は一気に間が抜ける


腰をくねらせて自分が吐き出した言葉を恥ずかしがってるアラシヤマに向かって眼魔砲
を打ち出すタイミングを失ったシンタローはボリボリと頭を掻いて大きく息を吐き、
内線電話に手をかけた



「今すぐ俺の部屋の掃除をしろ」


ガチャン、と乱暴に切られた電話機が悲鳴をあげる
反動でずれたままの受話器を直しながら、シンタローの機嫌が直っている事に
安堵する


「後でガナッシュはんにお礼言っときなはれ。迷惑かけたんやし」
「必要ねぇよ、面倒くせー」
「へぇへぇそうでっか。ほなわては未処理の書類取りに行きますえ?
掃除にはガナッシュはんが来るんやろうし」



シンタローの返事は待たずに、被害をまぬがれた無事な書類をまとめて机に乗せる
心底嫌そうに書類に目を通すシンタローを横目に見ながら総帥室を後にしようと
すると、何かが下腹部あたりに衝突した


びっくりして下を見れば




「コタロー様?」
「いったぁ…」
「すんまへん、お怪我は無いでっしゃろか?」
「大丈夫、…おにいちゃん居る?」


言いづらそうに目線をはずすコタローに自然と笑みが浮かぶ


「居りますえ。書類と睨めっこしとります」
「そっか」
「さっきまで大変やって」
「え?」
「シンタローはんに意地悪しましたやろ」



う、と言葉に詰まるコタローの頭を軽く撫で、すいと横にどけて
道を作る



「シンタローはんはコタロー様やないと駄目やし、あんま蔑ろにしたら
あきまへんえ」



諭すように言えば、苦虫を噛み潰したような顔でアラシヤマを見上げてくる
微笑ましい気持ちになるのもつかの間、後ろから感じる冷たい視線の主を悟って
そそくさと立ち去る


小走りで駆けていくアラシヤマをゆっくり見送ってから、
コタローはやれやれと室内に足を踏み入れる
シンタローは再び不機嫌になってしまっていた




「…男の嫉妬は見苦しいよ、おにいちゃん」
「何ッ!?コタロー、おにいちゃんは」
「あーはいはい、ウッザいなーもう」
「コタロー…っ!」




鼻血と涙を同時噴射させるシンタローから十分な距離を取って
コタローはため息をつく




「おにいちゃんが嫌いなのか、コタローッ!」
「…あんまりしつこいようなら、さっきどっちに嫉妬したのか…団内放送で
本当の事バラすよ?」
「………………」




















耳まで顔を赤くして金魚のように口をパクパクさせているシンタローを見て、
コタローは今度こそ忌々しげに舌打ちをした





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甘いナぁ(棒読み)
昔は切ないのか痛々しいのしか書けなかったのに
随分と退化しました

甘いの書いている人に失礼ですね
進化しました(虚ろな目)


題名からして十分に痛いとか
そう言った類の慰めは結構です、間に合ってます


痛い題名は大好きなのですが、
簡単に閃く時とそうでない時があります


一番早かったのは
『親愛なる悩殺ハニーブロンド』だったりします
ロッド萌えがアラシヤマ萌えと張り合って困ってます


ちなみに碧色はコタの瞳の色とアラシヤーマの
髪の色のつもりですあくまでつもり

後書き長すぎですか
2004.07.21up
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