「今日の食事当番は誰だ?」



見たら顔を引き攣らせるくらいにフリルがあしらわれたベビーピンクの
エプロンがはらりと床に落ちる。正確にはそれを身につけていたマーカーが
少しイラつきながら脱いだものをそのまま重力に任せただけだ
布を床に叩きつけてもしょうがないと、咄嗟の判断でも下したのだろう



時刻は夕方5時、いい加減夕食の準備を始めるべきなのに、誰一人として
動こうとしない



掃除のためにエプロンを着けていたマーカーは当番ではない。
真面目なGは自分の仕事をサボるなんてしないだろうし、家中に低く響いた
マーカーの言葉を聞いているので忘れていると言うこともない
普段からマーカーの炎を理由があっても無くても受けているロッドなら
一々マーカーの不機嫌を煽るような馬鹿な真似はしないだろうから除外



「隊長じゃないか?」



マーカーの静かな怒気に当てられてすっかり青ざめてしまったロッドの代わりに
Gがぼそりと呟く。




隊長は朝から出かけて行ってまだ戻ってきていない。まだリキッドで遊んでいる
のは間違いないが、この時間になれば腹を空かせたちみっ子たちに追い出されて
来るはず。







「ああ、そう言えば今日は隊長の当番か…ならばリキッドの家か?」
「隊長が当番になるといっつもリキッドちゃんのメシだよねー美味しいけど」
「…手料理など一度も食った事が無いな」
「っつーか獅子舞って料理作れんの?」






一人でげらげらと声を立てて笑い出したロッドがごろごろと床を転がり
始める。マーカーとGはまたかと軽くため息をついて、子供のように
笑い続けるロッドを少しばかりの憐れみをこめて見つめる



そんなに狭くも無いが広くも無い家の中、そのまま永遠転がり続けるかと
思われたロッドの動きが止まる。正確には何かにぶつかって止まったのだが、
そこはちょうと外へ出る扉の前。何かに触れている肌には妙な暖かさ




誰がこんな所に物を置いたんだ、とロッドが上を見上げると









「よーぉロッド、楽しそうだなァ?」










にっこりと笑ってこちらを見下ろすハーレムを、焦点の合ってない目でロッドが見上げる。
思わず二人で意味も無く笑ってしまったが、ロッドの笑い声だけは妙に乾いている。
危機を感じ取ったマーカーはさっさと床に落としたはずのエプロンを付け直して
台所にさかさか去ってしまった。



ハーレムは一体どれくらいから話を聞いていたのだろう。
ごろごろと転がるロッドを見ていたからこその発言だろうから、笑い始めた
時点では居たかも知れない。問題はその前の会話だ。



合わせたままになっていたハーレムの目の中に怯えたロッド映っている
ロッドが力なく笑うと、ハーレムはにんまりと笑い返す。細められた目が
その中に映る自分を押しつぶしているように見えてごくりと喉を鳴らした




それに気づいたせいかは解らないが、ハーレムはよっこしょ、と年相応の
掛け声とともにその場にしゃがみ、床に転がったままのロッドの顔を
両手で叩きつけるように包む




「いひゃッ!?」




両側から押しつぶされているせいで痛みに出した声までつぶれてしまう。
ハーレムは笑顔だ、いっそこのまま殺してくれれば良いという考えが
頭を掠めるほどに最高の笑顔をしていた



「ロッド、俺に言うことは?」







































「お…おかえりなさいアナタ!お風呂も無いしご飯もまだだけどアタシをどうぞッ!」





















許容範囲を超えた恐怖に錯乱したロッドが妙に早口でまくし立てる


台所から皿か何かを割ったような音が断続的に聞こえてくる。
その場から逃げるためかマーカーを心配してかは定かでは無いが、
Gが慌てて台所へと走る





後に残されたのは、ぽかんと口を開けるハーレムと未だ錯乱状態で
自分の発言さえも理解できずに息を荒げるロッド。



「ほーぉ…」



これから狩った獲物を調理します、と言った感じでハーレムの目がぎらりと
光った。気を抜けば彼の口からしゃーしゃーと出る蛇舌に捕まって食われそうな
気分になり、ロッドはじりじりと後ろに下がった。腰が抜けたのか起き上がることは
出来ない。




しかしそのささやかな逃亡もすぐに終わりを告げる
ハーレムの右腕がロッドの首根っこをがしりと掴んで持ち上げたからだ





「ッきゃーーーーーーーーーーーーーーッッ!俺美味しくないです!」
「そうだよなぁ、皆俺様の料理食ったことねぇもんなぁ?」
「!?き…聞いて…」
「聞・い・て・た☆」





しっかり一字ずつ耳元で囁かれた途端に、ロッドが何かをやり遂げた表情で
意識を手放した




「マーカー、今日の当番俺だろーが!退け」






台所に放った声に俊敏に反応して、マーカーがエプロンを片手にハーレムの
元へと走り寄る。目を逸らしながらもエプロンをハーレムに渡し、
支えを失って床に落ちるロッドをぼんやり見つめる。


ごつ、と鈍い音がしたかたきっとロッドはしばらく目覚めない。運が悪ければ
一生目を覚まさない。散り際にしては最高に面白いからロッドとしては本望だろうと
ティッシュを一枚取って顔にかけてると、沈痛な面持ちのGに本気で止められた



「なんだ」
「それはいくらなんでも可哀相だ…」
「しかし、ロッドは常日頃から散り際は盛大に、と…」
「良く見ろ、まだ生きている」



ロッドの顔にかけられたティッシュは鼻からの息を受けてひらひらと動いている
な?と言う代わりにマーカーを見ると、人の話を聞いていなかったのかそれとも
今目の前で起こっている現実が気に食わないのか、
ロッドの鼻を骨が折れるのではないかというくらい強くつまんだ


当然一定時間酸素が供給されなければ新たな気道を確保しようと体は動くわけで、
ロッドはマーカーが期待しているように死んだわけではない。






口の形の空洞にティッシュが一瞬で吸い込まれる様は圧巻だった












「ゲホゲホゲホッ!うぇ、なんか口の中にへばりついてる!なんか繊維!キモッ!」











真っ赤な顔をして咽るロッドの背中をさすってやるのはGしか居ない。
マーカーは心底残念そうに舌打ちをしているから




「ロッド…大丈夫か?」
「ぅええぇええ…これティッシュ?大分飲み込んじゃったよぅ…」




涙目というか、もうほぼ泣いているロッドの背中をさすり続けながらそうか、と
だけ呟く。まともな反応が返せないのは台所から聞こえてくる奇怪な音のせい
に他ならない。普通に料理をするなら大人しくトントン、とかコトコト、とか
せめて何かを炒める音にしておけば良いのに。何故かごぉごぉと燃える火の音に
混じって悲鳴が聞こえてくる気がする




隊長を盲目的に慕っているマーカーが注意するはずもなく、様子を見に行くだけの
勇気もGには無く。しかし帰ってきた時点でハーレムはその手に何も持っていなかった
はずだ、あの断末魔のような叫びは一体何が発しているのか。
いくらハーレムとはいえ、すぐ目の前の窓から舌を伸ばして獲物を取るなんてことは
出来ないだろうから、台所に元々材料が置いてあったと考えるのが妥当だが



「マーカー?」
「ああ…隊長が私の特製朝鮮人参を使ってくださっている!」
「…朝鮮人参?」
「マンドラゴラの亜種とも言うがな。死に至らない断末魔を叫び続けるのだ!」
「…………………」







ロッドが再び微笑んで意識を飛ばしそうになった
慌ててその体を支えると、いつのまにか静かになった台所を見やる。
何か、精神と肉体に害を及ぼすような臭いが流れてきた



鼻歌を上機嫌で歌うハーレムの両手は分厚い鍋つかみで覆われている
持っているのは勿論鍋、カレー用の特大サイズの鍋からその臭いは漂ってきている






「ハーレムスペシャルの完成だぜ〜?オラ食え!」







勿論標的はGの腕の中今にも死後の世界に旅立ちそうなロッドだ
丁寧に熱がしっかり伝わって素手では持てないくらいのお玉を使ってロッドの
口元にスープのつもりらしい固形物を運んでやっている


唇の水分が一気に蒸発しそうだ。顔は嫌な汗が次々に流れ出てくるので乾燥は
していないけど、それはそれで凄く嫌だ



助けを求めるようにGを見れば、至極申し訳無さそうに目を逸らされた
マーカーには元から期待してないがもしかしたら、という希望をこめて
視線を送ると恨みがましい目で睨まれた。好きで隊長に絡まれてるワケじゃ
無いのに








「…い…いただきます…骨は、海に撒いてね…!」










すでに死を覚悟したロッドの言葉に、Gが涙をこらえて力強く頷く




ず、とロッドの口がスープらしきものを招き入れる。途端に広がる刺激的な臭い、
劇物を高濃度で含んだような感覚。飲み込むことさえ許されないような粘り気、
妙に小気味いい歯ごたえ










































「あ、なんかハムスターの味がする・・・・」


































ばたりと倒れたロッドの口端からスープが零れ落ち、床に染みを作る
今度こそ、と少女のような笑みで何処から取り出したのか
おおぶりの菊の花を伏しているロッドの尻に供えようとしているマーカーを
必死に止めた


------------------------------------------------------------------------------
元ネタは、某ヴィク○リアのスープバーで、日記で時々話題にする兄貴様が
トッピングを全部ぶち込んで持ってきてくれたことです。

もう液体じゃなかった。だってスプーンが跳ね返されたもの。
で、食べてみたらハムスターの味だった。むしろエサの味。ひまわりの種のせい?

問題は何故リースウェルがハムスターのエサの味を知っているかと言うことですが、
人間極限状態になれば何でも食えるっつーことです!

2004.09.28up
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送