エプロンがなくなった


裁縫だけは他の追随を許さないGがご丁寧に自分の趣味をふんだんに
盛り込んで作ったものをマーカーが勝手に拝借して使っていたのだが、
そのエプロンが無くなった


勝手に拝借、と言ってもそれを身に着けて家事をしているマーカーを
見てもGは何も言わなかったし、むしろ自分の作ったものが役立っているのを
喜んでいる風であったので改めて言うことも無かったのだが。


Gは服のほつれを見つけるといつの間にか直しておいてくれたりするが、
洗濯する前に見たときはほつれなど見当たらなかった。




一応はもらい物、失くしてしまったとは言いづらいマーカーの耳に
少し音をはずした鼻歌が聞こえてきた





どうやらロッドが洗面所の辺りで踊っているらしい
南国の暑さに頭がゆだって直らないのか、とマーカーが鍼を片手に
足を向けると、案の定ロッドが鏡の前でくるくると回っていた





「あ、マーカーちゃん」









泥遊びをしている幼稚園児のような笑顔をした中年が目の前で踊り続ける
マーカーのエプロンを身に着けくるくると踊るロッドは、それ以外に何も
着けてはいなかった


























蜂蜜色浪漫


























随分久しぶりに動揺した。最後に動揺したのはいつだっただろうか、
自分の下で修行をしていたアラシヤマが家を寝ぼけて全焼させてそれでも
爆睡していた時だったか


思わず右腕に炎を纏わせてしまったが、ロッドが着ているエプロンは
耐熱素材などでは無い。ベビーピンクの綿100%だ。イタリア人が燃えるのは
一向に構わないがGの苦労まで灰にはしたくない


「ねぇねぇ、似合うー?」


以前日本支部に出向いた時、たまたま乗ったバスに居た女子高生らしき
特殊メイクを施された物体が似たような口調で話していたのを唐突に思い出した
あれほど神経を逆撫でするものは無い


直後、ロッドの額には鍼が深々と刺さっていた




多分脳には達していないだろう鍼を、倒れてしまったロッドから
抜き取る。もしかしたら脳に影響が出て真面目になりはしないかと考えるが、
あの暑苦しい顔と暑苦しい体型が真面目に服など着たら更に暑苦しくなるだろう
と考えて少し汗をかいた



いつだか意識を失ったボーヤ起こしたときのようにロッドの意識を覚醒させ、
とりあえず一発頬を張った




「イタッ!なんだよもぅ!!」
「拳の方が良かったか、それともエプロン以外を焦がしてやろうか」
「…それじゃあ恥ずかしい日焼けみたいじゃん」
「隊長なら面白がって可愛がってくれると思うが」




笑えない冗談に一瞬で青くなったロッドを見下ろし、マーカーはニヤリと笑った
小刻みに震えながらエプロンをはずそうと動いたロッドの手の上を、炎が走る



「ぎゃあ!」
「私の目の前で脱ぐな、他に何も着てないんだろうが!」
「俺のチェリー色の乳首とナニ見たくない?」
「アメリカンチェリーの間違いだろう、切り取ってジャムにしてやろうか?」
「すいません二度と言いません」


マーカーは絶対に嘘をつかない、常に本気だ
ロッドはその凍てつく視線を全身で浴びながら先ほど脱ぎ捨てたパンツを
履こうとしたが、それが何処にも見当たらない


きょろきょろと探していると、突然尻を蹴り上げられた




「今度な何ッ」
「汚い尻を向けるな馬鹿物がッ!」
「ちょっと待て今発音『物』じゃなかった!?」
「貴様に人権など無いわ!」




言ってもう一度尻を蹴られそうになったところで、振り上げられたマーカーの
足を風を生み出して押し戻した
小さく舌打ちをして足を元の位置に戻す隙に、自分の周囲全体に風の膜を作って
少し後ずさった



「小賢しいことを…」
「お前の弟子と違って痛いの好きじゃ無いの!」
「当たり前だ、あんなのが他に居たら迷惑極まりない」
「…ところで、俺のパンツ知らない?」



今日もどこかで喋る猛毒菌糸類と寝床をともにしている京都人に
心の中でこっそり同情して話を逸らした
彼は幼いころから、人格形成の大事な時期にこの中国人に預けられて
いたのだからきっとそれはお前の教育の成果なのだということも心の中へと仕舞って


マーカーは弟子の話題自体どうでもよかったのか、
ロッドの質問にああ、と短く返した



「先ほどお前の姿を見て今までに無い嫌悪感を感じてな、炎がそこらへ
 飛び散ったからその時にでも燃えたのではないか?」


言われて見ればパンツを脱ぎ捨てたあたりに灰が少しばかり残っていた
先ほど風を出した時に周囲に散ったのか、壁が粉っぽかった


ああ、あれはお気に入りだったのにとロッドは小さくため息をはいた


「で、一体何故エプロンなどつけているんだ。家事など出来ないくせに」



しかも料理するとき以外で
楽しそうにくるくると回りながらエプロンを着けているのか
全裸なのはあえて置いておくが



「いやほら、男のロマンがさー」
「…何?」
「裸エプロンって男のロマンだろー」




そう言ってべらべらとロッドが男のロマンを語りだす
チラリズムによる太もものラインに興奮するだとか、後ろから
見たら少しばかり間抜けだけどそれも愛しいもんだとか、
およそマーカーには理解出来ない単語の洪水が耳に流れ込んでくる


その男のロマンは女によって成されるから良いのであって、
エプロンから覗く足がいくら白くとも筋肉がみっしりついた丸太の
ようなものならかえって萎えないだろうか。しかも後ろから見たら
小さくまとまった尻の間から色々とぶらぶらしたものが見えてまぬけ
で可愛いどころの話では無いのではないだろうか


どうやらロッドは既に無駄毛は処理したらしく、
腕も足も、もちろん脇もすべすべになっていた



「……その男のロマンとやらを体言したいがために私のエプロンを使っているのか」
「そー他にも案あったんだよ。ほら、『彼氏のシャツおっきいv』とか?」
「……………洗濯物を取り込むのを忘れていたな」
「無視すんなよー。まぁそれは出来ないけどね、Gと大して体格変わんねぇし」



確かにロッドがGのシャツを着たところで、珍しく地味な服を着ているとしか
認識されないだろう。しかしマーカーにとっては至極どうでもいい話だ。
Gがロッドの彼氏ならお前はGの彼女になるのかとどうでもいいツッコミが
頭に浮かぶのを必死に打ち消し、エプロンを剥ぎ取った



「あれ?裸見たく無いんじゃ無かったの?」


にやにやとロッドが目の前で仁王立ちをしている
マーカーは手に取ったエプロンを丁寧に畳んで洗濯ネットに入れ、
洗濯機に放り込み、振り向きざまにロッドに炎の塊を撃ち込んだ
















「…何をしているんだ、お前は」



それから数時間後、エプロンを着けぬまま洗濯物を取り込んで畳んでいる
マーカーに事情を聞いたGが洗面所にやってくるまで、ロッドはそこで伸びていた


Gの呼びかけに意識を取り戻したのか、ロッドがむくりと起き上がって
周囲を見回した。赤くなってところどころただれてしまった皮膚を見て状況を
思い出したのか、目には少し恐怖の色が滲んだ



「うあーいってぇ」
「だろうな、いつもより酷い」
「気ぃ抜いて風止ちまったしなー」
「まったく…」



用意よろしく持ってきた救急箱から消毒液を取り出して傷口にかけ、
ガーゼをのせてくるくると包帯を巻いていく。途中で何度かロッドの声にならない叫びが
あがったが、Gは手を止まらなかった。普段から燃やされているのに今回ばかりは
我慢出来なかったようだ。戦場でどんな怪我をしてもへらへらと笑っているこの男が


引っ張られる感覚に下を見ると、ぎゅう、と瞑った目からぼろぼろと涙を溢れさせた
ロッドの手が服を掴んでいた


包帯を留めながら幼子をあやすように頭を撫でてやり、傷口に触らないように
持ちあげた


「いーたーいー」
「…」
「俺の白磁のよーな肌がーぁ」
「…」
「何処行くんだよぅ俺を襲う気ッ!?」
「…」
「…」


しばらくぎゃあぎゃあと軽口を叩いていたロッドもGの無反応ぶりに
懲りたのか、それとも火傷の痛みのせいかは解らないがぱたりと
大人しくなる


やれやれ、とGが居間へ向かうと飛行船から持ってきたソファーで
マーカーが耳掃除をしていた。自分の耳ではなく、ハーレムの耳ではあったが
腰に巻きついたままうつらうつらしているハーレムの頭を押さえながら、
気配に気づいたのかマーカーが顔をあげた


「ああG」
「…マーカー、少しやり過ぎだぞ」
「そーだそーだ!」
「すまん」



あっさりと返された謝罪の言葉に、Gとロッドの顔が驚愕で彩られたまま
動かなくなった。力の抜けた腕からずるりと抜け出したロッドは床に尻を打ち付けて
しまったらしいが、痛みに呻くのも忘れて信じられない言葉を紡いだマーカーの唇を
見つめていた


短い会話の間に止まってしまった手を咎めるように軽く叩かれ、
マーカーは笑みを浮かべながら再び耳かきをし始めた


そういえばハーレムがリキッドを苛めるためにパプワハウスに出かけない
のは随分と久しぶりだ。そして、それを笑顔で見送ったあとで般若のような
顔で家事をこなすマーカーも今日は見ていない


普段から表情を出さないマーカーがそうなったのはパプワ島のせいか、
それとも罪作りなハーレムのせいか




手伝ってくれるGに対してはさすがにマーカーも気を使っていたみたいだが、
日がな一日昼寝ばかりして起きているのは食事とトイレくらい、という中年より
むしろ赤子のような生活を送っているロッドがマーカーの餌食となるには十分であった


ロッドが口元に笑みをうかべても、あくびによる涙を目尻に浮かべても
何かと理由をつけては、時には何の脈絡もなく燃やしてきたマーカーが
目の前で微笑んでいる光景は衝撃だった


「隊長、終わりましたよ」


ふ、と小さく耳に息を吹き込んでマーカーが言う
ハーレムは呻きとも返事とも取れる声をあげたあと、マーカーの腰を
抱き込んで本格的に寝る体勢に入った


「…いーなー膝枕…男のロマン!」
「「またそれか」」





そう言うロッドは素っ裸のままだ
座り込んでいるため局部は見えないが、チラチラと見える何かが
神経に障る。しかし当のロッドはハーレムとマーカーを見やった後
物欲しそうにGを見上げた


咄嗟に目を逸らすのを忘れたGがぐ、と言葉に詰まる。無言の訴えが
ばしばしと襲ってくる


「Gぃー俺もやりたい!」


無言の圧力では駄目かと早々に見切りをつけたロッドがお願い攻撃に
移った。暑い南国で暑苦しい裸を晒して余り見たくは無いものをぶらぶらさせて
それでも小首は傾げて可愛らしくお願いされても、鼻血と一緒に吐血しそうだ


ストレスで胃に穴が開くのは最短何秒だったか、それでも吐血より先に
鼻血が出るあたり惚れた弱みでもう自分は戻れないのか、



錯乱状態に陥ったGの脳が思考を拒否し始めたところで、
ロッドがソファーに飛び乗り自分の太ももをバンバンと叩いて
にっこりと笑いかけてきた。勿論まだ全裸だ


もう戻れないと思ったのかハーレムとマーカーに毒されたか、
Gはふらふらとソファーに近寄り、ロッドの膝へと倒れこんだ



















結局4人が目覚めたのは夕食時をかなりすぎた午後9時で、
すでに洗い物を始めていたリキッドのもとへ食料をたかりにいくこととなった















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いい感じに意味が解りませんね。
ただ裸エプロンをロッドに着せたかっただけです。


毎日リキッドで遊ぶ隊長を見てマーカーがハンカチの端を
噛んでキィキィ言って嫉妬してると悶え死にます。腹痛で。茶、沸かせるよきっと


全体的に皆アホみたいですね。
それを描いてるリースウェルが一番アホなんですけどね


2004.8.06up
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