「アラシヤマ」


頭上に降りかかった声が愛しい人のものに用に思えて満面の笑みで振り返ると、
悲しいかな、そこに居たのは愛しい人の側近で右腕で血は繋がってないけど従兄弟の、
ガンマ団きってのブレインだった



声を聞き違えるなんていい加減自分もヤキが回った、と返事もせずにアラシヤマが
立ち去ろうとすると、肩をがっしり掴まれて強引に留まらされた。
















「誕生日、おめでとう」



















改めてかけられた言葉は、それこそ愛しい人に言って欲しいものだった
願わくば、当日に






























れた英雄


























隠す気など微塵も無い不機嫌さはキンタローも解っているのだろう、
日頃変化に乏しい彼の表情が歪んでいる。常人から見れば僅かな歪みではあるが
口を引き結んで眉を寄せて、いつもと違うのは目の中に見える感情の色だ


親に置いていかれそうな幼子のような目をしている


きっと今口を開けばアラシヤマが紡ぐのはぐるりと体を一周して余りあるほど
遠まわしな嫌味だろう。そしてその嫌味の蔓には一度刺されば中々抜けず、
抜けたとしても後味の悪い痛みを残す棘が無数に散っているに違いない



そして絡みつく視線はその蔓から逃げることを許さないとでも言うように、
ねっとりと両足を地面に縫いつけ、両手をだらりと下げさせる




キンタローの目に水の膜が緩く張ったところで、ふっとアラシヤマが
表情を緩めた




「ああもぉやめや、やめ!」
「アラシヤマ…?」
「ちみっ子いじめてるみたいで気分悪いわ!」




やれやれ、と言った様子でため息を吐くアラシヤマに、キンタローの腕が
伸びる。


「誕生日、おめでとう」


頬に手を添えられて紡がれた言葉は先ほどと同じ、アラシヤマを祝うものだ
ただ、もう遅いということには気づいてないが


はた、とアラシヤマは思う
どうやってキンタローが自分の誕生日を知ったのだろう?
彼は島から戻ってきてまだ間も無いはずだから重要な地位についている
わけでもなく、教育相手のグンマが高松があえてアラシヤマの誕生日を彼に
教える必要性も無い。


アラシヤマの誕生日を知っているのはかろうじて伊達衆、仕官学校時代に
話の流れで言っただけなのでもう完全に忘れているだろう




残った可能性は最も高いが信憑性が一番低い
ガンマ団新総帥、シンタローその人だ




「キンタロー、あんさん誰にわての誕生日聞いたん?」
「シンタローだ」





間髪入れずに返ってきた言葉は予想通りだった
が、それがアラシヤマの頭痛の種となる


キンタローは世間に出て間もないからかは解らないが、マニュアルに
沿ったような行動を取る節がある。キンタローは誕生日だから祝いの言葉を
かけなければならないと来たのだろうが、この微妙なズレは根本的な情報が
間違っていることを意味する


シンタローが嘘を教えたのだろう
真意は解らないが




「あんなぁキンタロー、わての誕生日は12日なんや」
「?シンタローは今日だと言っていた」
「騙されたんやろ」
「…何故だ」
「さぁ?それはシンタローはんに聞かんと解らんわ」



これで仕事に戻れる、とアラシヤマが再びキンタローに背を向けようと
すると、先ほどを同じように行動を遮られた。
今度は不機嫌になどならずに、呆れた顔で振り返るとキンタローが泣きそうに
なってしがみついてきた




「ちょ、なんやの!?」
「だって、誕生日におめでとうを言ってあげないと嫌われるんだろう」
「は?」
「シンタローが言ってた。アラシヤマに嫌われるのは嫌だ」







アラシヤマは目を白黒させながら、しがみつくキンタローを必死に
はがそうともがく。しかし抵抗すればそれだけキンタローの腕の力は
強まり、結局自分の首を絞める結果となる


もしキンタローがアラシヤマに危害を加える目的でこのような事態に
陥っていたら焦ることも無かっただろうが、今アラシヤマの目の前にいる
この男は嫌われたくないと子供のように縋ってきているのだ


普段から人との交流には飢えているアラシヤマにとっては少し
刺激が強すぎた


すぐ傍に人の体温があるなんてことはむしろ初めてかもしれない
アラシヤマは理性を総動員してなんとかこの場を治めようとするが、
ちら、とキンタローを見上げれば捨てられた子犬のような目。


まだ表情が乏しいので感情は目からしか読み取れないが、
長年の引きこもりの成果、と言って良いのかは解らないがアラシヤマには
キンタローの心の動きが手に取るように解る










限界だ






「あぁんもぉ嫌うわけ無いやないのーvvvv」











妙に裏返った声が廊下中に響き渡る。語尾にハートを一体何個つければ
気が済むのか、と言った感じのアラシヤマの声は確かにキンタローに届いたようだ
言葉と同時に強く抱き返したのも良かったのか、至極嬉しそうに笑っている。
勿論目だけで




「良かった、アラシヤマに嫌われなくて」




至近距離で囁くように言ったキンタローに、アラシヤマがうっとりと
目を閉じる。日頃から友情と愛情がごっちゃになっているアラシヤマは
もうキンタローと一生添い遂げても悔いは無いくらいに頭が茹っていた
























「じゃあアラシヤマ、早速書類整理を一緒にしよう」
「へぇv」















にこりと微笑まれ、差し出された手を取り、アラシヤマは
幸せの絶頂に居た。キンタローの言葉の意味をまともに汲み取らないほど
幸せで腐っていた





上機嫌でキンタローと手を繋ぎ向かった先は勿論総帥室、
待っているのは書類の塔だ































「いやー助かった助かった」
「……………………………」
「シンタロー、余りサボるなよ」
「わぁってるよ。いやーアラシヤマくんが居て良かったァー」
「……………………………うっさいわボケ」
「そういや悪かったな、嫌な役回りさせて」
「嫌な?」
「アラシヤマをメロメロ(死語)にして総帥室まで連れてくる係」
「…ああもうわて何を信じたら良いんやろ……」
「別に嫌では無かった」
「「……………は?」」
「アラシヤマは良い匂いがするぞ、シンタロー」
「いやぁあんやっぱりわて幸せどすーーーvv」
















「…………………………そうかよ」

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…?なんで途中からラブコメに??(お前…)
アラシヤマの幸せな誕生日、最近どんどんシンタローが可哀相なので
そろそろ俺様総帥とペットアラシヤマな話でも書かなきゃですよね


…ほら、今書いてるロッド小説がなんか知らんけどシリアスだからさ…(ごにょごにょ)

2004.09.15up
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