ごろごろとベッドの上を転がった。



部屋の主の性格をそのまま表したような染み一つ無い真っ白なシーツに
ぐしゃぐしゃと細かい皺が刻まれていく。
こじんまりとした枕に顔を埋めると、石鹸の微かな匂いが鼻をくすぐった。




規則的な時計の音が子守唄のように聞こえてきて、ロッドは誘われるままに
目を閉じる。意識が深みに落ちそうになったその瞬間、髪に差し入れられた
指に気付いて片目を半分開いた。





「…すまん、起こしたか」





人の部屋で唐突に寝始める客人の安眠を妨げたことに対しての謝罪は不要なんじゃ
ないかと思いながら、ロッドはくすぐったそうに笑った。





































堂々りの幸せ













































小競り合いが続いてついには内紛にまで発展した某国を混乱に乗じて落とそうと
目論んだのは当然マジックで、そのために派遣されたのが特戦部隊だった。
特戦部隊が出動するという情報が渡った時点ではまだその国は応戦するつもりだった
らしいが、いざ特戦部隊が到着すると国の疲弊を理由に驚くほどの速さで白旗を
掲げてきた。




マジックは内紛を解決したという強引な理由で莫大な謝礼金とその国の支配権を
手に入れご満悦だった。





が、上空に待機したままだった飛空挺の主はそれこそ烈火のごとく不満を撒き散らした。
暴れた足りないならともかく全く暴れられていないためその勢いは全くもって収まらず、
同じように血に飢えた中国人の部下とともに内紛の激しい他国へと旅立ってしまった。









本部に戻ってマジックに会いたくないと言うハーレムの要望通り、残されたGとロッドは
隊長が降り立った国の領空外ギリギリに飛空挺を飛ばしていた。



ようは突然降って湧いた静かな休日だ。




酒よりも騒ぐことが目的なのでは無いかと疑われるようなハーレムの酒宴にも、
ビデオの録画予約に失敗したくらいでロッドに八つ当たりしてくるマーカーも
今は居ないのだ。





「こんなに静かなのって久しぶりだよなー」
「ああ」






机に向かってハードカバーの小説を読んでいたGがぎしりとベッドを軋ませて
ロッドの横に座る。眠そうに目を擦っているロッドの手を取って口元に
引き寄せると、そのままぐいと引っ張られた。




バランスを崩してロッドの上に倒れこみそうになり慌てて両手をベッドに
突き出すと、力を受け止め切れなかったスプリングが尋常では無い音を立てた。
心なしかついた手も沈んでいる。



事態を把握してげらげらと笑い続けるロッドのわき腹を咎めるようにくすぐると、
陸にあがってしまった魚のように不規則な動きでGの手から逃げようともがき始めた。





笑いすぎで軋む腹筋に力を入れて体をねじり、枕と壁の間に大事そうに置かれていた
熊のぬいぐるみを乱暴に引っつかんでGの眼前にずい、と差し出すと攻撃が
ぴたりと止んだ。








手のひらに収まるには少し大きすぎるぬいぐるみの首をがっちり掴んで
ゆらゆら動かすのに合わせてGの視線も揺らめく。
目の前にいる恋人よりぬいぐるみに気を取られているGの反応に少し複雑な
気分になりながら、見せ付けるようにぬいぐるみを引き寄せ、柔らかい布地に
唇を押しつけた。






「ロッド」






予想どおり苦虫を噛み潰したような表情になったGを見てぶ、と吹き出す。
凛々しい眉毛の白熊のぬいぐるみはロッドから洗礼を受けてほんのり湿ってしまった。
無言でぬいぐるみを取り戻そうとするGの手からするりと抜け出してベッドを降りる。



抱きしめるのには少しボリュームにかけるそれを頭に乗せて器用にバランスを
取りながら必死にぬいぐるみを取り返そうとするGの手をのらりくらりとかわす。






「やめてーこの子は私の子よぉおー」






ただ逃げ回っているだけでは面白くない、と出来うる限りの高い声を出して
その場に崩れ落ちると、Gの動きがピタリと止まった。呆れているのかもしかしたら
本気にしているのか。後者だった場合早々にぬいぐるみを返してこの部屋から立ち去らなければ
自分の身が危うい。



ぬいぐるみを片手に持ったまま立ち上がり俯いているGを覗き込んで
様子を窺がおうとした瞬間、ロッドの視界がくるりと反転した。







目に映りこんできたのは光を反射するGの黒い髪と、無機質な鉄の板が打ち付けられた
天井。







床に叩きつけられる、と目を閉じたロッドが次に感じたのは
気の抜けたようなぼふ、という音と後頭部に当たる布の感触だった。








「あれ?」
「はしゃぎすぎだ、ロッド」







ぼさぼさになってしまったロッドの髪を梳きながらGが息を吐く。
すでに力の抜けた腕からぬいぐるみを取り上げると散々暴れたせいでついた埃を
簡単に払い、元の位置に据えなおした。




今更になって罪悪感に襲われてきたロッドが身を起こそうとすると、それを
阻止するように覆いかぶさってきたGと額がぶつかる。
お互い石頭というわけでは無いが、予測していなかった鈍い痛みにロッドがそのまま
くらりと再びベッドに身を沈めようとすると、Gの手が後頭部を支えた。



「った…何、どしたのG」




額の痛みを和らげるようにさすっていると、Gの手がゆっくりとそれをどけて
今度は優しく額を合わせてロッドの顔を覗き込んでくる。





ここでいきなり服を脱がされたとか、唇を奪われて舌を吸われたとか即物的な
行動に出られたらロッドも余裕をもって対応できただろう。しかし思春期の少女が
心に思い描くようなむずがゆい行為にはあまり慣れていないのだ。
何も言わずに見つめてくるGから必死に目を逸らして火照った頬の赤みに気付かれや
しなかとヒヤヒヤする。




こういう時ばかりは肌が白いのも考えものだ。
少し赤くなっただけでもすぐに表に表れてしまう。




「…Gってば」




自分が喋らなければあとは時計の音と、微かに響く飛空挺のエンジン音しか聞こえて
こない。熱があるわけでも無いのに、額をくっつけあって見つめあうのはいかがなものか。
しかも後頭部にそえられた手は微動だにしないので易々と逃げることは出来ない。
なんとか下半身をねじってこの状況から脱出できないかとも考えたが、それを見透かしたように
ロッドの足の間に割り込んだGの足がそれをさせない。






寡黙なのはGを構成する要素の一つではあるが、この状況で黙ったままだと
妙な冷や汗が浮かんでくる。あの熊のぬいぐるみを人質に取られたことがそんなに
不満だったのだろうか。






「…普段あれだけ俺を煽っておいてこんな時ばかり殊勝だな」







それを言うなら何故こんな時だけ瞳に劣情を滲ませて見つめてくるのかと
ロッドは心の中で反論した。獲物を狩る肉食獣の目で自分を見るのは血に飢えた
ハーレムとマーカーで十分だ。その二人は劣情まで含ませていることは無いが。




Gの舌がべろりとロッドの頬を舐め上げる。





「ちょ、G本当にどうしたんだよ!いつもとキャラ違ぇよ!」
「そうか」
「そうか、で済ますなッ」
「他に誰も居ないだろう」
「てっめいつも黙ってんのは騙しか!」









じたばたと暴れてもロッドの可動範囲は限られている。
Gの顔を押しのけようと両手で突っ張っても、頬の肉が歪んで変な顔になるだけで
位置は全く変わらない。それどころか歪んだ顔が絶妙に可笑しくてつい吹き出して
しまった。




腹を抱えて笑い出しそうなロッドの口を塞ぐようにGの唇が覆いかぶさる。




大口を開けたままの状態でいきなり気道を塞がれたロッドが驚いて目を見開き、
勢い良く口を閉じるのとGがぽっかり空いた口腔に舌を差し入れるのは同時だった。





「…ッ…!」





さすがと言うべきか歯に何か柔らかいものを感じた瞬間力を緩めた
ロッドのおかげで血は出なかったが、Gは口を手で覆い途中で器用に体を半回転させ、
仰向けになるようにそのままベッドに倒れこんだ。
ぎしぎしと壊れかけのスプリングが悲鳴をあげる。



やれやれ、とロッドは起き上がって時計を見た。
時刻はもう夕方の5時。真っ赤に染まった空と雲が小さい窓から見える。
同じ色に染まったベッドのシーツを見ながらだらりと寝そべるGの上に馬乗りになって
ロッドはにんまり笑った。






「Gぃ、形勢逆転だぜぇ」
「…」
「オラ舌出せよ。舐めて治してやっから!」






主導権を奪ってしまえばこっちもの、と目をギラギラと輝かせたロッドが
挑発するように舌をでろ、と出して悪戯を覚えた子供のように嬉々として迫ってくる
姿にGはこっそり苦笑した。



最近脂肪がつき始めて弾力性があがったロッドの太ももにがっちり体を
ベッドに縫い付けられながら自由になる上半身を半分起こしてロッドの蜂蜜色の
髪に手を差し入れ、引き寄せる。









ゆっくり過ごすはずだった休日はそうもいかなくなってしまった




























































































「隊長、Gとロッドがおっぱじめたのでもう少し殺っていきましょう」
「なんだよ結局ヤんのかよあいつら」





ぶはぁ、と大量の煙を吐き出して豪快に笑い出したハーレムの後ろにぴたりと
マーカーが寄り添いながら、耳に当てていた受信用機材を投げ捨て塵にする。
中の部品がある程度の衝撃を受けたら盗聴器も爆発する仕組みに改造したお遊び用の
機械だ。




「まぁヤるかどうかは解りませんが。南東の方角に人に気配が残っています」
「んじゃ行くかぁ」
「はい」
















散々鬱憤を晴らして二人が帰ったのは夜も更けたころで、何食わぬ顔で
ラウンジで酒を飲んでいるGとロッドに向けられた意味ありげな視線の意味を
必死に考えることになる。









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19999HITありがとうございました!白那様のみお持ち帰り可です。



Gロドで仲良く休日を満喫している話だったんですが…途中からやらしい事
考えましたすいません。ロ、ロッドだからと言うことで…!;;
いや今回はGにも頑張ってもらったんですが。


何が堂々巡りって、イチャイチャ→うっふんあっはんのパターンがです。古くないです。


2005.01.14up
s
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