「総帥辞めちまおうかなー」


思わず、動きを止め、その横顔を凝視した。
本気とも冗談ともつかない風に、言ったりするから。
まじまじと。
視線に気付いたか、彼はこちらを見ると、小さく噴出した。
「何て顔してんだよ」
「・・・本気で、言うてますの?」
眉を寄せ、訝しげに問えば、考えるような仕草の後、にぃ、と口角を上げた。
底意地悪い笑顔。
「冗談だよ、冗談」
そう言って、人の頭を軽く叩いた。
「性質の悪い冗談は止めとくれやす。心臓に悪い・・・」
「じゃあ、本気だったら?」
「別に。辞めたらええ」
短く告げ、立ち上がる。
その裾を、掴む不埒な手。
振り解けば、どんな顔をするか、少々気になるところだが、止めておく。
下手な好奇心は眼魔砲の一撃では済まない。
「冷てぇなァ」
「そォ?」
「いつもみたいに裏声で、いやどすぅとかいわねぇの?」
「・・・・・・・・・・」
「あ、怒った?」
「呆れた」
呆れた呆れた呆れ果てたあまりにも馬鹿馬鹿しくて笑いもおきへんくらい呆れた呆れたついでにむかっ腹がたった―――と、ここまで言えば、良心痛みます?
一息でそこまで言う。
それに対する反応はと言えば。
無言で、耳を塞ぎ、目を閉じて、素知らぬ振りをする始末。
ついでにお鼻もふざぎまひょかと手を伸ばせば、ようやく返される皮肉。
「どこぞの師匠に似てきたな」
「それはそれは、どォも。褒め言葉として頂きますわ」
そのまま立ち去るつもりだったが、容易く捕まった。
元より、逃げると言う選択肢がなかった為、腕の中に納まりながら、打開策より溜息がひとつ出た。
人を抱き枕みたいに・・・―――
ちょうどいい部分を探すように。
寝返りを打つように首を何度か動かし、ちょうど収まりよい場所が決まったらしく、そのままで落ち着いた。
暑い。
空調管理万全の団内では在り得ない台詞。
あつい。
しかし、それに耳を貸す様子もなく。
無為に時間が流れる。
「どっか行かねぇか?」
「どっかって?」
「どこでも」
肩の辺りにある頭に手を伸ばし、髪に指を絡めながら。
では―――
「いっそ浚ってくれますか?」
静かに仕掛けた誘いに。
どこか気だるげに頭をもたげ、どこに・と尤もな質問に、
「地獄」
やさしく答える。
にこりと微笑みかければ。
これぞ、味方から鉛玉喰らった軍人さんのお顔。
ええ男が台無しやと笑ってあげましょう。
「冗談ついでに、ええでっしゃろ?」
冗談・の部分を強調したのは、きっとわざと。
それに気付かぬ男ではない。
「冗談だったら、どこまで許される?」
「笑い事で済ませる限りやったら」
「なるほど」
目配せ。
準備を兼ねて、襟足に手が伸ばされて、位置が定まる。
ゆっくりと近付き、触れる瞬間に。


「シンちゃーん、会議はじまちゃってるよ〜。早く行かないとキンちゃんが怒っちゃ・・・・・・・何してるの?」
「「なにも・・・!」」
突き飛ばされ、尻餅をつきながらも、否定はしておかなくてはならない。
「そう?」
神出鬼没が青の一族の特技なのだろうか。
見ている方が気持ちよいくらい爽快に現れたグンマは、
「顔赤いよ?」
などと、はっきり言ってどうでもいいことを聞いてくれる。
当然、その質問は黙殺された。
早く来てね〜、と暢気に退場するのを見送ったところで、腰の痛みに気付いた。
尾骨を打ったらしく、じんじん痛む。
「ん」
目の前に、手が差し伸べられる。
そして、刹那の浮遊感。
腕を掴まれ、3,2,1で一気に持ち上げられたのだと、知る。
自分の足で立っているという感覚が掴めず、よろけた。
手を伸ばした先に相手の胸があり、いつ、この手をどかすか悩むことになりそうだと、くだらないことを思う。
しかし、それは杞憂に終わり。
手とは言わず、躯ごと抱き寄せられた。
静かに、耳に注がれた言葉は。
声は、あまりに弱弱しく。
何か言う前に、その唇が触れた。
冷たい感触に、強く目を閉じれば、より鋭い感覚が、離れる熱の軌道を辿る。
計りきれない時間の中で、世界が元の軸に戻ったような錯覚。
「時間切れだ」
そう言うと、彼はさっと踵を返してしまった。
「・・・いってらっしゃい、総帥」
「おう」
ばいばい、と手を振り、見送る。
なんの躊躇いもなく閉められた扉を見て、何をしているのだろうと重い気分に陥る。
ぎこちなく折りたたんだ指を見つめ。
とん、と手の甲を唇に当てた。
冷たい唇、だった。
一体何に脅え、抗っているのか、知る権利は自分にない。
知る事のない、彼の重圧。
それをほんの一瞬。
温度として、感じた気がした。


いっそどこか遠くに、逃げちまわねぇか―――


「―――・・・できへんくせに」
苦い呟きは、ただひとりの為だけに、あった。





no blue eyes blue










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ひつじのあゆみ のひつじ様からこっそりいただきました…!

これですよ!シンアラはこれなんですよ!
甘くて切なくて苦いんですよ!!!(落ち着け)
本人たちの間だけで交わされる会話とか叶う予定の無い約束事とか大好き!もう!

顔がニヤけて止まらない…ひつじ様、素敵なシンアラありがとうございました…!!

2004.08.17
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