「アラシヤマァアアアアアア!」
「ぎゃああああああああああああああああああ!」







びりびりと周囲を揺らす怒号のような叫びと、それに呼応した
まるで断末魔のような叫び声。ゆらめくなんて生易しいものではない、
全てを一瞬で無に帰すような激しい青い炎に抱かれる赤く弱弱しい炎


異常な光景ではあったが、元殺人集団のガンマ団内ならそれもまた
日常として処理される。が、今回ばかりは見物人も異常だと感じていた


此処は集中治療室で、業火を受けているのは2ヶ月も意識を失っていた
アラシヤマで、その業火を生み出しているのは意識を失う原因の
マーカーだったのだ



「あんたたちッ此処は病室です、愛の営みはもっと静かにやんなさい!」







早々に作動したスプリンクラーにより衰えると思っていた炎の勢いは
時間を増すごとに増していき、あきれ返った高松の言葉によってようやく
その勢いを弱めた


























いのがお好き




















奇跡的に無事だったベットの上、鬼のような形相をしたマーカーの腕に
しっかり拘束されたアラシヤマがさめざめと泣いていた。全身に巻かれていたはずの
包帯はすっかり焼け落ち、その場に灰となって散らばっていた


幸いにもその包帯は皮膚の移植手術のものだった。これで火傷の緊急処置の包帯が
焼かれなどしていたら醜くただれた皮膚に全身を覆われた京都人が晒されることに
なっていただろう。


それはグンマ様の精神教育上良くない、と鼻血をだらだらと零しながら安堵する



それにしても、この二人は一体何をしているのだろうか?
アラシヤマが意識を取り戻したのは今朝のことだ。見舞いが誰も来ない中
彼は静かに目覚め、自分が生きていることを不思議に思っていたようだった。


内線で新総帥に連絡するとそうか、とだけ返されて切られた。
その声が泣きそうだったのを考えれば、あれが精一杯だったのだろう。
様子を見に来ることは無かった。


一応、と空の上に居るハーレムに連絡を入れるだけ入れておいた
対峙していたはずなのに、電話越しの彼の声は随分と喜びに満ちていて、
後ろからは祝杯をあげる声まで聞こえてきた






そうして、いつまでも窓の外の空を見つめていたアラシヤマが
あくびを一つ二つ漏らした頃、急に扉が開いた






急いで走ってきましたと言わんばかりの赤い顔をした中国人が、
上がる息を必死に殺し、平静を装いながらカツカツと歩を進め、
アラシヤマのベットの前に立った


二度目だが、此処は集中治療室。
医者以外立ち入り禁止、勿論面会謝絶の札も下げておいた






その目で師の姿を確認したアラシヤマは、ぐしゃりと顔を歪ませた
迷子がやっと親を探し当てたような、ああ泣くなとなんとも無しに思っていると
中国人が思わぬ行動に出た



「アラシヤマ…」



そこで抱きしめるとは思わなかった
多分一番びっくりしたのはアラシヤマ本人だろう、目を白黒させて
情報処理に追われている。漫画だったら頭の上に数百は疑問符が出て面白いのに、
と他人事のように思っていると、問題の中国人がにやりと笑った



















「アラシヤマァアアアアアア!」
「ぎゃああああああああああああああああああ!」











冒頭に戻る。
落ち着いたらしい中国人はそれでも弟子を離さない
両腕に抱き込んでそのまま心中でもするつもりだろうか?


「あのねぇ、マーカー。彼は一応目覚めたばっかの重症患者ですよ」
「大丈夫です、私の弟子ですから」
「だからですよ。病室に居れば悪化したところでどうってことないですけど」
「何か問題でも?」
「総帥に呼び出されたら、血を吐いてでも行くでしょうから。
 貴方がハーレムの命令には絶対服従のようにね」



む、とすると同時に腕の力が更に強まったらしく、アラシヤマの口の端から
ぶくぶくと泡が吹き始める。もうそろそろドクターストップでもかけようか、
と逡巡していたところでマーカーがアラシヤマを離した


ぶつぶつと総帥への不満を垂らす彼の姿は普通の、血の通った人間に見えた
パプワ島へ行く以前の彼なら迷わず弟子を連れ出して修行し直して
いただろう


「マーカー、貴方は皮膚移植なさらないんですか?」







アラシヤマが放った極炎舞の炎は師の頬を抉り、一生残るであろう傷を
残した。勿論それは一般的な医療技術ではの話であり、高松の手にかかれば
その程度の傷は跡形も無く消えることはアラシヤマで実証済みだ


今日始めて本部に寄ったマーカーの左の頬は、醜い隆起で覆われて
遠目に見るとそこに炎が宿っているようだった。


「お師匠はんの顔に傷がぁー」
「うるさいぞ」


せっかく開放されたと言うのに、アラシヤマは師の頬のケロイドを見つけると
よろよろとその傷を指でなぞって泣き崩れた。その傷を作った本人なのに
妙に他人事のような会話だ、と高松は思う





「ハッ!顔に傷付けたらお嫁に行けまへん、お師匠はんわてが責任取りますさかいに!お嫁にきておくれやすッ!」
「この馬鹿弟子がッ!誰が貴様の元になど嫁入りするか、貴様が婿に入れ!」
「へぇ!ほなさっさと結納済ませまひょ!」
「桐の箪笥を持ってこんと認めんぞ!」
「なんやてッ!?それじゃあ嫁入り道具みたいやないのッ!」





頭が悪そうな会話を始めた二人の額をカルテの角でカチ割りたい衝動に駆られる
どうしてそんな真面目な顔でそんな馬鹿らしい会話を出来るのか。
真面目に話しているのだからそれがくだらないことだとは露にも思ってないだろうが、
此処が集中治療室で個室じゃ無かったら速攻でやめさせていたところだ


アラシヤマは総帥のことを愛してるのかと思っていたが、あれは
本当に歪んだ友情と言うだけだったのだろうか?
なんとなく、ストーカー被害を被ってきたシンタローが不憫に思えてくる。



考え事の最中にも二人の勢いは止まらず、周りの空気が熱を帯び、陽炎まで揺らめいてきた
どうやら二人の興奮のせいで制御しきれない炎が熱気となって放出されているらしい
温度計を見ればすでに40度。砂漠じゃあるまいし、精密機械もあるのだから
もう少し自重して欲しい。


新婚旅行は中国の処刑場巡りか霧のロンドンミステリーツアー、
どちらにするかなんて心の底からどうでもいい。
興奮する二人は気づいていないが、アラシヤマの穴と言う穴から血が噴出している
体がもう持たないらしい。



「お二人とも、ドクターストップです。それ以上無理させたら死にますよ」
「そうですか」



案外あっさり冷めた二人は、滾って抱きしめあっていた体を離した
アラシヤマは大人しくベットに横になり、マーカーはその端に腰掛けて
治療のため晒されている右目に口付けた



「仕方ない、また来る」
「へぇ、お師匠はん」



そう微笑みあう二人を見て砂糖を吐けそうな自分に嫌気がさす
ああ、どちらにしろこの二人は一緒にいるだけで多重の意味で熱いのだ
きっと第三者が間に入ったところでそれを糧により一層強く燃え上がるのだろう
シンタローあたりは油を吸った紙といった所か、本気で不憫になってきた


また来る、と言ったからにはさっさと出て行って欲しいのだが、
マーカーは弟子から離れようとしない。発火しているわけでもなく、
見つめ合っているだけならなんら問題は無いのだが




ああ、問題があった。
目の前の甘ったるい光景に気を取られて気づかなかったが、背後に
凄まじい程の不機嫌オーラが充満している。背後の気配に気づかない
なんて年だろうか、きっと後ろの彼は自身のプライドと戦って此処まで
来たのだろう。






















「アラシヤマァアアアアアア!」
「ぎゃああああああああああああああああああ!」
























ああ、これほど強烈な既視感も珍しい。
眼魔砲を放つシンタローとそれを自身の炎で相殺するマーカー、
その中心で発火しながらも嬉しそうに笑うアラシヤマ。








ああ、本当に熱い













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マカアラでシンアラ、でもシンタローは報われない。
アラシヤマが笑っていたのは師匠に守ってもらったからか、
それともシンタローに嫉妬されたからか。


あっはっは!(笑って誤魔化す)
嫁姑戦争。(嫁=シンタロー 姑=マーカー)
あ、アラシンになっちゃった

2004.08.16up
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