「では私は資料室に居ますので、皆さんは宿に戻っていてください」
明日の朝には戻ります、と言い残して資料室に入っていったジェイドを見送って
一向は宿へ行こうと踵を返した。
森の奥深くで遭遇した魔物が使った譜術が見知ったものでは無く、その正体と影響を
調べるためだとジェイドは言っていた。資料室を使用する許可を得るために謁見した
陛下に遊ばれているジェイドは見物だった。
「なぁガイ、俺思ったんだけど」
「ん?」
ふと足を止めたルークにつられてガイも立ち止まる。
前を歩いていた仲間がこちらを振り返ったが、先に言っててくれと身振りで示して
ルークに続きを促した。
「ピオニー陛下ってジェイドの事好きなのかな?」
「……………………ルーク………………………」
語るルークの目は至って真剣だ。
しかも割りと大きな声で言うものだから周りの兵士がこちらをチラチラと見ている。
苦笑しつつ人気の無い場所に移ろうとルークの手を取ると、ずしりと背中が重くなった。
肩に、人の体温。
「よぉお前ら」
耳元で響く噂のピオニー9世陛下の声。
竦みあがったガイとは逆に、ルークは丁度良いとばかりに口を開いた。
「陛下、あの」
「わー!ルーク、お前なッ頼むから俺の立場も考えてくれッ!!」
「んぐ?」
慌てたガイに口を塞がれたルークがくぐもった声を出してもがく。
「陛下、ちょっと外に出ませんか!」
「おう」
じたばたと暴れるルークを引きずって宮殿から出ると、後ろからニヤニヤしたピオニーが
やって来る。ようやく自由に息を出来るようになったルークが咳き込んだ。
「申し訳ありません陛下、無理にお連れして…」
「別に中でも外でも良いけどよ、大丈夫かルーク?」
「げほげほッ…だ、大丈夫です…」
「で、さっきの話だが」
「陛下っ!?」
「俺は隠そうなんて思っていないんだがな、ガイラルディア」
「…………………そうですか……」
もう好きにしてくれ、と後ろを向いてうな垂れてしまったガイを横目にピオニーに向き直る。
重大な告白のはずなのにピオニーはけろりとしていて、年を重ねれば誰でもこうなるんだろうかと
疑ってしまう。
「ジェイドには俺が惚れてるなんて言うなよ?ルーク」
「え?」
隠そうなんて思っていないと、先ほど言ったばかりなのに
「あいつに弱み握られちゃあ終りだからな」
「弱み…?」
「惚れた弱みって言うだろう?年を取るとどうも意固地になる傾向がな」
「はぁ…」
「幸いあいつは俺がまだネフリーの事を忘れられないと思っているから好都合だ。楽しむさ」
飄々と話すピオニーに圧倒されつつガイを盗み見ると、まだ後ろ向きのままブツブツと何か
ぼやいていた。
「まぁ俺もガイも片思いd」
「だぁああああああ!!!」
ガッ、と鈍い音と共にルークの両耳が塞がれた。さすがに皇帝の口を無理矢理塞ぐ暴挙には
出られなかったようだ。
「ガイ…」
ひりひりする耳を擦ろうともガイの両手が邪魔でそれもままならない。
「陛下ッ」
「なんだよ、言ってなかったのか?」
「俺にも色々あるんです!」
二人の会話が雑音にしか聞こえないルークが乱暴にガイの手を振り払う。
「なんなんだよ、もー!」
「ジェイドにバレたら大変だ、って話だよ」
肩を竦めて言うピオニーを訝しげに見た。
ガイは冷や汗をかきながらそうですねぇ、とうそ臭い返事をしている。
「陛下はジェイドに告白しないんですか?」
「しないさ」
何もかも捨てて人を愛するには色んな物を背負いすぎた。
濃くなったピオニーの笑みに何かを感じ取ったのか、ガイがルークを無理矢理引っ張って
宿屋へと向かう。振り返って、目線で謝られた。
背負う物の重さはガイとルークだって同じ事だ。いつかそれに気付いて関係が崩れる事が
無ければ良い、と思う。
「…若さがあれば何とかなるさ、なぁジェイド」
動かず背後の気配へと話しかける。
自分より高い影がするりと動いて、隣で止まった。肩を竦める影に浮かべていた笑みが深まった。
「気付いてたんですか」
「そりゃあな」
不自然に会話が途切れる。飛沫を吹き上げ巡る水の流れを見つめながら、ピオニーは
隣に佇むジェイドを見やった。
「どうして放っておいたんです?」
聞かれている事に気付いていたんだろう、と言外に含ませてくるジェイドにまぁな、と
適当に返事をした。
隠し通すために彼の存在を気付かせる事は簡単だっただろうけど、それでは話を持ち出した
ルークが気に病むかもしれない。
隠し通すと言ったがジェイドはとうの昔に気付いているだろう。
「陛下、聞いてます?」
「…小さい頃からずっとサフィールが羨ましかったよ、俺は」
目を見開いてこちらを見たジェイドに、そんな顔も出来るのかと言ってみる。
からかわれただけだと思ってくれるだろうか。
誤魔化しただけだと悟られているだろうが、それでも彼は流してくれるに違いない。
背中に突き刺さった視線が徐々に和らいでいくのを感じて、ピオニーは薄っすら微笑んだ。














2006/01/22 up






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