一度自分を見つめなおして変わろうと決めて、そうしてから初めて会った
恋人は酷く冷たい目で俺を見た。恋人というのも厚かましいかも。きっと、あの時に
完全に見捨てられてしまったんだ。





ナタリアとイオンが捕まったから助力を、と言われて来たダアトで一度休憩する事になった。
焦って突入して失敗したらどうしようも無くなるしな。
てっきりガイは俺と居てくれると思ったのに、ティアと二人で道具の補給に街に出てしまって
ジェイドと二人取り残された。
「…」
休憩だけだからと部屋は一つしか取っていない。
窓辺に置いてある椅子に腰掛けながら、何やら分厚い本をのページを規則正しい速さでめくっていくジェイドを
横目でちらちらと見つめる。
空気が、重い。
本当は聞きたい。俺たちもう終わっちまったのかって。
当たり前でしょう、と返されて先ほどのようにキツい嫌味をお見舞いされるかと思うと舌が引き攣って、
喉から空気が妙な音を立てて出た。膝の上で握った手が小刻みに震えている。
「ふ、二人とも遅いな」
「そうですね」
勇気を出して話しかけて返ってきた言葉は事務的なモノで、思わず涙が滲んだ。
出口に近いベッドにジェイドに背を向けて腰掛けて、そうでもなけりゃ泣きそうなのがバレてまた散々嫌味を言われる。
「俺…」
何を言おうとしてるんだろう、俺。
もう一度やり直そう?まだ好き?
あれだけの事をして、自分の責任を放り出して喚いた俺にそんな資格が本当にあるんだろうか。
「俺、外で二人を待ってる…」
以前の俺だったら、傲慢なまでにジェイドに愛を与えてもらおうとしていたはずだ。
それにジェイドがやれやれ、って渋りながら受け止めてくれて…
こんな所まで変わらなくて良いのにな。すっかり思考が後ろ向きだ。
それが俺の罰だろうか。
「待ちなさい」
ドアノブに手をかけた所で、ジェイドに呼び止められる。
久しぶりにジェイドから声をかけられた。また泣きそうだ。
ちょっとは希望があるかもしれない。前みたいな関係にはなれなくても、せめて友人の枠には収まりたい。
「な、何…?」
極力いつもどおりに出そうとした声は震えて上ずっていた。
「失礼ですねぇ、私は殺人犯か何かですか?そんなに怯えて」
「ちがっ…!」
「そうですね、殺人犯は貴方でした」
「ッ」
心臓が、握りつぶされたかと思った。
希望なんて何処にも無かった。俺はまだ、自分に都合の良い事ばっかり考えて…
どうしよう、どうしたら許してもらえるだろう。やっぱり、死ぬしか道は残されて
いないんだろうか。
ジェイドが椅子から立ち上がって、俺が座っているベッドの反対側に腰掛けた。
ベッドが二人分の重みで軋んだっきり、部屋は無音になってしまった。
心臓の音が聞こえないか不安になる。そんな事は無いだろうけど、体に触られたらきっと気付かれる。
それほどまでに心臓が暴れている。
このまま止まってしまえば
「だからと言って、自分まで殺そうとか思っているんじゃ無いでしょうね」
「っジェイド…」
「おや図星ですか」
くすり、とジェイドが笑った。
それだけで俺の心臓は落ち着きを取り戻し、すぐに元通り規則正しく血液を体中に送り始めた。
現金だな、俺。
こんなんで、ジェイドに完全に捨てられてしまった俺はどうなっちゃうんだろう。
「ちょっとこっちに来なさい」
「う…ん」
ジェイドの声にちょっとだけ温かみが生まれていた。
言われた通りにジェイドの目の前に突っ立つと、強引に膝の上に座らされた。
前だったら、強引だったのは俺の方だったのに。ジェイドから。
「…ッ」
そう思ったら急に恥ずかしさがこみ上げてきて、ジェイドの胸に頭を押し付けて
やり過ごした。…あ、俺から触られるの嫌だったらどうしよう。やっぱり離れた方が
「こっちを見なさい、ルーク」
離れる前に、顔を上げさせられた
「あ…」
「泣きそうですね。あれだけの事をしたのに、この程度で泣くんですか?」
「…ごめん…」
ジェイドが盛大についたため息が俺の前髪を揺らす。
怒らせちゃったかな。でもこれしか言えない。出来るだけ償うって、決めたけど今はこれしか出来ない。
「ムカつきますね」
「あ、ご…ごめん…」
またため息
「一度は貴方との関係を終わりにしようと思ったんですが」
来た。
なんでガイとティアが俺たち二人を宿に残したのか解らなかったけど、きっとジェイドが頼んだんだ。
この事を俺に言うために。
俺なんかと一時とは言え恋人同士だったなんて恥ずかしいんだろうな。
だからあえて二人っきりになったんだ。
知りたかった事を聞く前に現実を叩きつけられてしまった。
「…前は人の意見に流されてばっかりでしたが」
「え」
「今度は自己完結ですか。悪い方ばかり進みたがりますね、貴方は」
にこり、と笑ったジェイドの顔に険悪な様子は無かった。
それどころか初めて見る表情だ。嘲りが少しも含まれていない苦笑なんて。
「…ジェイド」
「愛してると言ったところで無駄でしょうかね、今の貴方には」
「ッ!そんな事ない!」
噛み付くように反論した。冷たくなった指先に一気に血が巡る感覚。
心臓がさっきとは違った意味を持って暴れ始めた。
どうしよう、嬉しくて恥ずかしくて

泣きそう

「…結局泣きましたね」
楽しそうに言うジェイドの指が目元を拭っていく。涙が染みこんで色濃くなった
手袋の一部を見て、ああ本当に自分は泣いているんだと思った。簡単に泣きすぎだとか
思われてたら。
「余計な事を考える前に、さ」
「え?」
「おやせっかくの愛の告白を無碍にするつもりですか?」
「あ、愛…」
体中の血液が顔に大集合だ。ニヤニヤと笑って俺の反応の楽しんでいるあたり本当に
意地が悪い。…でも、前と一緒だ。
そう思うと口元が緩んでしまって、ジェイドに訝しげな顔をされてしまった。
「おや、クサいセリフがお好きですか。では」
「いいいいいいいらねぇ!寒ィッ!!」
ジェイドの事だ、皆の前でも恥ずかしげもなくむず痒い言葉をベラベラ吐き出しそうだ。
なんでか最終的に怒られるのはいつも俺だ。納得いかない。
最高速で首を横に振って拒絶した俺を見てジェイドが腹を抱えて笑い出した。
声こそ出していないが、震える肩はもう痙攣と言った方がしっくりくる揺れだ。
「いい加減笑うのやめろッ」
サラサラと肩口から流れ落ちてくる髪を掴んで抗議すると、涙目で口元を引き攣らせた
ジェイドと目が合う。
「いやあ失礼しました、なんかネジ式のおもちゃみたいでつい」
「…」
全く悪いと思っていなさそうなジェイドをしばらく睨みつけてから、はたと今の状況を
思い起こす。
いつまでも膝の上に乗っていたら後々からかわれるネタになるかもしれない。
「あ、こら」
降りようとした俺の手をジェイドが掴む
「お返事はどうしたんですか、ルーク」
「へ?」
「私の愛を拒絶するんですか?残念です」
大げさな動作でやれやれと息を吐くジェイドに、カチンと来て気付けば胸倉を掴んで、
乱暴に唇を頬に押し付けた。キスなんて可愛いもんじゃない。唇による打撃だ。
実際ちょっと歯が当たってジェイドは顔を顰めた。
「…」
「…」
なんで無言なんだ。
もしかして何か間違ったんだろうか。家族とかでも愛情表現でするってガイが言ってた
気がするんだけど。
「…ぶはッ」
「な…なんで笑うんだよッ」
やっぱり間違ってたのか。
一度は収まったジェイドの笑いは再び、しかも割り増しで戻ってきてしまった。
「いえ、実に貴方らしいと言うか…」
「なんだよそれ…」
「愛してると言ったんですよ」
「ッ!…お、俺…俺も愛…」
「無理しなくて良いですよ、今言われたらしばらく笑いが止まりませんから」
「…」
いよいよベッドに突っ伏して大声で笑い始めたジェイドに、悔しくなってぼす、と
わき腹を叩いてみた。当たり前だけど一度ツボにハマったジェイドがそう簡単に
戻ってくるはずも無く、酸欠を起こして声が出なくなるまで放っておくしか無かった。

なのにジェイドは二人が帰ってくる気配を感じるやいなや、2、3度の瞬きと一度の深呼吸だけで
すっかり元に戻ってしまった。
馬鹿な表情を見せるのも愛情表現の一つなのか、と俺が察するのはしばらく後のこと













2006/01/03 up








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